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第8話 オーガ族のギザ

「ウィィィィィィッ!! このギザ様が来たぜぇっ!! てめぇら、今日も盛り上がっているかぁ~!!?」


 酒場の入り口から大声と共に入ってきたそれにラギナは僅かに顔を傾けて視線をそこに向けていく。

 その勢いある声を現したかのような肥大化した筋肉がまず目に入り、全身が赤みを帯びている。

 上顎から伸びた牙が明けた口からよく見え、顔の額には一本の角がその魔族を特徴を表すかのように伸びていた。

 ──オーガ族。鬼の種族特有の生命力溢れるその姿は巨体であるラギナよりも大きくその威圧的な体の後ろから手下であるゴブリン共が続いており、マスターの話に出てきた"リーダー"というのがコイツなのだとすぐに分かった。


「ああ、ギザ様。これはこれは……。今日も呑みに来たんですかい?」

「おうマスター。今日はそうじゃなくてよ。ちょっと待ってくれや。えーっとよ……」


 ギザと呼ばれたオーガ族を見てマスターはへりくだりたった様子で尋ねたが当の本人は酒場に来たのに酒を頼まないことに少し戸惑いを隠せないでいた。

 そんなマスターを他所にギザは酒場の中をキョロキョロと見渡していく。すでに店内で吞んでいた魔族たちは彼の視線に合わせないように体を小さくして顔を伏せている中でラギナも気配を殺しながら残った酒を飲んでいった。


「おっ……? いたぜぇ。あいつか……!」


 ギザの放ったこの一言にこの場にいる誰もが理解して横目でその様子を伺っていく中でどっしりとした足音が酒場の中に鳴り響いていく。

 その音は確実にラギナの方に近づいているものであり、端に座っているラギナの背中を見下ろしたがこちらは振り向かずに無視を貫いた。

 酒の量は半分以下ほどでそれを飲み干そうとしているラギナにギザは"圧"を出して挑発するの見て周囲にいたマスターや客たちは思わず唾を飲み込むが、そんな状態でもラギナのその様子は一向に変わることがなかった。


「──……ここに白い獣の魔族が来たっていうのを聞いた。それ、てめぇのことだろ?」

「……俺に何の用だ?」

他所よそモンの情報は俺に入ってくることになってるからな。そういうのは一回"挨拶"する決まりになってんだよ」

「そうか。大変だな、お前も」

「なんだァ~? てめぇの態度ナメてンのか!? ギザ様に背ェ向けて口開いてンじゃねーよ!」


 ギザとラギナの間に入った同族の類である手下のゴブリンがこちらの顔を威嚇の顔をしながら覗き込んだ瞬間、ギザのこめかみにピシりと青筋が入るとそのゴブリンは一瞬で近くの壁に思い切り叩きつけられた。


「へブッ!?」

「おい……。何出しゃばってんだ? 今、俺は、この人とお話している途中だろうが……。そんなに()()になりてぇのか?」

「…………」


 ラギナの近くで壁からずり落ちながらゴブリンが床に倒れこむ。

 仰向けで見えた顔は完全に潰れてピクピクと体が痙攣してるだけでの物体になり、横ではギザが拳についた血を自慢げに見ていた。


「おっといけねぇ……ついやっちまったぜ。悪かったなウチのモンが。こいつら気がいつも立ってんだ。俺様に免じて許してくれや」

「……わかった」

「話分かるヤツじゃねーか! おいマスター! 俺にも酒! それとこの魔族にもな!!」


 ラギナの隣に座って彼の肩に手を置きながら今の一連の出来事を見てバーテーブルの奥で怯えているマスターにギザは酒を注文を頼む。

 その肩にべっとりとゴブリンの血がついており、かなりの不快感を覚えながらもラギナは顔に出さずにいるとマスターが震えた手で今飲んでいたコップよりもサイズが大きいもので酒が運ばれてきた。


「ど、どうぞ……」

「お、あんがとな。この酒、俺のオススメだ。遠慮なく飲めよ」

「あの~ギザ様……」

「あっ?」

「その……お代の方っていうのを……」

「…………。……おお、そんなことか! それはウチのモンがいつものように後で払うから心配すんなよ!」

「ははっ……ですよねぇ~」


 マスターはギザの言葉を聞くとそそくさと奥へと引っ込んでいくのを見つつギザは持ってきたコップに手で掴むとそれをラギナの前に見せるように持っていき、その意味を察したラギナもコップを握ってギザの前に持って行った。


