星読みの一族
山岳地帯にそびえるミケーネ山には、太古の神が眠ると伝えられている。
一年に一度、この地に住む僕の一族は冬至の日に火を焚き、山の洞窟の祠に供物を捧げる風習がある。
太古から存在するミケーネ山に住み、今は深い眠りについていると伝えられている占星術と魔法を司る神に加護を願うため供物を奉げているのだ。
さらにいえば、厳しい冬を無事に乗り越えるため、冬至の日に太陽の力が強まることを祈る祭りとしての側面もある。
僕の一族は今は北方の山岳地帯で細々と暮らしてはいるが、昔は大国の王に仕え星読みを行い未来を予知していた。またそれに加え、始祖は強大な魔法を操り国の政に大きく関わっていたとも聞いている。
しかし政で大きな力を持ちすぎた始祖を王は疎み、始祖を処刑し残りの一族を大国から追放したのだ。始祖を失ったことにより魔力は衰え、一族は生まれ故郷でもあるこの北方の山岳地帯に隠れるように住むようになったと伝えられている。
そして、このミケーネ山に眠ると伝えられている太古の神の力を始祖と同じように再び手に入れ、落ちぶれてしまった一族を再建させ、再び歴史の表舞台に立つことを一族は夢見ているのだ。
だからなのだろう。幼いころから一族の長の家系に生まれた僕は占星術や魔法の勉強を必死でやってきた。けど、物覚えも悪く魔法の習得も同年代の子供と比べてもかなり遅く…僕はまだ初歩のものしか覚えられていない。
そんな僕に両親は失望し、一族のみんなからも落ちこぼれの烙印を押されたのだ。ここでは星読みの才能のないものは落ちこぼれの烙印をおされ冷遇されてしまう。
けど、僕には双子の弟レイがいた。両親やみんなはとても冷たかったがレイだけは僕に優しかった。僕をいつも励まし庇ってくれた。
「大丈夫だよ。シュナは必ず優秀な星読みになれる。誰よりも努力をしているのを僕は知っているから、落ち込むこむ必要なんてないさ」
レイは優しい笑顔でいつも僕を励ましてくれた。
僕と同じ声、容姿をしているがレイはとても聡明で優秀な星読みの才能を持っていた。器用になんでもこなし物覚えも早く、父から出される課題難なくこなし将来を有望視され、一族からの期待も大きかった。
だから才能のない落ちこぼれの僕は、せめてそんな優秀な弟を支えようと思ったのだ。両親から言われていたこともあるけど、大切な双子の弟の未来を明るくしたいと兄として願ったのだ。
弟も僕のことを思いやってくれて、お互いに支えあいながらこれからも生きていくのだと信じていた。
――けど、それは僕の都合のいい幻想でしかなかった。あの日の夜、はっきりとそれが分かったのだ。
五百年に一度の冬至の夜。
ミケーネ山には占星術や魔術を司る太古の神が、深い眠りから目覚めその姿を現すと信じられていた。
その年の冬至の日は特別で、いつもの年のように今年採れた麦や豆、木の実などの作物の他に生贄を用意しなければならなかった。その条件もあり十歳までの男子と決められていた。そして僕はその贄に選ばれたのだ。