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男装を強いられ男として生きてきた公爵令嬢は、2回目の人生はドレスを着て、令嬢ライフを謳歌したい  作者: 江本マシメサ
第三章 王都で起こる事件について

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アマーリアについて

 翌日、廊下で教師と話をしているコンラートの姿を発見した。

 何か問題でもあったのだろうか。必死の形相で何か訴えているように見えた。


「大切な、たった一人しかいない幼馴染みなんです! どうか、お願いします!」

「そうは言っても、調査は騎士隊が始めているだろうし」

「何もせずに、のんきに授業を受けることなんでできま――うっ!!」


 コンラートは顔色を悪くし、口を押さえる。

 一瞬、ふらついたように見えたので、とっさに肩を支えた。


「大丈夫か!?」

「え、ええ」

「保健室にいったほうがいい」


 教師は私に連れて行くように言ってから去って行く。


「なんなんだ、あの先生は」

「いえ、私が悪いんです。急いでいるところを引き留めたので」


 肌から血の気が引いているように見えたので、応急処置として回復術をかけた。


「祝福よ、かの者を癒やしたまえ――」

「す、すみません」

「気にするな」


 顔色が少しよくなったのを確認してから、コンラートを支えつつ保健室へとやってきた。

 保険医の先生はコンラートを見るなり、「ああ、大変だ」と言って肩を貸してくれた。

 なんとか寝台に横たわらせることに成功する。


「ケルントン君、薬は?」

「あります」

「早く飲んだほうがいい」


 保険医の先生はコンラートが薬を飲んでいることを知っていたようで、水を運んできてくれた。

 彼は懐から薬のケースを取りだすと、十粒はあろうかという錠剤を一気に飲み干す。

 保険医の先生はコンラートの額に手を当てて熱を確かめたあと、問いかける。


「このあとどうする? 少し休んで、寮に戻る?」

「いえ、薬を飲んだので、具合がよくなれば授業に参加したいです」

「わかった。でも、無理はしないでね」

「はい」


 ホームルームが始まるまでまだ時間があったので、しばし付き添う。


「すまない、先生との話を聞いてしまって」

「いえ、どうかお気になさらず」


 どうしたのか聞くつもりはなかったのだが、コンラートは事情を打ち明けてくれた。


「実は、親しくしていた幼馴染みが行方不明になってしまいまして」

「行方不明者だって!? 実は私の花嫁準備学校で一緒だったクラスメイトも姿を消したんだ」

「もしや、同じ人物なのでは?」

「コンラート、アマーリアは君の幼馴染みなのか?」

「はい」


 驚いた。共通の知り合いだったなんて。


「優しい人でした。体が弱い私を心配し、よくお見舞いに来てくれたんです」

「そう、だったのか」


 一度、コンラートと婚約する話も浮上したという。

 けれども病弱なことを理由に断ったようだ。


「まさかこんなことになるなんて……。もしも婚約を受け入れて結婚していたら、別の未来があったのでしょうか」


 コンラートはもしかしたら、アマーリアのことが好きだったのかもしれない。

 そう思うのも無理はない。アマーリアは明るく朗らかで、友人も多く、誰からも好かれるような魅力溢れる女性だったから。


「外出許可を取って探しに行きたかったのですが、先生に無理だと言われました」


 コンラートが外出許可を出すようにと訴えていた相手は、学年を統括する教師だった。

 意地悪で許さなかったわけではないだろう。

 アマーリアについてはこれまで散々親族や騎士隊が探していたに違いない。ああいう記事が出たということは、探し尽くしても見つからなかったということだから。

 それに何か事件が絡んでいたとしたら、関わるのは大変危険である。

 さらにコンラートは体が弱く、このとおり、少し興奮しただけでも倒れてしまいそうになっていた。

 簡単に許可など出せなかったのだろう。


「彼女の捜索については、私の父にも頼んでおこう」

「リウドルフィング公爵、ですか?」

「ああ。犬のように鼻が利くから、見つかるかもしれない」


 絶望の淵に立たされた表情を浮かべていたコンラートだったが、少しだけ笑みを見せてくれた。


 ◇◇◇


 昼休み、行方不明になったアマーリアを思ってぼんやりしていたら、クラスメイトがあげた「きゃあ!」という声でハッと我に返る。

 いったい何があったのか、と思って顔を上げたら、目の前にヴィルオルがいて驚いた。


「お前は、どうして俺を無視する」

「無視? 私が?」

「ああ、教室の外から読んでいたのだが」

「すまない、ぼーっとしていて気付かなかった」


 ヴィルオルは呆れたようにため息を吐く。


「こんなところまでやってきて、どうしたんだ?」


 騎士科のヴィルオルは別の階である。わざわざ階段を下りて、魔法科の教室までやってきたのだ。


「いや、今日のクラブに参加するかと思って」


 正直、アマーリアのことが気になってそれどころではない。

 けれども今、私にできることなんてないだろう。

 寮であれこれ考え事をするより、ヴィルオルと一緒にクラブ活動をしていたほうがいいのかもしれない。


「参加するつもりだ」


 そう答えると、ヴィルオルの表情がパッと明るくなる。


「わかった。だったら放課後、迎えにやってくるから」

「いや、わざわざ来てもらうのは申し訳ない」

「気にするな」


 ヴィルオルは気にしなくても、私が気になる。

 クラスメイト達の注目を一身に受けながら、そう思ったのだった。

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