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第81話 パーティーは煌びやかに

 暖かな空を照らしていた太陽はゆっくりと彼方へ沈み始め、しばらくすれば空は夕焼けが赤く染め上げてくる頃。

 豪勢な装飾が施された馬車はそれを引く二頭の馬たちにも飾られている。

 整地された街道を走る此処はバード公が統治するカラカドル領内であり、すぐに都市に入ると奥へと向かうとバード公のいる城へと辿り着いた。

 すでにいくつかの馬車はここに到着しており中からはここに招かれた貴族たちが降りて入っていく。

 その内の一つであるこの馬車が止まり、扉の中からはドレスを身にまとったリンゼルが優雅に降りてくるのが外の者たちに目が入った。

 その様相は他の貴族たちを立てる為に少し控えめな色合いであったが、それでも聖騎士である彼女がこのような姿を見せるのは珍しく他の者たちの注目を浴びていく。

 だがその注目もすぐに移り変わっていった。それは後から窮屈そうに出てきた大男が理由だった。

 彼を象徴する髪の色は白く長い為に後ろ側に束ねられ、そこから見える顔には古傷の跡が見える。

 服装も降りてきた女性と同じように暗い青色を基調とした貴族服を身にまとっているが、それでもここにいる者たちの注目は集めてしまうようだったが当の本人たちはあまり気にしていないようだった。


「似合ってるよ、ラギナ」


 ここに来る前にも送った言葉をこの場の雰囲気もあって改めて人間姿のラギナに言う。

 一週間という短い期間で一から作った彼専用の貴族服はバード公の計らいもあって実現できたことだったがラギナにとってこの服はきつそうであり、緩めてくる首元に何度か指を入れているようだった。


「そうが言うが……少し苦しいな。人間はこんなものを着るなんて俺にはわからん」

「着飾ることも人間にとって重要なことだからね。貴方もこういう場所にこれからも出るなら早めに慣れたほうがいい」

「う~~~む……精進しよう」


 この場所にいるラギナの正体が魔族であると知るのはこの場所ではごく限られた者であり、それを考慮して他の者たちに聞かれないように二人だけで話していく。

 一応、礼儀や素振りもここに来る前にラギナに叩き込んだが短時間であった為に完璧ではないだろう。

 だがそれも田舎者として認識してくれればよい。今日のパーティーのメインは主催者のバード公と彼女であるリンゼルでラギナはあくまで付き人として顔だけ覚えてくれればよい。

 最もここにいる誰よりも背が広く、そして高い姿はどうしても注目を浴びてしまうのだが──。


「さぁ、行こう」


 こういった場所は初めてのラギナは少し緊張気味であるのを見てリンゼルは凛とした態度でリードするようにサポートしてくれる。

 美女が野獣をエスコートしているような不可思議な状況は他の者たちにとって面白く見えるが、しかし二人はそんなことを気にせずパーティー会場へと足を踏み入れたのだった。



 ──豪勢な内装に軽く摘まめる程度の食事がテーブルに並べられ、ここにいる皆はワインの入ったグラスを手に持っている。

 主催であるバード公の挨拶を終えた後は貴族たちがここに集まった他たちに挨拶周りをしており、その忙しさはリンゼルたちも同様だった。

 商業ルートのコネを持っている貴族や他地域を代表する大商人。皆がミクス村に注目していることは明らかであるのは後ろで突っ立っているだけのラギナでも分かる。

 しかしラギナは顔には出さないが彼らから漏れ出す匂いを感じ取っていた。それは仕留めた獲物を横取り、もしくはおこぼれを貰おうと群がってくる奴らの匂いであった。

 魔族との繋がりを持ち始めたミクス村は彼らにとって新しいビジネスであり発展途上となれば金と権威が動く。一応、後ろにはセフィリナ聖教会が存在するがここに集まったほとんどの貴族はそちらの派閥に関与している。

 話しかけてくる彼らの目はこちらを見ていない。彼らの視線は自分たちの後ろにある見えない、そして大きな揺らぎのようなものであるのはリンゼルも察していた。

 気を抜いて下手な言葉約束をすれば食い散らかされる可能性もある。当たり障りのない言葉でお茶を濁しつつ、しかし彼らからの出資は引き出すような交渉をしているのをラギナはただじっと静かに見守っていた。


