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男装を強いられ男として生きてきた公爵令嬢は、2回目の人生はドレスを着て、令嬢ライフを謳歌したい  作者: 江本マシメサ
第二章 ヴィルオルとの再会

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ついに迎えた入学式

 木々が紅葉するような季節は、各地で入学式が執り行われる。

 寮の窓から見える大きな樹も、真っ赤に染まっていた。

 私達はといえば、出会い頭の冷え切った空気とは異なり、打ち解けたように思える。

 フローレスの私に対する最初の拒絶はなんだったのか、と思うくらい気やすい態度になった。

 トカゲの捕獲に加え、夕食を持ってきた功績が認められたのだろうか。

 そういえば一回目の人生でも、フローレスは私につんけんとした態度だったが、何回かお菓子を贈ったら気を許してくれた記憶が甦る。

 まあ、何はともあれ、ルームメイトがフローレスなのでホッとした。

 彼が抱える事情については、話してこない限り気付いていないふりをしておこう。


「ユークリッド、早くしないと、入学式に遅れてしまうよ!」

「もう少しだけ待ってくれ」


 動きやすいようにデザインされたドレスに身を包み、長い髪はハーフアップにしてまとめておく。

 化粧も薄く施し、姿見で確認する。

 男装に比べて身支度に時間がかかるが、その辺は花嫁準備学校でしっかり習ったので苦にならない。

 父譲りの顔を、母譲りの社交術を活かし、結婚相手を探さなければならないのだ。

 婚約者が決まったら、在学中にでも結婚をしたい。

 結婚してしまえば退寮し新婚生活を送りつつ、新居から登校することもできる。

 妊娠、出産となればさすがに退学しなくてはならないようだが、目的は達成しているのでそうなったとしても問題ないだろう。

 重要なのは、邪竜との戦い以前に結婚と出産を済ませておくこと。

 それらを達成していたのならば、命を落としても惜しくない。


「――?」


 ふと、今になって疑問に思う。

 私はなぜ、一度死んだあと時間が巻き戻って、赤子から人生をやり直すことになったのか、と。


 妖精族だったご先祖様の奇跡の魔法か何かが発動したのか。

 よくわからない。

 どうしてこれまで気にならなかったのかも謎なのだが、今はそれを考えている暇はなかった。


「ユークリッド、早く!」

「ああ、今行く!」


 フローレスと共に登校したのだった。

 講堂前の掲示板ではクラスが発表されていた。

 六クラスあるうち半分が騎士科、もう半分が魔法科となっている。

 結婚相手を探すための学校であるものの、職業訓練も兼ねており、本格的な授業を受けられるのも特徴だった。

 というのも、貴族高等学校に入学しなければならない者の大半は、次男以下である。

 跡取りと違って継ぐべき財産や職務などもないため、自分で身を立てて暮らしていかなければならない。

 そんなわけで、結婚したあとも自立した暮らしができるように、いろいろと生きる術を叩き込んでくれるのだ。

 私とフローレスは魔法科を希望している。

 魔法科は三組あるのだが、奇しくもフローレスと同じクラスだった。


「フローレス、どうやら私達は一緒のクラスみたいだ」

「ああ、本当。相当な腐れ縁だね」


 一度目の人生から引き続き、フローレスとは縁が続いている。

 なんだったら、結婚するのも彼がいいのではないか、とも思ってしまう。

 フローレスに対する気持ちは家族愛のような感情で、異性に感じる愛とは異なる。

 けれども結婚するとなれば、家族愛のほうが重要だ。燃えるような恋愛感情は、平和な日常を送っているうちに、冷めてしまいそうだから。

 ただ、フローレスが女性として振る舞っている限り、結婚なんて申し込めないだろう。


 ぼんやりクラス表を眺めていたら、背後からどん! という衝撃を受けてギョッとする。

 振り返った先にいたのは、顔色を悪くする青年。


「大丈夫か!?」


 今にも倒れてしまいそうな青年を支える。

 声をかけるも、意識が遠のいているようだ。

 近くに教師もいないので、仕方がないと思って彼を抱きかかえた。

 ドレスを着たご令嬢が成人に近い体型の男性を持ち上げたので、周囲の人から「ひい!」と悲鳴が上がった。

 ただ、周りを気にしている場合ではなかったのだ。


「保健室は――」

「ユークリッド、こっちだ!」


 フローレスが校内の地図を片手に、誘導してくれた。

 なんとか彼を運ぶことに成功する。

 保険医の先生は私が男子生徒を抱えてやってきたので、驚いていた。


「近くに教師はいなかったの?」

「それがまったく」

「そう」


 男子生徒が苦しげな様子でいたので、回復術をかけてあげた。


「祝福よ、かの者を癒やしたえ――」


 顔色が真っ青だったのだが、回復術の効果で血色が戻ってくる。


「驚いた。あなた、聖術が使えるのね」

「ええ、家庭教師が元聖職者で」

「そう」


 もうすぐ入学式が始まるというので、急いで向かおうとしたのだが、呼び止められてしまった。


「ねえ、この子の名前を知ってる?」

「彼は――」


 見覚えがある顔だと思っていたのだが、おそらく彼は一度目の人生で顔見知りだった、騎士隊の事務官だった男だろう。

 名前はたしか――。


「コンラート・フォン・ケルントン」

「ああ、ケルントン伯爵家の子ね。わかったわ、ありがとう」

「いえ」


 フローレスが「早く!」と言って急かすので、保険医の先生に一礼し、この場を去る。

 入学式は始まる目前だったようで、講堂の出入り口にいた教師から「こら! 遅刻だ!」と注意されてしまう。


「倒れた子を保健室に運んでいたんだ! 遅刻なんかじゃない!」


 フローレスはしっかり教師に言い返していたので、強い子だと改めて思う。

 席に着席すると、新入生代表の挨拶が始まるところだった。

 息を整えようと胸を押さえていたのに、ギョッと驚くこととなる。

 新入生代表として登壇したのは、ヴィルオルだったから。

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