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男装を強いられ男として生きてきた公爵令嬢は、2回目の人生はドレスを着て、令嬢ライフを謳歌したい  作者: 江本マシメサ
第二章 ヴィルオルとの再会

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歓迎パーティーにて⑤

 怒らせてしまったか、と思っていたが、ヴィルオルは私を振り返って「戻るぞ!」と声をかけてくれる。


「ああ、私はもう寮に帰ろうと思って」

「ダンスはいいのか?」

「誰にも誘われなかったから」


 そう答えると、ヴィルオルはほくそ笑んだように見えた。


「ふっ、お前も上手くいっていないのか」

「まあ、最初から上手くいくことなんてないからね」

「前向きだな」

「それだけが取り柄だから」

「もっとあるだろうが。恵まれた体格とか」


 それは女性としてどうなのか。騎士としてだったら、頼もしいことだろうが。


「まあ、いい。寮まで送ってやる」

「君はダンスを踊らなくてもいいのか?」

「あんなもん、鬱陶うっとうしいだけだ」


 パーティーの途中でも、パートナーがいればカップル成立と見なされ、退場も許されるという。


「しかしそれでは、君が困るんじゃないのか?」

「俺は別に」

「そうなのか?」

「ああ、問題ない」


 ヴィルオルはここで結婚相手を探す気などないのではないか、と思ってしまう。

 もしかしたら本命は別にいるので、貴族高等学校での出会いの場はやんわりやり過ごすつもりなのかもしれない。

 ヴィルオルの本命――それについて考えると、なんとも複雑な気持ちになる。

 こうして面と向かって言葉を交わす予定はなかったのに、話してしまうと蓋をしていた感情が溢れ出す。

 ヴィルオルのことは遠目で見ているだけでいい、なんて考えていたのに……。


「ぼんやりしていないで、早く帰るぞ」

「ああ、待ってくれ」


 エスコートとはほど遠い、急ぎ足で中庭を通り過ぎ、そのまま帰路へつく。

 ヴィルオルと馬車に乗り、リーベを連れて寮に戻ることとなった。


 ◇◇◇


 リーベを連れて帰ると、フローレスはギョッとする。


「え、何、どこで野ウサギなんか仕留めたの!?」

「この子は獲物ではないよ」


 愛玩用のウサギは存在するものの、知名度が高いわけではない。そのため、ウサギと聞いたら狩猟の獲物というイメージが強いのだろう。


「使い魔なんだ」

「使い魔!? その野ウサギが!?」

「ああ」


 突然連れて帰ったので、驚かせてしまったようだ。


「いや、使い魔って、一生のうち一体しか契約できないのを、知らないの?」

「知っているとも」

「だったらどうして、そんな野ウサギ――魔法生物なんかと契約を交わしているんだ!?」


 魔法生物というのは、幻獣や精霊、妖精が野生の獣や魔物と交配し、誕生した存在である。

 繁殖力は高いものの、能力は親よりも劣る場合がほとんどなので、使い魔のランクとしては低位だという。


「実を言えば、この子は精霊なんだ」

「精霊だって!? どこからどう見ても、野ウサギじゃないか!」


 リーベには私達が喋っている内容を理解できるのだろう。

 遺憾の意を表するように、前歯をガチガチ鳴らしていた。


「いっちょ前に怒っている!?」

「賢い子なんだ」


 そんな説明をすると、リーベは胸を張って誇らしげな様子でいた。


「リーベっていう、女の子でね」

「ふーーーん」


 性別について見て調べたわけではないが、契約時に自然とわかったのだ。


「やっぱり使い魔って便利なのかな?」

「どうだろう?」


 私は必要性を感じて契約したわけではない。さらにリーベ側から持ちかけてくるという極めて特殊な例だった。


「歓迎パーティーが暇だったから、召喚でもしたの?」


 使い魔を迎えるにあたって、もっともメジャーな方法が〝召喚魔法〟である。

 けれども召喚魔法は呼んだ瞬間、強制的に契約を交わさないといけない。

 思っていた使い魔ではなかったから、契約はしない、というのは許されない方法なのである。

 基本的に、召喚魔法でやってくる使い魔は術者の実力に見合った存在である。

 けれどもごくごく稀に、実力以上の使い魔が召喚され、術者の命を脅かす事故が起こりうる。それを聞いたら、危険を冒してまで使い魔を召喚するのが恐ろしく感じてしまうのだ。

 私みたいに、偶然に精霊と出会うというパターンは稀なのだろう。


「この子は中庭で出会ってね」

「嘘……精霊が学校の敷地内にのこのこ歩いていたなんて。もしかして、他にもいるとか?」

「いいや、この子は以前から中庭にいたみたいで、精霊がいるわけではなさそうだ」

「なーーんだ」


 他にも精霊がいるならば、フローレスも契約したかったという。


「まあ、身近に精霊がわんさかいるわけがないか」

「まあ、そうだな」


 リーベは好奇心旺盛な子のようで、部屋をくんくん嗅ぎながら歩き回っている。


「ちょっ、こっちは私の部屋なの!」

「ああ、すまない。リーベ、そちらはフローレスの縄張りでね」

「縄張りって……」


 捕まえようと腕を伸ばすも、リーベはひらりと華麗に回避する。

 反射神経はいいほうだと思っていたのだが、リーベは私以上に運動神経がいいようだ。

 結局、捕まえることができずにフローレスの縄張りの調査は終了したようだ。


「ユークリッド、そんなことしていないで、お風呂にでも入ったら? 消灯時間もあるし」

「そうだな」


 フローレスは先に入浴したらしい。私がいなかったので、安心して入れたことだろう。

 早く入らなくては。消灯時間になったら、真っ暗な中で入らないといけなくなる。

 化粧で顔がドロドロで、コルセットの締め付けからも解放されたい。

 温かい湯をたっぷり張って入ろう。

 と、その前にリーベがゆっくり休めるように、寝床を作ってあげなくては。


「一緒に寝台で眠れたらいいのだが、君を押しつぶしてしまいそうで恐ろしい」

『ぷう?』


 そんなわけで、リーベの寝台作りを行う。

 バスケットか何かあればよかったのだが、都合よくあるわけがなく。

 いい感じの箱がなかったので、トランクケースを広げ、ふかふかの外套をクッション代わりに詰めてみた。


「リーベ、どうだろうか?」

『ぷうん』


 リーベは感触を確かめるように前脚で何度か踏んだあと、ぴょんと跳び上がって乗り上げた。

 しばしトランクケースの中を歩き回ったあと、『ぷい!』と鳴いて横たわる。

 びょーんと体を伸ばしたので、お気に召してくれたのだろう。


「今度、休日に寝台にできそうなバスケットを買ってこよう」


 返事がない、と思ったらリーベはすでに寝始めたようだ。

 ぷうぷうと寝息も立てている。

 そんなリーベの寝姿を見ていたら、一日の疲れが吹き飛んでしまった。

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