表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

人狼の住まう村

はい、またまた現実逃避。……いいじゃん別に。

「ようこそ、人狼陣営へ」


 そう言われて、もう、後戻りはできないのだろうと悟った。だが、もう俺の話を信じないようなバカどもと一緒にいなくて済むと思うと、ワクワクしてしょうがなかった。


「あ、そうそう、ずっと引きこもってて日付の感覚が鈍ってたんだろうけど、もう村人はお前しかいないよ。あいつら、最後の一人になっても気付けないって、ほんとに馬鹿だよな」

 ……まじかよ、アホすぎんだろ。清々するわ。


 そう言いながら、彼女──、結那は長い髪を捲し上げながら俺を外にいざなおうとした。

「さ、死体の山が積もってはいるが……、取り敢えず、ここはもう用済みだし一旦ここを出ようぜ?」


「……あぁ。どこまでもついていくよ」


 後戻りはできない。でも、新しい世界にワクワクしていて、踏み入れてはいけない領域に入り込んでいく感覚が、どうにも心地よかった。


        ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂


 家の外に出ると、眼の前の光景はとても悲惨だった。辺り一帯、血の染み込んだ土が広がっていて、腐りかけた人間の死体と、それに群がる何十匹ものカラスと、何百匹ものハエ。夏の暑さのせいで、ブワッと広がるむさ苦しいほどの血の匂いは、吐き気を促すに十分だった。


「……う、お、えぇ……」

「大丈夫か?」


 思わずえずいてしまった俺を心配してくれる結那は、顔を覗き込みながら声をかけてくれた。


「あ、あぁ……、結那は大丈夫なのか……?」

「え? 別に平気だけどなぁ……、何がだめなんだ? 見た目? 匂い?」


 人狼である結那は、人間とは違う感覚を持っているらしい。オオカミってイヌ科だったよな。見た目が平気なのは分かるが、なんで匂いも平気なんだ?


「どっちも、だな……う゛、お゛ぇ……」

「そっかぁ〜……、じゃ、そうと決まればさっさと村を出ようか」


 俺の体調を気遣ってか、結那は直ぐに移動を始めてくれた。


        ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂


 ザッザッザッ……


 草の地面を踏みしめる音があたりの林に響く。夏の暑さもあって、密集した木々の間は蒸されるように暑かった。


「……なぁ結那、俺達どこに向かってるんだ?」

「もう少しだから頑張りな」

「は〜い……」


 汗で足元の草が絡みつき、時々木々の間をかき分けて、汗を拭いながら結那のあとをついて行っていると、突然パァッと視界が開けた。


「ほわぁ……! なんだよ、ここ……!?」


 眼の前の景色に俺は圧倒された。だって見てみろよ。広大なくぼみ、いや、何かのクレータかな? の中に、密集するように村、いやここまでの規模だと街か? とにかく、たくさんの家が立っているんだ!

 

 声も出せずに立ち尽くしていた俺に、結那はこの場所の解説を簡潔にしてくれた。


「ここはなぁ、オレ達人狼が住まう村なんだ。ま、人間の間じゃ、街って規模かもしんねーけどよ」

「人狼が、住まう村……?」

「そ。お前はこれからここで暮らすの」


 え?


 えぇ!? お、お、おお俺が!? 


「そうだけど? なんか問題ある?」

「ありすぎるだろ! だって俺は、裏切り者になったとはいえ人間であることに変わりはないんだぞ?? いいのかよ?」


 俺が、思ったことをそのままぶつけると、結那はくすっと笑っていった。


「あぁ、なるほどね。少数だけど、人間も暮らしてはいるよ。ただし、お前みたいに、裏切り者だけさ。オレ言っただろ? 『裏切り者は、俺達にとって十分必要な戦力だ』って」

「あ……なるほど」


 人狼達にとって、裏切り者はとても貴重で優秀な戦力だから、絶対に疑われない状況ができるまでは、自分たちの村に住まわせているのか。人狼って、人間なんかより遥かに頭の回る種族なんだな、ちょっと羨ましい。


「さ、ここからは急な下りを何回も繰り返す。一旦ここで野宿して、体力を回復させてから動き出すぞ」

「わかった」


 手慣れているのか、すぐに野宿の準備が整った。布団は俺がさっき住んでた村から強奪したものらしい。火をつけるのもあっという間に終わって、すぐに焚き火ができるようになった。


 やっぱ、人狼ってすごいんだな〜……。俺の選択は、やはり正しかったのかもしれない。こんなに素晴らしい種族と一緒に暮らせるんだから。


        ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂ ❂


 夜。


 焚き火をしながら、人狼という種族について、色々教えてもらった。なんでも、人間を襲う理由は、《恐怖》が主食だかららしい。人間を一人いじめたぐらいの恐怖で事足りるから、一晩のうち一人しか相手にしないんだと。


 ただ、人間は躍起になって自分達を殺そうとするから、やられる前にやらないと、っていうのもあって、殺すようになったらしい。それが、人狼の始まりなんだとか。


「要するに、殺すまでは必要はなかったのに、人間のせいで悪者になちまったってことか……、大変なんだな、人狼ってのも」


「ま、ご先祖様のおかげで今のオレ達が居るんだけどね〜。……そろそろ夜も遅い。いい加減寝るぞー」


「ほいほい、じゃ、おやすみー」



 それから。

 何日もかけて急な下りを制覇すること10数日。ようやく人狼村に到着した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