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第94話 呪いは裏返る

 コルネアが自分の為に戦ってくれている。

 対して自分ミリアは何も出来ず、ただそれを見て逃げる機会を伺っているだけ。

 こうなってしまったのは自分が原因だっていうのは子供でも分かることである。だからこそ、それが癪だった。

 守られ続けるだけの弱い自分が嫌だった。それによって胸に溜まってくる黒い何かを吐き出せばこの状況を簡単に解決できるだろう。

 だがそれはコルネアを巻き込んでしまう。呪われた声を出すわけにはいかない。しかしミリアは口を開いた。

 傷つけられるコルネアを助けたい一心が腹の底から声に成った。


「──……ラァァァァァァァッ!!」

「ッ!!」


 ミリアの喉から出たこの声はあの時に吐き出した呪いの声ではない。

 甲高い声だがそこに不快感はない。聞いたもの全てを魅了する透き通った声はこの一帯を響かせた。


「あの娘の声か!? だがこれは……」

「ミリアなの!? でも、何かが……」


 ミリアは目を瞑り、懸命に歌い続け、それは柔らかな波紋となってコルネアとその部下を包み込んだ。

 見えない音による柔らかなベールに包まれたような感触、そしてコルネアたちにある傷が少しずつ癒えていくのを皆が知り目を丸くした。


「痛みが……それに力も沸き起こってくるような……。これが、ミリアの力だっていうの……!?」


 皆が一度、攻撃の手を止めてミリアの歌声の効果を確認し、そして認識し始める。

 聖力によって痛めつけられたコルネアの体は回復し、更に力が漲ってくる。

 それは部下たちも同じであり、今までの戦いで傷ついた分も癒えていき、さらに消耗した聖力も回復していく。

 何よりも困惑したのがこれが無差別に効果があるということだ。魔族なら魔力、人間なら聖力とどちらかに偏るはずなのにミリアの歌声は両者を癒していたのだ。


「すげぇ……。もう全快だよ!」

「あの娘にこれほどの力があるとは」

「しかし、こちらもその影響を受けている。全快したのはオーガ族だけじゃない!」

「ああ、いいぜ。それでも」


 今まで受けた分が完全に回復し、疲れも飛んで調子も好調になったコルネアが囲んでいる部下たちに向き直る。

 そこには切羽詰まったような様子はなく、かといって慢心しているワケでもない一人のオーガ族の戦士がそこにいた。


「お互い絶好調じゃないと後味悪いだろ? そのほうがアタシもやりやすい!」

「調子に乗るなよ魔族が。状況は結局変わってないんだぞ」

「わかってるさ。それでも、今ならアンタたちに勝てる気がする……!」

「ほざけっ!!」


 二人のワドルネの部下がまずコルネアに襲い掛かってくる。聖力宿した長剣を構えてくるその背後には聖律を発現させようとしてる者がゆっくりとした景色としてコルネアの目に映った。

 隙を見せなければコルネアは地龍撃による遠距離攻撃は使えない。だがその考えは甘かった。今のコルネアは万全で完全な状態。本来溜めなければいけない闘気が腹の底から湧き上がったことでその隙を生むことなく両方の拳に宿した。


