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男装を強いられ男として生きてきた公爵令嬢は、2回目の人生はドレスを着て、令嬢ライフを謳歌したい  作者: 江本マシメサ
第二章 ヴィルオルとの再会

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お風呂に入ろう

「それはそうと、あのあと誰かとダンスをしたの?」

「いいや、しなかった、というか、誰からも誘われなかった」

「見る目がない男共だな」

「どうだか」


 私より背が低い男性ばかりだったので、エスコートしにくそうだな、と思われていたのかもしれない。


「ダンスはあまり得意ではないから、少し助かった」

「そうなの?」

「ああ、足がもつれそうになって」


 一回目の人生で男性パートを叩き込まれていた弊害なのか、女性パートとごちゃごちゃになって、転びそうになってしまうのだ。


「ダンスなんて踊れなくても、生きていけるから、気にしなくてもいいのでは?」

「フローレス、ありがとう」


 一度目の人生ではフローレスと何度も踊った。

 私が男性パートで、フローレスが女性パートだったのだ。

 フローレスはダンスが上手で、いつも見とれていたのを思い出す。

 二度と、彼と一緒にダンスをすることはないのだろう。

 美しい思い出は心の奥深くにしまっておいた。

 お喋りしている場合ではなかった。お風呂に入らなければならないのだ。


「ユークリッド、これ!」


 突然フローレスが差しだしてくれたのは、大きなキャンディみたいな包み。


「なんだろうか?」

「ラベンダーの入浴剤。疲れが取れるから」

「ああ、助かる」


 ありがたくいただこう。フローレスに感謝し、お風呂に入る。

 浴室は洗面台と脱衣所、浴室がワンルームになっている。

 入浴後にフローレスがきれいに清掃してくれたのか、どこもかしこもピカピカだった。

 お湯は魔法仕掛けで張られるようだ。

 猫足のバスタブには魔石が取り付けられており、触れると赤く光る。そのあと縁に刻まれた呪文を摩ると、一瞬で湯が満たされた。

 もっと時間がかかると思っていたので、慌ててドレスを脱ぐ。

 途中でフローレスがくれた入浴剤をドボン、と落とした。

 ラベンダーのいい香りが浴室に広がっていく。香りをかいだだけでも癒やされた。

 コルセットと下着を脱ぎ捨て、お湯に浸かる。


「ふーーーーー」


 お湯は保温機能があるようで、ぜんぜん冷めていなかった。

 ありがたい、と思いつつ肩までしっかり浸かる。

 今日一日、いろいろあった。

 入学式でヴィルオルと再会し、クラスメイト達とのいざこざがあって、歓迎パーティーでは男子生徒の顰蹙ひんしゅくを買い、そのあとリーベと出会っただけでなく、ヴィルオルとも話すことができた。

 一日の間にいろいろ起こりすぎだろう。

 特にヴィルオル関連の出来事は、まったく想定していなかった。

 彼の人生の通過点を避けて通ろうとしているのに、どうしてか交わってしまう。

 関わらなければ、彼に特別な感情を抱くこともないのに……。

 命を落としたときも、ヴィルオルに対する感情が悔いになることないと思っていたのだが。

 いいや、まだ大丈夫、上手くいくはず。

 今度こそ結婚し、子どもを産んだら、邪竜と戦って命を落としたとしても、心残りにはならないだろう。

 今回のように、生まれ変わることもないはずだ。


 そういえば、なぜ生まれ変わったのか、という問題についても後回しにしていた。

 リウドルフィング公爵家に伝わる禁術のようなものなのだろうか。

 それとも、邪竜を倒したことによる成功報酬のようなものだったのか。

 邪竜との戦いまで残り二年。この疑問についても、そろそろ向き合う必要がありそうだ。

 禁術につうては、父に手紙を書いて聞いてみよう。把握しているとは思えないが、ダメ元である。

 邪竜については図書室に何か資料があるだろうか。お昼休みにでも調べに行きたい。

 のんびりお風呂に浸かっていたら、フローレスが扉を叩いて「溺れているんじゃないよね!?」と声をかけてくれた。


「ああ、大丈夫だ。もうすぐ上がるから」

「あと十五分で消灯だから!」

「もうそんな時間か!」


 お風呂に浸かりながら、のんびり考え事をしていたようだ。

 急いで体を洗い、飛び出る。

 体を乾かす風の魔法陣もあって、一瞬で全身から水分がなくなった。


「なんて便利な魔法なんだ」


 感激している場合ではない。

 ナイトドレスを急いで着用してから顔面に化粧水と乳液を塗り込み、体はボディークリームをすり込む。

 毎回、料理の下ごしらえみたいだな、と思いながらルーティンをこなす。

 髪には薔薇の香油を揉み込み、丁寧にくしけずった。

 これらは一度目の人生ではしていなかったお手入れである。

 美容は日々の積み重ねが重要らしく、いくら疲れていても手を抜いてはいけない、と花嫁準備学校で習ったのだ。

 歯を磨き、最後に絹のナイトキャップを被って髪の毛を保護する。

 部屋に戻ると、すでに灯りが消されていた。

 隣から身じろぐ音が聞こえたので、声をかける。


「フローレス、消灯時間を教えてくれてありがとう」

「別に、親切でしたわけではないよ。灯りが消えて、ユークリッドが悲鳴をあげるのを聞きたくなかっただけだから」

「そうか」


 素直じゃないのだろう。フローレスはそうでなくては、と思ってしまう。

 リーベは起きることなく、熟睡しているようだ。

 暗い中なので寝顔は確認できないが、きっとかわいいに違いない。


 横になると、あっという間に瞼が重くなる。

 意識が遠のき、深い眠りの世界へ誘われたのだった。

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