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生まれ変わったら

 邪竜の復活により、王都は黒い炎に包まれる。

 たくさんの人達が死んだ。

 国王陛下や、王太子殿下も……。

 そんな中で私は、政敵であるバーベンベルク公爵家の子息、ヴィルオルと共に邪竜と戦う。

 彼とは犬猿の仲で、一度たりとも穏やかに言葉を交わすことなどなかった。

 けれども最後の最後で、邪竜を前に共闘することになるとは思いもしなかったのである。

 今日はいつも以上に、ヴィルオルの表情が険しかった。世界一気に食わない私と肩を並べるのは、不本意なのだろう。

 それでもいい。正義を重んじ、清廉潔白という言葉が相応しい彼と共に戦えるのは、私にとって喜びでもあった。

 苦戦の末に邪竜の討伐に成功するも、私は腹部に負った傷が原因で倒れてしまう。

 そんな私をヴィルオルは抱き上げ、何やら必死に叫んでいた。

 邪竜の咆哮のせいで鼓膜は破れていて、耳は機能していなかったのだ。残念ながら、何を言っているのかわからない。

 きっとこんなところで死ぬなんて情けない! とでも言っているのだろう。

 君はそうでなくては。

 私に甘い顔なんて見せなくていい。

 未来のリウドルフィング公爵となる私を、彼は人一倍ライバル視していた。負けるものか、という思いで日々ぶつかってきたのだ。

 二十年間、生きてきた人生に悔いはない。

 けれども男装し、男として振る舞う人生なんて、二度とごめんだと思う。

 もしもやり直すことができたのならば、女として生きたい。

 きれいなドレスを着て、花嫁修業をし、お茶会を開いて友達をもてなす。

 そんな日常を過ごす中で、ヴィルオルが伸び伸び生きる姿を見てみたい。

 一つだけ叶うとしたら――。


「生まれ変わったら、ヴィルオル、君と仲よくなりたい」


 そんな言葉を最後に私の意識は遠のいていく。

 暗い穴に引きずり込まれるような感覚と共に、ああ私は死んだのだ、と自覚することができた。


 しかしながらそんな私の腕に輝く糸が絡み、一気に引き上げられる。

 視界が明るくなり――大きく息を吸い込んだ。


「ほぎゃあ! ほぎゃあ!」

「おめでとうございます、リウドルフィング公爵、女の子です!」

「女の子か……」


 落胆したような声に聞き覚えがあった。いったい誰だったか。


「跡取りとなる男が欲しかったのだが」


 非道極まりない物言いをするこの男――続く発言を聞いてピンとくる。


「そうだ! この娘を男として育てればいいのだ!」


 思い出した。

 女性である私が女であることをひた隠しにし、男として育て上げた張本人。

 頭のネジが何本もぶっ飛んでいるような常識外れの男は、父で間違いない。


「ほぎゃあ! ほぎゃあ!」


 文句を言おうとしたものの、言葉にならなかった。

 これはいったい……? 

 身動きは取れないし、酷く眠いのに眠れないし、体温調節も思うようにできないし。

 どうして?

 その疑問が解けたのは数日後――父が私を抱き上げ、鏡の前に立ったときに氷解する。


「お前の名はユークリッド・フォン・リウドルフィング!! 女の身として生まれたが、この父が立派な男に育ててやろう!!」


 この瞬間、私の人生はくるくる巻き返り、やり直しを行うような状態になっていると気付いた。

 

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