「いやぁ、しかしリンゼル殿がこういう恰好で出てくるとは意外でしたぞ。私の目はいつも騎士の姿でしたからな。実に綺麗だ」

「ありがとうございます」


 話の内容は何もミクス村の件だけではない。裕福さを表す肥満体系の男の口から褒められる言葉に対応するがその目線は下心が見えている。

 その背後で黙って突っ立ている大男が邪魔そうな視線を向けたがそれもすぐにリンゼルの体の方に向く素振りは心の中で舌なめずりをしているのがよく分かる。

 ……というもの、こういったアプローチを間近でしているのにも関わらずラギナはほとんど反応を示さない。

 彼にとって慣れないこの場では下手に動けば足を引っ張ってしまうだけなのは知っている為に挨拶程度だけで済ましているのだ。

 だがこの様子のせいで彼らがリンゼルに対する態度を増長させるには十分だった。田舎者のでくの坊に加え意気地なしとくれば舐めても問題ないと当然と受け取られたのだ。


「しかし貴殿は実に挑戦的でしたな。魔族との繋がりを持つ……、初めは眉唾なことかと思っていたがこうなるとは……。なんと先見性のある目か」

「一部ですが昔から人間は魔族とは交流は持ってましたから。かつての争いで失ってしまったこの絆を取り戻すことが出来たのはバード公の助力がなければ成しえなかったことです」

「バード公もその志に感化されたのでしょうな。いやはや本当に素晴らしい。私も是非、その絆を取り戻すことに力を添えたいですな。……ところでリンゼル殿、この後に時間はありますかな?」


 話している貴族がリンゼルに詰め寄って酒の匂いを漂わせる。

 後ろにいる存在など無視するかのような貴族だったがリンゼルは嫌な顔を一切見せずに対応していった。


「申し訳ありません。これが終わった後はすぐに戻らなければならないのです。何せやるべきことが多いもので……」

「なんと! この状況でもあの村のことを思っているとは! しかしリンゼル殿、働きすぎはよくないですぞ? 何事も適度が良いものなのです」

「まぁ、確かに。それはそうですが……」

「ならば今日ぐらいは少し休んでも問題ないでしょう? 例え神がそれを見ていたとしても貴方の働きぶりを見て許してくれるはずです。私もね、色々と考えがあるのですよ。だからどうですかな? 少しの時間だけ付き合ってもらっても?」


 貴族が詰め寄っても強く出られないリンゼルを見た彼はあともう一押しだと思いながら彼女の体の際どい部分に触れていく。あまり抵抗をしてこないことに成功したと確信して思わずニヤリと笑った瞬間、途端に背筋が凍っていった。

 冷たい手に背骨を捕まれるような感触はまるで幽霊に出くわしたようなものであり、思わず至る場所に顔を向けてを見てしまった。

 何処を見てもパーティーの明るさと熱気、そして人同士の会話が響いているだけで誰もいない。ではこの場違いな寒気は一体なんだ?

 貴族がそれを知るのは時間が掛からなかった。その寒気は自分の背中から来ている。つまりリンゼルの背後にいる大男から出されているものだと知ったからだ。

 何もしないと思っていた大男は一切こちらに視線を合わせず、手を後ろに組んでただ真っすぐ見つめているだけであるが、あの一瞬だけはこちらに視線が向けられたのだろう。

 この背後からくる引っ張られるような寒気はこの大男から逃げろという本能によるものだと直感した。


「どうかなされましたか?」

「あ、あぁ、いや。……そういえばこの後、こちらにも用事があったんだったな、ははは……。リンゼル殿、この話はまた後日ということで……」

「はい。今日は来てくださってありがとうございます。お話の続きはまた今度聞かせてください」

「は、はははっ……。そ、それではな……」


 気圧された貴族はこの場から逃げ去るように何処かへ行ってしまい、それをリンゼルはにこやかな笑顔を絶やさずに見送った後、後ろにいるラギナに向かって肘打ちをした。

 誰にも気づかれないように素早く、そして魔族である彼にもちゃんと伝わるように強めに打った衝撃は流石のラギナもこれには呻いた声が漏れる。

 笑顔のまま彼の方向に振り向くとそれを解いて大きなため息をつきながら彼の顔を見て静かに口を開いた。


「はあぁぁ~……。ラギナ、ああいうのは結構多い。いちいち気にしていたら身が持たないぞ。それに今の殺気もダメだ。彼は戦う人間じゃない。特にこの場ではああいうのは控えてくれ」

「……すまん。つい、な」

「でも……」

「……?」

「──ありがとう」


 ラギナを見上げる彼女の顔は政治用の顔はなく一人の女性としての顔が映し出されている。

 彼女にとってもこういう場は慣れていないのだろう。剥がれた仮面の裏にある表情は目の前にいるラギナだけに見せており労いの言葉をかけるのだった。

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