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歓迎パーティーにて②

 またしても、気がついたら大勢の女性陣に囲まれていた。

 いったいどうしてこうなったのか。

 最初はパトリック・フォン・マルシュナーの魔の手から救った女性、エリーザ・フォン・ツィルヒャーとそのご友人四名くらいで話していたのに。

 途中からリリスや他のクラスメイトも合流し、二十名ほどの集団になってしまったのだ。

 他は男女が均等に集まっているというのに、私の周囲だけ見事に女性ばかりになっていた。

 少し離れた位置から、男性陣が私に向けて恨みがましい視線を向けているのは気のせいではないだろう。

 もうすぐダンスの時間になるからか、楽団がやってきた。

 私達もそろそろ解散したほうがいいのだろう。


「すまない、少しお花摘みにいってくるから、皆はダンスを楽しんでほしい」


 なんて言ってからこの場を離れる。

 周囲を見てみたら、ダンスを誘う男性陣の姿が確認できた。

 私を誘おうと思う猛者などいるわけがなく、誰にも引き留められずに会場から出てしまった。

 少し風に当たって気分転換しよう。そう思って中庭のほうに出る。

 草花が魔石灯でライトアップされているので、視界は十分なくらい明るい。

 冬が近いからか、少しひんやりとした冷たい風が吹いていた。

 会場が暑かったので、全身を撫でる風が心地いい。

 中庭は秋薔薇あきそうびが迷路のようになっていて、濃い薔薇の芳香に包まれている。

 実家の庭にもたくさん薔薇が咲いていたという記憶が甦った。母は薔薇が好きらしく、父がたくさん植えるように庭師に頼んでいたらしい。

 薔薇のシーズンである春と秋には、毎日のように食卓や部屋に薔薇の花が活けられていたのだ。

 そんな感じでたくさんの薔薇があったのに、エルマは一度として薔薇の名前を教えてくれたことはなく、毒草ばかり嬉々として紹介してくれた。

 おかげで、毒草には人一倍詳しくなっている。

 ただその知識も、時として役に立った。

 ディルクが剣の訓練を行う広場に、毒草が生えていたのだ。

 もしも擦りむいて、毒草の汁が付着したら、ディルクは苦しむことになる。

 事前に発見できたので、被害はなかったのだ。

 一人になったら家族のことについて思い出してしまうなんて、ホームシックがあまりにも早くないか。

 二回目の人生は家族との時間を大事にしていたので、心に占める存在感が大きくなっているのだろう。

 結婚したらどのみち離ればなれになるというのに。この学校生活は家族離れができるいい機会なのかもしれない。


 なんて考え事をしつつ中庭を歩いていたら、草木をかき分けるような音が聞こえた。

 まさか誰かが私のあとをつけてきて、闇討ちしようと言うのか。

 先ほど、ホームルーム前にリリスにちょっかいをかけたアヒムか。

 それとも、先ほどエリーザに求婚をしてきたパトリックか。

 それ以外にも先ほど会場で私のことを睨んでいた男の誰かか。

 ドレスをたくし上げ、ガーターベルトに装着していたクリスタルを削って作ったナイフを手に取る。これは聖術を付く杖代わりにもなるアイテムなのだ。

 攻撃系の聖術の祝福を口にし、あとは放つだけとなった。

 がさり、と物音を立てて私の目の前に飛び込んできたのは――かわいらしい白ウサギだったのである。


「んん?」

『ぷっ?』


 かわいらしい鳴き声をあげ、小首を傾げて私を見つめている。

 エメラルドみたいな美しい瞳は非常に珍しい。毛並みもぴかぴかなので、誰かのウサギなのかもしれない。


「えーーっと、物音は君だったのか」

『ぷう!』


 白ウサギは回れ右をして去ろうとしたが、後ろ脚に薔薇の蔓が巻き付いているのに気付いた。


「ああ、待ってくれ。解いてあげよう」

『ぷーう?』


 振り返って動きを止めたものの、接近したら逃げてしまうかもしれない。

