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第80話 獣の同盟

 コルネアがここに暮らすようになって平和な日々が続く中で発展していく村では力仕事に人数が足りない状態だったが彼女が来てから一変していた。

 娘とはいえオーガ族の膂力は凄まじく、太い丸太を軽々と持ち上げるその様は村人たちから見て圧巻であった。

 頼まれたら嫌そうにしつつも、なんだかんだで付き合ってくれる彼女の柄の良さは特に子供たちに人気だった。


「コルねぇー! あそぼー!」

「だぁーっ! うるっせぇな! それで呼ぶなって言ってんだろ!」


 コル姉の愛称で呼ばれることに慣れていないのが怒っているのは照れ隠しの為であると彼らも知っている。

 トレント族やエルフ族など穏やかな魔族でも溶け込めているこの風景は尊かった。

 そんな村の中をラギナは歩いていく。そこはリンゼルの住んでいる家であり彼女に呼び出されたのだ。


「入るぞ」


 ドアをノックして中に入ったラギナの先には窓から外の風景を見ているリンゼルが見える。

 差し込まれる陽が彼女を照らす姿に少し見惚れてしまっているとこちらに気が付いたのか、緩んでいた顔を引き締めながら口を開いた。


「来てくれたか。立っているのもアレでしょう? 座って?」

「いや、大丈夫だ。……ところで話があるとあったが?」

「そう。バード公のこと覚えている?」

「ああ、あの人間か……。覚えているぞ」

「彼、バード公が最近のミクス村の発展を見て私たちの為に特別なパーティーを開いてくれるんだって」

「パーティ?」

「そう。祝いの集会って言ったら伝わるかな。人間ってこういうことをよくやるのよ」

「……なるほどな。つまりここをしばらく空けとく、ということだな? 最近は賊も少なくなってきたが、ちゃんと守るぞ」

「そのパーティー、貴方も来るのよ?」

「……ん?」


 リンゼルの一言に思わず間抜けな表情で返答してしまう。聞きなれない単語に予想もしなかった内容は未だにラギナの思考を止まらせているがリンゼルは構わず口を動かし続けた。


「ゴルゴダス領の商人たちと繋がりを持ったでしょう? オーガ族との交易もあって珍しい品をたくさん送れるようになった。おかげでこの村での資金面に余裕が出来てね、ここにたくさんの人が来るようになって、それをバード公に報告したらここに興味のある人たちがいるって言ってくれたんだ。要はここに出資してくれる貴族たちがいるということ。ここも一度は減ったけど、雇われた人もいて人口が少しずつ増えてきている。ミクス村も次に移行するときが来たの」

「……なるほどな。それで、それが俺に何の関係があるんだ?」

「そのパーティーにはミクス村の代表として貴方のことを皆に知ってもらう必要はあるからね」

「はっきり言って、よくわからんな。人間たちの集会に俺が行っていいものなのか?」

「人間にもなれるし私は適任だと思うけど? 本当ならクローディアに任せたいんだけど彼女、エルフ族でしょ? 森から離れると体調がね……。トリンも同じだしリグとコルネアは……うん」

