図書室にて①
「このような場所で、奇遇ですね」
「君も」
なんでもコンラートは朝から具合が悪く、登校したものの途中で目眩を覚え、保健室で休んでいたらしい。そういえば姿がなかったな、と思い出す。
図書室なのであまり話さないほうがいいか、と思って辺りを見回したら、他の生徒はいつの間にかいなくなっていた。
傍を飛んでいた本の虫妖精に会話をしてもいいか許可を取ったあと、コンラートに話しかける。
「もう大丈夫なのか?」
「おおむね、というところですね」
「そうか。だったら――」
回復術を施してみる。すると、コンラートは目を丸くして驚いていた。
「あなた、回復術を使うなんて」
「保健室のほうがよかったのか?」
「そうではなくて、回復術というのは簡単に使っていいものではないでしょう!」
なんでも回復術をかけてもらう場合、聖教会に多額の寄付金を用意しなければならないという。
「それなのに、あなたは無償で回復術を使うなんて――いや、後払いですか?」
真面目に聞いてくるので、笑ってしまいそうになる。図書室なのでぐっと我慢した。
「いいや、代金は必要ない。私の回復術は神学校で習ったものでなく、個人的に習得したものゆえ、完璧ではないんだ。具合はどうだろうか、よくなったか?」
「おかげさまで」
「だったらよかった」
コンラートは律儀な性格なのだろう。
「それはそうと、具合がよくならないのであれば、一度医者にかかったほうがいいのでは?」
「いえ、ただ病弱なだけなんです」
幼少期から病気を繰り返していたようで、起き上がって歩き回れるくらい元気になったのはここ最近だという。
「入学式の日は体調がいいように思えて参加したのに、講堂に入る前に倒れてしまうなんて、情けない話で」
「体調なんて思い通りにならないのだから、自分を悪く言う必要はない」
「そんなふうに言ってくれるのは、あなたくらいですよ」
きっとこれまでいろいろ言われながら育ってきたのだろう。なんとも気の毒な話である。
「こんな体では、結婚相手なんて見つかるわけがないのですが」
「それは私も同じだ」
「あなたも?」
「ああ」
歓迎パーティーでの男性陣から誘いがなかったことを思い出し、なんとも切ない気持ちになる。きっと私みたいな大柄な女より、かわいらしい小柄な女性と結婚したいに違いない。
「特に何もしていないのに、のびのび体が成長してしまって」
「たしかに、身長が高いですね」
「ああ。三フィート(百八十三センチ)あるからな」
「私よりかなり大きい」
「そうなんだ」
コンラートは五フィート九インチ(百七十五センチ)くらいだろうか。
男性の平均身長くらいで、決して小さなわけではない。私が大きすぎるのだ。
生まれ変わったときはフリルやリボンたっぷりのきれいなドレスをたくさん着て、耳飾りや首飾りでオシャレして、お菓子もたくさん食べて、めいっぱい令嬢ライフを楽しんでやる、なんて思っていた。
けれども私の寸法に合うドレスなんてあるわけがなく、毎回オーダーメイドとなるので、両親に申し訳なくなって必要最低限でいいと言っていた。
耳飾りや首飾りも、首が太く耳が小さい私に似合うデザインがそうそうあるわけがなく、母から借りたり譲り受けたり、リウドルフィング公爵家に代々伝わるアンティークの宝飾品を身につけていた。
さらに甘ったるいお菓子は胃がもたれてしまうので、たくさん食べられるわけではなかった。
思い返してみると、私の体は優雅な令嬢ライフにまったく適応できていなかったのだ。
なんとも残念な二度目の人生である。
本当に結婚なんてできるのか、と考えていたら、コンラートがその話題について質問を投げかけてきた。
「やはり、自身よりも背が高い男性がいいのですか?」
「いいや、そんなことはない」
「他に条件は?」
「まあ、このような私を受け入れてくれること、だろうか?」
「それ以外望まないと?」
「ああ」
「リウドルフィング公爵家のご令嬢が結婚するのに、爵位の継承者でなくてもいいのですか?」
「別にその辺は重要視していない」
二回目の人生も、もしかしたら邪竜討伐後に命を落とす可能性があるのだ。
いろいろ条件を付けて結婚を渋っていたら、永遠に相手なんか見つからないだろう。
「君は? どんな相手と結婚したい?」
「それは……あなたと同じで、私を受け入れてくれる人と結婚できたらいいですね」
コンラートは将来、魔法を研究する仕事に就きたいという。
魔法はこれまで家庭教師に習っていたようだが、ここへは人付き合いを学びにやってきたようだ。
「体の不調が続いて、人付き合いどころではなかったのですが」
「まあ、その辺はあと二年もあるのだから、ゆっくりこなしていけばいいだろう」
コンラートには〝あと二年〟と言ったが、私にとっては〝二年しかない〟である。
できるならば、半年以内に結婚相手を見つけたい。
「出会いを求めるならば、クラブ活動をしたほうがいいのかもしれませんね」
「そういえば、勧誘のチラシが掲示板にあったな」
クラブ活動は上級生と知り合える機会でもある。
どこかのクラブに所属していたほうがよさそうだ。
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