極寒の夜空
どこまでも続く厳しい寒さと暗闇の世界。
けど、空を見上げると夜空には幾つもの星々が輝いていた。
見慣れているはずなのに、その美しさに僕は思わず息を呑んでいた。ほんのひと時でも、現実の厳しい寒さと深い絶望を忘れさせてくれる星の輝きに心を奪われていた。
北の大陸の、さらに北方の山岳地帯に位置するこの地の寒さは厳しい。下界と比べても極寒の地で、ここは冬の間は雪と氷に完全に覆われていた。山岳地帯は吹雪で荒れ狂っている日も多く、そうなると下界にある町との交流は冬の間、完全に閉ざされていた。この地は凍りつく陸の孤島とも呼ばれている辺境の地。
さらにこの地域は、冬になると極夜が当たり前となっていた。極夜とは、空がほんの少し明るくなることもあるが基本、太陽が昇らない夜が一日中続くことだ。極夜は春が訪れるまで一年のうち半年ほど続く。
誰もが待ち焦がれる春はまだ遠く、この北の大陸に住む人々は厳しい冬を越えなければならないのだ。
そして今日は冬至を迎えたばかり。この日は一年の内で最も寒く、真っ暗な夜が一日中続く。けど、星の巡りによればこの日を境にこれから太陽の力が強まる時期に入ると言われている。
冬至を境に僅かだが春の足音が近づいてくるのだ。
――けど僕は、今日この山で死を迎えることが決まっている。太古の神に奉げられる贄に選ばれたからだ。次の春を見ることはもうないのだ。