クラブ活動を見学しよう!
クラブ舎は校舎の裏に位置する場所にある。
一軒一軒はそこまで大きくないが、二階建てで独立しているので、秘密基地のような趣がある、と生徒に好評らしい。
竜大好きクラブというのは、貴族高等学校の創立からある、歴史が長いものだとか。
邪竜について詳しい人がいるかもしれない。
ただ、注意しなければならないのは、邪竜の情報だけ知ろうとすることだろう。
二年後、邪竜が出現したさいに、怪しまれてしまう。
ふと気になったのだが、そもそも邪竜というのはどこからやってきて、なんの目的で王都に下り立ったというのか。
はだの破壊衝動なのか、それとも人々の魔力に引きつけられたのか。
考えれば考えるほど、謎が深まった。
なんて考え事をしているうちに、竜大好きクラブのクラブ舎に到着した。
いったいどれだけの人数が所属しているのか。なるべく少数だとありがたいのだが。
扉を叩くと、勢いよく開かれたので驚く。
中から飛び出すようにして登場したのは――。
「ヴィルオル!?」
「お前、どうして!?」
「いや、掲示板のクラブ紹介を見てやってきたのだが」
「まさか、うちのクラブに興味があってやってきたのか!?」
「まあ、そう、なるな」
ヴィルオルは想定外の入部希望者だったからか、目を丸くして驚いていた。
しばらく向き合って硬直していたのだが、誰かが近づいてくる声が聞こえてくる。
「来い!」
ヴィルオルはそう言って私の手を掴むと、クラブ舎にぐいっと引き入れた。
内部は外から見た印象よりも狭い。というのも、本棚が壁一面に並べてあるので、圧迫感があるのだろう。
他にテーブルと椅子、それから二階に繋がる螺旋階段があるだけの、ごくごくシンプルな空間だった。
本棚には竜に関連する本がぎっしり並べられていた。
ざっと見ても、図書室にあった本よりたくさんあるだろう。
「すごいな……こんなにたくさん竜関連の書籍があるのか」
「お前、本当にうちのクラブに入るのか?」
「ああ! これだけあれば――」
「あれば?」
ここでハッと我に返る。
竜関連の蔵書量に感激するあまり、ヴィルオルがクラブに所属していたという状況を失念していた。
「その、竜に詳しくなれると思って」
「お前、どうして竜になんか興味があるんだよ」
「それは――」
当然ながら、二年後の邪竜戦に備えて詳しくなっておきたい、なんて言えるわけもなく。
竜といえば、一度目の人生でヴィルオルが従えていた白銀の竜しか見た覚えがなかった。 邪竜と戦うさいに初めて目にしたのだが、息を呑むほど美しかったのを覚えている。
そのときの印象を、そのまま語った。
「竜というのは力強く、たくましく、それでいて美しい。かねてよりその存在に、心を奪われていたのだ」
「なるほど。では、推しの竜は?」
「お、推しとは?」
「一推しの竜、という意味だ」
「あ、ああ、それはもちろん、白銀の鱗を持つ竜だ」
すなわち、ヴィルオルと契約を交わしている竜のことである。
間違っても、邪竜が〝推し〟だなんて口にできるわけがなかった。
ヴィルオルは腕を組み、探るような視線を向けていたが、私の推しが白銀の竜だとわかると、パッと表情を明るくさせる。
「お前、白銀の竜の魅力がわかるのか!?」
「も、もちろんだとも!」
勢いに圧されそうになりつつも、なんとか答える。
「お前の言うとおり、白銀の竜が世界で一番尊く、唯一無二で、最強なんだ!」
そこまで言っただろうか、と思ったものの、機嫌を損ねたくないので黙っておいた。
「わかった! それほど竜に対して熱い想いを抱いているというのであれば、入部を許可しよう!」
「ありがとう」
ヴィルオルはいそいそとした様子で入部届を用意してくれた。
部屋に他の部員の姿はない。二階にいるのだろうか?
未婚の男女は密室で二人きりになるというのは親密な関係だと誤解されてしまうので、リーベを召喚しておく。
私が入部届を記入している間、ヴィルオルはお茶とお菓子を用意してくれた。
好奇心旺盛なリーベは、お菓子が入ったお皿を覗き込む。
「それはお前のじゃない! こっちを食べろ!」
ヴィルオルはリーベにそう言って、野菜チップスを差しだしていた。
リーベにあげるために携帯していたのだろうか。
「ヴィルオル、リーベのためにありがとう」
「何か与えなければ、文句を言ってくるからな」
野菜チップスは学校の敷地内にある商業施設で購入できるらしい。
おいしそうに食べているので、私も今度買いにいこう。
「書けたか?」
「ああ」
ヴィルオルが確認したあと、「受理した」と言って入部届を懐にしまう。
「このクラブは歴史が長いそうだね」
「ああ! バーベンベルク公爵家の者が部長を務めている、伝統的な活動を行うクラブだ!」
竜のことについて調べたり、竜について語り合ったり、竜について思い描いたり、とさまざまな活動をしているという。
思い描くとはいったい……? なんて思ったものの、ヴィルオルが楽しそうに語っておるので深く聞かないでおいた。
「して、他の部員は二階にいるのか?」
「いいや、所属しているのは俺とお前だけだが?」
「え?」




