第82話 思い通りなどうまくはいかない
今回のパーティーに参加してくれた貴族たちにリンゼルは一通り挨拶を済ましていき、最後にはバード公と会話をしていく。
これによってミクス村はさらに発展していくことが約束され、これに手ごたえを感じたリンゼルはバード公に礼をした。
「こんな機会を作ってくれて、本当にありがとうございます。おかげでこの先、色々なことが出来そうです」
「いやいや、これもリンゼル殿の人の良さというのもあるぞ。何せ私もね、ここまで大きくなるとは思わなかったから。楽しかったよ。もう行くんだろう?」
「はい。そろそろですね……」
窓の外から見える空はすでに夕暮れの時であり、夜を告げる星々も小さく見え始めていた。
ミクス村を任されている以上、まだまだリンゼルにはやるべきことが多い。そこにセフィリナ聖教会の仕事も加われば猶更であった。
一応、ここに参加した者たちとは顔を合わせた為にここに居続ける必要は薄くなっている。この後はバード公がパーティーに関して任せるようなので、リンゼルはそれに甘えることにした。
「ではバード公、我々はこれで」
「うむ、またな二人とも」
リンゼルの一礼にラギナも合わせて別れの挨拶を済ましてパーティー会場を後にする。
外に待機してあった馬車に二人は乗り込むとすぐに出発してミクス村へと走らせていった。
「ふぅ……」
「だいぶ疲れているようだな。正直、俺も疲れた」
「ここにいた人たち皆、力を持ってるからね。失礼ないように神経使ったけど、でもそれだけあそこが注目されてるってことに改めて知ったわ。それに今回で貴方の顔も覚えてもらったし、何かあっても事はスムーズにいきそうね」
「そうは言っても、まだあいつらは俺が魔族ということに気が付いてない。そんな俺をそう簡単に信用してくれるのか?」
「私が一番信用しているから大丈夫」
根拠のない返答にラギナの顔は少し訝しんだが、それを語るリンゼルは自信に満ち溢れている。
しかし堂々としたその態度に思わず笑ってしまい、この期待に応えねばならないという決意を彼に固めさせるには十分であった。
──時刻は月が出始め、人々が夕食を取ろうとする頃合い。ラギナはミリアとの夕食がギリギリ取れるだろうかと考えていると突然、馬車が止まりだした。
「なんだ……?」
「止まった……? まさか夜盗?」
夜の時間、それも豪華な装飾を着飾った馬車が都市部から離れていくのを見れば襲撃しようとする者がいてもおかしくはない。
ラギナとリンゼルは普段着ている服ではないが、それでも護身用に持ってきた長剣があり、ラギナは人間の姿でも夜盗程度なら十分対応できる。
一体外にどれだけの敵がいるかは馬車の内側からはわからない。リンゼルは頭をぶつけないように腰を低くしながら立ち上がると御者の方に向かって話しかけた。
「ねぇ、どうしたの? 外に誰かいるの?」
「い、いえ、外には誰もいません……。というよりもミクス村はもう少しでつきます。ですが……」
「……?」
「その村の様子が、何か変なのです。聖騎士団の旗も火の光で僅かに見えます」
「火の光……?」
御者の言葉を聞いたラギナとリンゼルは急いで馬車から出ると先の方を見る。
そこには確かにミクス村の入り口には聖騎士団の旗が掲げられ、その下には騎士たちがいた。
近くの警備キャンプに滞在している彼らがこの場所、この時間にいることは明らかに不自然であり、何かが起こったことを意味している。
それを感じ取ったラギナは人間の姿から魔族の姿に仕立てたばっかの服を破りながら戻るとリンゼルに向かって叫んだ。
「俺の背に乗れ! そのほうが早い!」
「わかった! ここまでありがとう! 私たちはもう行く!」
送迎してくれた御者はラギナの変貌に驚きながらも言葉を送られたことで馬を率いて去っていく。