「ウオオオオオッ!!!」


 両拳に蓄えた闘気を地面に放ち地龍撃を放つ。

 衝撃で地面が揺れ、さらに流した闘気が襲い来る部下たちを砂煙と共に浴びせた。


「ぐっ!? バカな! そんな隙は無かったはず……」

「撃て! 二発目がくるぞ! 牽制しろ!!」


 長剣に聖力を宿して放つ聖技を何度もコルネアに向けるが巻き上がる砂煙のせいで対象に当たっているかどうかすらわからない。

 何度も撃つがそれが手ごたえの無さを感じると聖技を放つのを止めて部下たちは様子を見る。

 この砂煙の中で一体どこに隠れたのか。ここを中心にして囲んでいるのだ。抜け出せばすぐにわかるし空を見上げても飛んだ様子はない。

 では何処に? 答えは砂煙の中から影が見え、それが大きくなっていくとそれが分かった。


「うっ──!」


 砂煙から出てきたのは先ほど突っ込んだ部下であり、それを投擲して砂煙の外にいる相手にぶち当てる。

 人間一人が砲丸のように迫ったそれに対応することも出来ずに吹っ飛ばされ、全員がそこに注目した瞬間、ゆっくりと巻き上がっていた砂煙が動き、そして晴れた。


「オラアァァァッッ!!!」


 雄たけびと共に砂煙を散らして出てきたコルネアの手にはもう一人の部下が鎧の首根っこ部分を両手で掴んでいる。

 聖力宿している為に掴んでいる部分が火傷のような痛みが走るがそれでも放すのをやめない。コルネアはそのままぐるぐると回転しながら接近するその光景は圧巻であり、部下たちが思わず手を止めてしまうほどだった。

 まるで鈍器のような扱いをされた部下が遠心力も合わさってぶつかった他の者たちを吹っ飛ばしていく。

 最後の一人、それを目視したコルネアはそのまま勢いを込めてそこ目掛けて投げ飛ばしていった。


「うおおぉっ!?」

「がぁっ!?」


 最後の一人も投げ飛ばした者と一緒に後方に大きく吹っ飛ばされると最後に立っていたのは目が回ってふらふらになっているコルネアだけだった。

 ワドルネの部下全員が今ので伸びているというのを目と頭が落ち着き始めながらそれを知るとコルネアは腕を空に掲げて勝利を叫んだのだった。


 ──……一方、リンゼルとワドルネの戦いはほぼ決着がついたと言っても過言ではない。

 聖力込めた剣術による圧倒的手数でリンゼルを圧倒したのだ。

 このまま抵抗しても無意味と言わんばかりのワドルネの表情は未だに詰まらなさそうであるが、それがリンゼルがまだ諦めない理由でもあった。


「……なんだ?」

「この声……ミリアちゃん……!?」


 その時に遠くからミリアの歌声が聞こえるとその余波が二人をも包み込む。

 暖かく、そして柔らかい音のベールに包まれるとその効果を二人は身をもって体感していく。

 ワドルネはこの戦いでほとんど消耗していないために実感は薄かったが、目の前で息を切らしているリンゼルの様子が変わっていくのを見てその効果を確信した。


「なるほど。あの娘のものか。確かにこの力は天地がひっくり返るほどだな。聖教会が手元に置きたがるワケだ」

「凄い……。体の底から湧いてくる……力も……気力も……!」

「だが、それでどうする? 回復したとはいえ、実力は埋まってはいないのだぞ」


 ワドルネの言う通り、リンゼルとの差が大きく開いており例え回復したとしてもそれは相手も同じである。

 結局、先の戦いを繰り返すだけであるため結果は火を見るよりも明らかであった。


「リンゼル、今ので分かっただろ? あの娘はこれほどの力を持っているのだ。これを魔族に渡すわけにはいかない。我々聖教会の庇護のもとに管理されるべきなのだ。そうすれば中央での力が更に大きくなる。これはお前にも影響があるんだぞ」

「管理っていったい何様なんだ……? それにミリアちゃんを政治の道具にでもするつもりなの!?」

「あいつは魔族だぞ……! それも魔王の子の可能性もあるんだぞ……! それが事実なら放置すればどれだけ危険なのかを知らんのか!?」

「魔王って何!? それは本当に実在していたの!? あの大戦で魔王なんて存在は現れなかったのに今更それが出てくるなんておかしいでしょ!? 聖教会の都合のいいようにしているだけじゃないの!? あの子はただ静かに、平和に暮らしていただけ。それを誰かが束縛するようなことなんて……。あの子の自由はあの子だけのものよ!!」

「……聖教会を侮辱するような発言に加えてここまで言ってもわからんか。愚か者めが。いいだろう、結局はこういう形でケリをつけるしかないというのなら望み通りそうさせてやろう……!」


 ワドルネの落としていた長剣の刃が再びリンゼルに向けられる。

 音のベールが包み込む中でこの決着が近づいてくるのを二人は感じ取っていたのだった。

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