「それじゃあ、乾杯」


 互いのコップを当てて乾杯をし、その中身を口に運んでいく。

 味は最初に飲んでいたモノよりも数段マシではあったがオーガ族に合わせた度数のある酒である上に量が多いことに難儀した。


「ぷはーっ! こういう酒っていうのはいつ飲んでもうめぇな!」

「さっき飲んでた酒よりはマシな味だな」

「お、オーガ族の酒いけんのかお前。結構やるじゃねーか」

「それで、俺に用はなんだ? そのために絡んできたんだろう?」


 話の主導権を握るようにラギナはギザの顔を見ながら喋るとその顔をようやく見れたことにギザの表情はどこか感動したような様子だった。


「やっぱりその顔……お前、ラギナだろ? 【赫白かくびゃく】の異名を持つ」

「……そう呼ばれてはいるな」

「おおっ、うおおおっ! まさかこんなところであの四英雄に会えるなんて! 俺はツイてるぜ! なぁなぁ、俺はなぁアンタたちに憧れてたんだ!」 

「そうなのか……」

「なんだよその態度、しらけるなぁ。アンタたちは俺たちにとってあの戦争で活躍した生きる伝説なんだぜ? 百年戦争で名を挙げた奴はいてもその生き残りはホントに少ねぇ。その中でもあの戦争を終わらせた英雄なんだ。少しは胸張ってくれや」

「俺はそういうのをあまり気にしないからな」

「くぅ~~~っ! カックイイ~ねぇ。あえて語らない、そういう強さっていうのもあるよな。実は俺も強さにはかなり自信があるぜ?」

「……確かにお前、オーガ族にしてはかなり特異だな。しかも口だけじゃない」

「分かるのか!? いやぁ四英雄にそう言われるの嬉しいねぇ! まだ戦争が続いてたらなぁ~。この強さを人間どもに見せつけたかったぜ。あんときはまだガキだったからなぁ……。この力を思い切りふるいたかったなぁ~。終わっちまって残念って感じだ」

「……お前、何が言いたいんだ?」

「…………。……あ~、こういうのはあんまり慣れてなくてよ。もう面倒くさくなったわ」


 ギザの言葉を最後に酒場の空気が一気に変わっていく。

 遠目で見ていた手下たちはラギナとギザのいる空気が歪んだように錯覚を起こし、毛が逆立つ嫌な胸騒ぎはこの場にいなければ分からないほどであった。


「ラギナ、俺と勝負しろ」

「勝負……?」

「ああ。魔族なんだから分かるだろ? 魔族は強さこそ全て。強い奴が弱い奴から全てを奪えて偉い。俺のようなバカでもこの考えはシンプルでいい」

「なんでお前とやらなくちゃならないんだ?」

「それは当然、お前みたいな強い奴と戦いたいからに決まってんだろ。俺は今までそういう奴に喧嘩売りまくって、そんでとことん潰してきた。おかげで里から追い出されちまったが……。まぁそれはいずれ戻る予定だからどうでもいいんだが……。ともかく今、俺の前に強い奴がいる。しかも四英雄の一人。魔族ならりたいのは当然の考えだろ?」

「…………」

「…………」


 横から睨みをきかせるギザだったがラギナはそれに対して臆した態度を出さない。

 静かに、そして淡々と手に持った酒を飲み続けていき、やがて空になったコップと一緒に余った魔宝石をテーブルに置くとラギナは立ち上がった。


「悪いが気分じゃない。他を当たってくれ」

「……あ? なんだビビってンのか?」

「どう思ってもいい。俺以上に強いヤツなんていうのはいくらでもいるからな。そいつらに相手してもらえ。俺は帰る」


 ラギナは立ち上がるとそのまま彼らを無視するかのように外に出ようと振り返ると、いつの間にかこの酒場の中がギザの手下だらけになっており威圧的な態度でこちらを睨みつけていた。

 そんな中をラギナは堂々とした態度でこの群衆を掻き分けていく。

 途中、肩をぶつけられたようだったが体格に勝るラギナに逆に押されたのを見てこれ以上のちょっかいは出来なくなり、舌打ちや睨みをきかせる程度を浴びながら酒場の外へと出て行った。


「……ッチ、腑抜け野郎が。ん……? あいつウルキア族だよな? なんで"尻尾"がねぇんだ……?」

「ギザの兄貴……ちょっといいですか……?」

「あん……? ンだよ……」

「例のアレ、ちゃんとにやりましたぜ」

「……ほう」


 手下のゴブリンから聞いたその言葉にギザはニヤリと笑うと残った酒を一気飲み干すと気合を入れるようにテーブルに強くコップを置いたのだった。

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