リンゼルはそのまま彼の背に乗って後ろの首筋の毛を掴むとラギナは四つ足を使って勢いよく駆けていった。
それは馬車を引く速度よりも速く、夜風と共にミクス村の入り口まで辿り着くと彼らの姿に騎士たちは驚いてそれに身構えた。
気配を感じたと思ったら闇夜からウルキア族が猛スピードで接近すれば誰だってそうなる。だがそれは背中にいるリンゼルの姿を見て驚きはしたがギリギリ手に持った武器で迎撃する気持ちは抑えはした。
「私だ! 攻撃するな!」
「リンゼル殿!? その恰好は一体……」
「色々事情があってな。それよりも何故貴方たちがここに!?」
「伝書が、それも緊急のモノが送られてきたのです! 色は赤、つまりは襲撃です!」
「なんだって……?」
彼らの報告にリンゼルの顔が青ざめつつ、ラギナに村の中に入るように促すとその光景を見て愕然とする。
ここから出発する前にあった綺麗な村の景色は荒らされており、家が半壊している場所もある。
無事だった村の人たちは一か所に集まって怯えており、ここに来た騎士たちが調査をしているようでその中には騎士団長ワドルネの姿があった。
「ワドルネ団長、これは一体……何があったのですか!?」
リンゼルはラギナの背から降りつつすぐに彼に声を掛けると、こちらに気が付いたワドルネは視線を向けたが顔は苦い表情をしていた。
「リンゼルか。何処をほっつき歩いていると思っていたらようやく戻ってきたのか。見ての通りここが襲われたのだよ。時刻は夕時、我々はその救援に来たのだ」
「それで襲撃者は……?」
「すでに撤退したよ。負傷者は少ないがこちらが来るまで守ろうとした魔族のオーガとトレントが酷くやられている。しかし……まぁ君は呑気なものだな。留守を狙われたとはいえ、その間は随分と楽しそうだったな?」
ワドルネの目はリンゼルのドレス姿に向けられているそれは性的なものではなく侮辱が含まれているのは彼の言葉もそうであった。
見下すような視線だけで彼が何が言いたいかを理解してしまったリンゼルはそれに対する反論はしない。何を言っても納得してくれなさそうであり、そんなことは無駄な時間になるだけであった。
「……申し訳ありません」
「全く……しかも緊急の伝書、あれを送ったのはエルフの者らしいじゃないか。我々が扱う大事なものを亜人とはいえ魔族に任せるとは……どうやら随分、ここに慣れてしまったようだな。もうここの村長の肩書に変えたほうがいいんじゃないか?」
「…………。……それでここの被害の状況は?」
「ふん……。だいぶ荒らされてはいるが、こちら側の被害はほとんどないな。どちらかというと魔族側の方が酷い。というか、お前に関係あるんじゃないか?」
「俺か?」
「そうだ。何故なら襲撃者は獣の魔族たちの集団だったからな」
「なっ……!?」
「境界線を破ってまで襲ってきたということは、つまりはお前に恨みがある奴じゃないのか? そうであればとんだ厄を引き付けてきたな」
「団長、何もそこまで……!」
「まぁいい。この件が起きてしまった以上、こちらもそれなりの対応をしなければならない。魔族の方はまだ見てないからな。お前が見に行ったらどうだ?」
「……!!」
ワドルネのそれを聞いたラギナは急いで自分の住む場所へと走る。
家の数は少ないがどれも荒らされており、唯一無事だったのはリグの鍛冶工房だけでそこには持ち主とクローディアに抱かれるフィナ、そして治療を受けているコルネアが寝かされていた。
「お前たち! 大丈夫か!?」
「も、戻ったのかラギナ!」
「……っ!」
戻ってきたラギナの姿を見たクローディアが急いで彼に近づくその様子は彼女の体は震えており、怯えた顔を向けると言葉を走らせた。
「ラ、ラギナさん……! ミリアちゃん、ミリアちゃんが……!」
「ミリア? ミリアがどうしたんだ!?」
「さ、攫われました……! 獣たちに……!」




