~閑話~ シュナがいなくなったその後で(7)
魔法使いは胡散臭い笑みを浮かべ、僕たちを見まわすと。
「そうそうあなた達、星読みの一族のことはしっかりと帝国に伝えておきますよ。なにしろ我々勇者一行に協力をするどころか、邪魔者として闇に葬り去ろうとしたんですから。とても容認することなどできません」
その瞬間、一族に大きなざわめきが広がっていた。
こいつら――!! 一族を崩壊させる気か!? 父さんを見れば青くなっていた顔が白くなり石造のようになっている。僕だって心の動揺を表にださないようにしていたがそれも限界だ。
魔法使いはそんなことにはお構いなしに、にこやかな微笑みのまま言葉を続けていた。
「ですが…我々も慈悲がないわけではありません。今であればまだ逃げることはできます。そう、星読みの一族としてこの集団に属していなければ、あるいはお咎めはないかも知れません」
動揺はさらに広がっていた。このままでは、一族を離れようとする者たちが多く出てしまう。
父さんの顔にはっきりと焦りが浮かんでいた。このままでは父さんの、族長としての求心力は低下する。
そしてこれは苦し紛れか、いや…きっと父さんの本音がでたのだろう。
「ここにはいないシュナではなく…このレイでは駄目なのですか!? この子は魔法の才能に溢れとても優秀です。それに貴重な光魔法を得意としています。どう考えてもシュナなんかより、レイのほうがよっぽど勇者様たちの役に立ってくれるはずです!」
僕もここぞとばかりに胸を張ると、いつものいい子ちゃんになりきったのだ。
「そうです! きっと僕が皆さんの役に立って見せますから…だから一族を罰するようなことはやめてください。僕をシュナの代わりにどうぞ連れて行ってください!」
だが、勇者は冷たい眼差しのまま深いため息をついた。
「なるほど…。では君は今までどれほどの修練を積んできた。ここにいる聖女アイリーンは君と同じ光魔法を得意としている。けど彼女は才能がありながらもそれに自惚れることなく日々厳しい修練を積んでいる。君と彼女を比べるまでもない。はっきり言って全く話にならないな…。そんなこともわからないとは、呆れるな」
「な…!」
僕の全身から力が抜けていく。力なく両膝を地面につけ、気がつけば地に両手をつけ呆然と地面を見つめていた。
…屈辱だった。出来損ないのシュナが必要とされるのなら、才能のある僕だってそれ以上に必要とされるはずだ!
なのに、こいつらときたら僕のことを見ようとすらしない。
そんなことあるわけがない! きっと何かの間違いだ!! そうだ…。そうに決まっている。
シュナの、アイツのせいで僕がこんな惨めな思いをするなんて! 全てあいつが悪いんだ!!
僕は、地べたに這いつくばったまま理不尽な現実を受け入れられないでいた。
「本当に、これで良かったのですか?」
星読みの一族が暮らす村を後にしてしばらく歩いていると、アイリーンは後ろの村を振り返り仲間に尋ねたのだ。
「あの一族をこのまま放置しておくのは、今後のことを考えればよくありません。早いうちに災いの芽は摘んでおくべきです。こうして族長の求心力を低下させておけば一族を離れるものも多いはずです。内部崩壊し彼らは勝手に自滅しますよ」
「アイザック。お前…やり方が相変わらずエグイな…」
「ハハハ…。サガ、それは誉め言葉と取っておきましょう。今は無駄な血が流れずに済んだのですから上出来でしょう。珍しく勇者であるノアも反対しなかったですしね」
「反対する理由すら思い浮かばなかったからな。それにしても…シュナという子は本当に死んでしまったのだろうか」
「その真偽を確かめるために、再び大聖堂に向かうのですよね」
「ああ…」
「大丈夫。あの子はきっと生きています。これはただの勘ですけど」
「アイリーンの勘はよく当たるからな。それに…双子の弟であるレイと言う子もこれを機に…心を入れ替えてくれればいいんだが…」
「そうですね。ですが、それは本人次第です」
雪山の中、彼らの言葉は風に溶け消えていったのだ。