 慎重に、慎重に一歩一歩近づいていく。


「そう、いい子だ」

『ぷっ?』


 スカートの布が擦れる音で驚かないよう、片手でまとめて少したくし上げておく。

 声をかけつつ、ゆっくり歩み寄った。

 白ウサギは人慣れしているのだろうか。怖がっている様子はない。

 しゃがみ込んだあとそっと腕を伸ばし、白ウサギに手を差し伸べる。


「おっと!」


 白ウサギは暴れることはなく、足に触れることを許してくれた。


「ああ、棘が足に刺さっているな。痛かっただろう」

『ぷうん』


 美しい白い毛並みに、鮮血が散っていた。

 丁寧に蔓を取り、回復術をかけてやる。


「祝福よ、かの者を癒やしたまえ――」


 みるみるうちに傷は塞がっていく。


「よし、もう大丈夫だ」


 そっと離してあげる。このままどこかへ逃げるかと思ったが、私をじーっと見上げるばかりだった。


「家族や友達はいないのか?」

『ぷーい』


 問いかけると、白ウサギは鼻先を私の手の甲へぐいぐい押し当ててきた。

 まるで撫でてくれ、と訴えているように思えて、遠慮がちに触れてみる。

 すると、もっとだと要求するように、頭をぐりぐりと擦り寄せてきた。


「ああ、待ってくれ。動物とのふれあいには慣れていないんだ」


 やはりこの白ウサギは人慣れしているのだろう。

 飼い主がどこかにいるのだろうか。

 なんて考えていたら、遠くから声が聞こえてきた。


「おーい、ウサ公、どこにいるんだ?」


 ぶっきらぼうな印象があるこの声は、先ほど新入生の挨拶で聞いたばかりだった。


「――!」


 声の主はこちらへ近づいていた。

 どこか隠れるところはないのか、と立ち上がろうとしたものの、この辺りは薔薇ばかり。隙間に飛び込めば棘にいだかれることだろう。

 ならば回れ右をして逃げるばかり。なんて思っていたが、ここで白ウサギが想定外の行動に出る。

 ぴょんと飛び上がり、私の膝の上に乗ったのだ。

 小さな手足が触れる初めての感覚に、なんとも言えない癒やしのパワーを得たような気になった。


 ああ……と感激している場合ではなく、顔見知りであろう人物はどんどん接近していた。


「ウサ公、いるんだろう? どこにいる?」


 今、私はドレスをたくしあげ、足を半分ほど露出した状態でいる。

 膝に乗っている白ウサギを下ろせば身なりを整えることができる。けれどもウサギを抱き慣れていない私が抱っこをしたら、怖がらせてしまうだろう。

 どうにか下りてくれないかとお願いしてみるも、白ウサギは小首を傾げつつ、『ぷ?』とかわいらしく鳴くばかり。

 ここに来ないでくれ、と願えば願うほど、声と足音はどんどん近くなり――。


「今日は新鮮な餌があるん」


 ついに、鉢合わせしてしまう。

 その人物――ヴィルオルは私がこんなところにいるとは思っていなかったのだろう。

 目をまんまるにして見ていた。


「なっ、お前っ!? びっくりした!! こんなところで何をしていたんだ?」

「いや、その、白ウサギが膝に乗ってしまって、身動きが取れなくなってしまってね」

「そんなの、下ろせばいいだけだろうが!」

「抱き方がわからないんだ」


 狩猟のさい、仕留めたウサギは首根っこを掴んで持ち上げていた。

 けれども生きているウサギはそういった持ち方をしないだろう。


「抱き方って、別に普通に抱き上げたらいいだろうが」

「それがどうしていいものやら」

「まったくお前は――って、なんてはしたない格好をしているんだよ!」

「これには理由があって」

「もういい! 俺が抱き上げてやるから、動くなよ!」

「ああ、すまない」


 ヴィルオルは極力私のほうを見ないようにしながら接近し、白ウサギを抱き上げてくれた。  

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