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男装を強いられ男として生きてきた公爵令嬢は、2回目の人生はドレスを着て、令嬢ライフを謳歌したい  作者: 江本マシメサ
第三章 王都で起こる事件について

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竜について

 聞き違いかもしれない。そう思って聞き直す。


「待ってくれ、今、なんと言った?」

「竜大好きクラブに所属しているのは、俺とお前だけだと言った」

「……」


 どうやら聞き違いではなかったらしい。

 いったいどうして、部員が二名だけというクラブが存在するのか。


「たしか、クラブとして認められるのは、部員が十名以上だと聞いた覚えがあるのだが」

「ここは貴族高等学校創立以来、初めてできたクラブで、部員がおらずとも存在することを許されているようだ」

「そ、そうだったのか」


 ちなみに、過去に所属していたのはバーベンベルク公爵家の者ばかりで、他に部員はいなかったという。


「喜べ。バーベンベルク公爵家の者以外で入部を許されたのは、お前が初めてだ」

「なるほど、そうだったのか」


 これまで所属していたバーベンベルク公爵家の者達は、未来の公爵に気に入られようと入部希望を出してくる者達に、竜への熱い思いを聞かせるように訴えた。


「ただ、我々バーベンベルク公爵家の者達が満足できる竜への気持ちを言えた者はいなかったという」


 今日もヴィルオルが部長を務めるクラブに入部希望がやってきたものの、皆、竜への特別な感情など持っておらず、認めることができなかったという。


「先ほども十名ほどやってきたのだが、てんで話にならなかった」


 入学式の日も三十名ほどの入部希望が殺到したようだが、すべて話を聞いた上で断ったようだ。


「さっそく活動を始めよう」

「あ、ああ」


 部員はなるべく少ないほうがありがたい、と思っていたが、ヴィルオルと二人きりというのは想定外である。

 彼とは距離を取るつもりだったのに、自分から至近距離に突っ込んでいってしまった。

 私の入部を喜んでくれているので、この話はなかったことに、なんて言い出せるわけもなく……。


「何かしたいことはあるか?」


 手っ取り早く邪竜について教えてくれ! なんて言えるわけもなく。


「竜の種類について、実は詳しくなくて、それらが簡単にまとめられた書物はあるだろうか?」

「もちろん、あるとも!」


 ヴィルオルはどの内容の本がどこにあるかというのも把握しているようで、迷いのない足取りで本棚に近づき、一冊の本を引き抜いてくる。


「これがもっともわかりやすいだろう」


 それは絵本のように大きく、ページ数も少ない本だった。


「表紙に描かれているのは、白銀の竜だな」

「ああ、そうだ。竜種の代表とも言えよう」


 ヴィルオルは眼鏡を取りだしてかける。


「そういえば、昼休みにも眼鏡をかけていたな。目が悪いのか?」

「悪いというか、竜族の習性というか」


 なんでも竜族は遠くはよく見えるものの、近くが見えにくい性質があるらしい。


「遠視というわけか」

「まあ、そうだな」


 一応、眼鏡がなくとも文字を読んだり、絵を見たりできるものの、はっきり見えるわけではないので、視力を補う目的で眼鏡をかけるようだ。

 一度目の人生では、ヴィルオルが眼鏡をかけた姿を見たことがなかったので、意外に思ってしまった。


「ただ、遠くはよく見える」

「そういば、入学式の日に君と目が合った気がしたのだが」

「見ていた」


 やはりあれは気のせいではなかったようだ。

 どうして見ていたかは、言及しないでおこう。


 ヴィルオルは私の隣に腰掛け、本を開く。 

 まず、描かれていたのは四大属性エレメンツの竜だった。


「火竜、水竜、風竜、土竜――これらの竜は基本だ」


 世界でもっとも多く存在する竜でもあるようだ。

 次のページに書かれていたのは、数が少ない希少種だという。


「雷竜、氷竜、炎竜、花竜――上位種だ」


 さらに珍しい種となるのが、ヴィルオルが使い魔として従える竜である。

 固有種ユニークと呼ばれており、上位種の交配で稀に生まれるようだ。


「それが白銀竜、暗黒竜――この二体だ」


 暗黒竜と聞いて、思わず聞き返す。


「暗黒竜というのは、その、悪い竜なのか?」

「違う。暗黒竜は夜を統べる、誇り高き竜だ」


 暗黒竜は邪竜の別名ではないらしい。


「邪竜と勘違いしていないか?」

「――!!」


 まさか今日、ヴィルオルの口からその名が聞けるとは思ってもいなかった。

 逸る気持ちを抑えつつ、ヴィルオルに質問を投げかける。


「その、邪竜というのはなんなのだろうか?」


 竜の種について書かれた本には記載がない。

 ヴィルオルは眉間に深い皺を寄せ、不快だと言わんばかりの表情で説明してくれた。


「邪竜というのは竜と似ても似つかない生き物で、悪意の集合体とも言える邪悪な存在だ」


 竜に姿形が似ているため、人々は〝邪竜〟と呼ぶようになったという。

 そんな話を聞いたら、暗黒竜と邪竜は異なる存在だということを理解できた。


「しかしなぜ、邪竜のような存在が生まれるのだ?」

「人が生きる以上、邪気というものから逃れられないからな」


 邪気というのは、人の負の感情から生まれるものらしい。

 そのため、人々の不満などが爆発すれば、邪竜の誕生に繋がってしまうという。


 一度目の人生で邪竜の襲撃があったとき、何か騒動が起こっていただろうか?

 いいや、特に大きな事件はなかったはず。


 それはそうと、邪竜が竜種ではなかったなんて驚いた。

 探しても該当する資料がないわけである。


「他、気になったことはあるか?」


 これ以上、邪竜について聞くのは申し訳ない。

 竜について尋ねよう。


「白銀の竜とはどのようにして出会ったのだ?」

「ああ、使い魔の竜とは卵からの付き合いで――」


 私達は夜になるまで竜について語り合ったのだった。


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