第86話 混じる色、交じる想い
ヴァルゴたちが山頂に到達し、残りは下るだけになる手前の時にラギナたちはワドルネ率いる追跡に特化した部隊と共にその下を歩いていた。
その道の幅は狭く、壁側に体を寄せなければ反対方向にある崖から落ちてしまうそれは決して通るためのものではないと歩いてみてわかる。
険しい山の中に出来たか細い道。しかしその道をワドルネたちは知っているかのような足取りであった。
「かなり狭いが、それでもこんな所に通れる箇所があったなんてな。ここを使って超えるなら普通ならもっと登るか、さらに迂回しなければならないのだが……」
「お前の言う通りだ。普通ならな。だがそのルートは人間の足ではそういうことは難しい。だからこういう道が必要になる」
魔族と人間の住む場所を隔てる山脈の中に出来たこの道は彼の言葉を考えるに人工的に作られている。
不可侵の象徴であった山脈は表向きで実際はこうした抜け道を何かが起きた時の為に生み出されたのだろう。
とはいえカルラのように魔術を使った抜け道もあることを知っているラギナはこの事について何かを言う権利はない。
この道はいつ作られたのかは定かではないが結局、平和の為といいつつお互いが疑心暗鬼になっているということを改めてラギナは知った。
「先に行った奴らは恐らく我々よりも上に登ってここを超えるつもりだろうが、距離を考えるにさほど離れてはいないはずだ」
「といっても、早くここを超えることに越したことはありません。急ぎましょう」
「……待て、後ろの様子がおかしい」
ワドルネが何かに気が付き、それにラギナとリンゼルも後列の方に顔を向ける。
後ろ側にいた軽装を纏った部隊たちも警戒の態勢に入り、まだ暗い道に鋭い視線を送った。
耳をすませば奥から砂利を蹴る音が聞こえ、それは段々と大きくなっていく。
それはヴァルゴが仕向けた刺客かもしれない。この不安定かつ細い道の中で襲われればこちらも無事では済まないことに緊張が走っているとその正体が姿を現した。
「お、追いついた……やっと……」
「お前、コルネアか!?」
「これは……あそこにいたオーガ族か」
それはここを出るまでケガで寝込んでいたコルネアの姿であり、ラギナたちに追いついたことに安堵したのか切らした息を整えていた。
「ヘヘっ、頑張って追ってみるもんだな。誰かが通ったような跡がなかったらダメだったかもしれないけど……。でもなんとかなった……!」
「どうしてお前がこんなところに……」
「そりゃ、やられっぱなしじゃ癪だからさ。それにあっち側に行くなら魔族が一人でも多いほうがいいだろ?」
「だがお前はケガをして……」
「アタシはオーガ族だぞ? これぐらいならなんとか……まぁちょっと無理はしてるけど、でも足は引っ張らねぇ。ラギナ、アタシも連れてってくれよ」
「団長、どうします?」
「うむ……」
同行させてほしいというコルネアの願いはラギナの一存では決められない。
ワドルネの顔をチラリと見て判断を仰ぐが彼も少し悩んでいるようで静寂がここを包み込み、それは少し経った後で破られた。
「いいだろう。あっちの地理に詳しい者がいくらいても困ることはない」
「本当か!?」
「だが勝手な行動は許さん。我々の指揮には従ってもらうぞ」
「わ、わかってるって、それぐらい……」
「よかったね、コルネア」
「よし行くぞ。もう少し歩けばここを超えられる。……そろそろ朝日の頃合いか」
ワドルネの言葉に全員が空を見上げるとそこは濃い青の端から太陽の色が見える。
この景色を何処かでヴァルゴは見ているのだろうか。同じものを見ている彼が何を考えているのかはラギナにはわからない。
夜と朝、赤と青が交じり合う空を見てラギナは複雑な気持ちを抱きながら足を動かしたのだった。