「確かに……まぁ、そうか」

「私と一緒に来てくれる?」

「俺でよければな」

「……! ありがとう! それじゃあ早速、仕立て屋のとこに行ってくれる? 話は通してあるから」

「仕立て屋? なんで?」

「貴方、人間の姿でもその恰好で行くつもり? ちゃんとした場所にはちゃんしとした格好で行くのが人間の決まりなの」

「う~~~~む、そうか……」

「後で私もそこに行くから、先に行っててね。それとパーティーは一週間後、その間にそこでのマナーもある程度知っておかないとね」



 ──魔族の地、獣が多く住む荒野と砂漠の間にある場所に建てられた神殿、それは彼らの祖と言われている獣神バルバロを祭る神殿にヴァルゴと護衛の兵がそこに辿り着いた。


「少し遅かったんじゃないか? リーダーの癖によ」


 彼らが到着してすぐに石柱に背を預けていた牛の魔族ミノス族が腕組みをしながら小言を放つがヴァルゴは目を彼に合わせて彼に答えた。


「バグウ、こちらも色々事情がある」

「ほ~? それは獣の同盟の話し合いよりも重要なのか? すでに他の奴らは集まってるぜ? ヴァルゴさんよぉ、遅れるってんならこれから俺が代わりに務めてやろうか?」


 バグウが石柱から離れ、重い足音を鳴らしながらヴァルゴに迫るとその大きさは彼よりも一回り大きい。

 護衛のウルキア族はヴァルゴを守るように彼の前に立ちはだかり見上げながら警戒をしたが、この威圧感は護衛たちの本能を萎縮させるのに十分だった。

 しかしその中でもヴァルゴの態度は変わらない。睨みをきかせるそれはバグウが見下ろしているにも関わらず、逆にヴァルゴが見下しているような状態になる。

 舐められていると知ったバグウの筋肉に青筋が入り始め一触即発の空気になったがその時は長くは続かなかった。


「そこまでだ二人とも、気を抑えろ」


 離れた位置から別の魔族の声に二人は反応し、そこを見ると細身の体に額には鋭く硬化した角が二本生えているガゼルの魔族、バック族のグリミアがこちらを見ている。

 二人の動きを静止させた後、足に力を込めるとふわりと跳躍して彼らの間に入り、両手でその距離を離した。


「我々は争う為にここに来たのではない。その為の同盟じゃないか。そうだろ? ヴァルゴ」

「ああ、その通りだ」

「……ッチ」

「しかし、バグウの言うこともまた事実。リーダーとしての自覚は持ってほしいものだ。さて、中に入ろう」


 グリミアの言葉に落ち着きを取り戻したバグウはしらけた面をしながら神殿の中に入っていき、ヴァルゴもまたその後に続いていく。

 神殿の中は広く、入ってすぐに見える中央には円状の土台があり天井が開いている為に太陽の光が降り注いでいる。

 そこにはさらにもう一つの魔族、猿の魔族のヒヒ族が立って待っていた。


「ようやく集まったか。待ちくたびれたぞい」

「悪かった。ならば早速、話を始めよう。まずは虫どもの件についてだ」


 集まった四人の獣の魔族。それぞれが前の戦争で生き残り、そして武功をあげたものたちであった。

 荒野にはこれ以外にも獣の魔族や別の魔族がいるがそれらはこの四人の獣たちの傘下に分かれて入っている。

 その中で円状の土台を中心にしてそれぞれが囲うように立つと、獣の同盟のリーダーであるヴァルゴが話を進めていく。

 虫の魔族の名があがると空気がヒリつき、他の魔族たちも真剣な眼差しで耳を貸していた。


「現在、南側にある巨樹の地で同じ虫同士が争いあっているせいかそこから追い出されたモンスターどもがこちらにも影響を及ぼしている。しかも奴ら、何を企んでいるのか知らんが妙な魔術も扱うようになった」

「妙な魔術? なんだぁ、それは?」

「詳しい説明はヒヒ族のマーグが話してくれる。頼む」

「任された」


 ヒヒ族のマーグは指を鳴らして合図をすると、後ろにいた使いたちが布に丸めたものを円状の土台に置き、それを剥ぐと中身は腐敗した動物の死骸であった。

 死臭の匂いにたまらず目を逸らしたくなるがその死骸には見たことのない黒い斑点があることに気が付いたバグウはマーグに顔を向けて聞いた。


「この斑点、まさか病気じゃないだろうな?」

「違うが似たようなモンだな。これは呪術による影響だろう」

「呪術……」

「ああ。それも高度のな。死臭はあるが腐敗はしていない。つまりこの状態を維持されている術ということだ」

「マーグ、それはヒヒ族ですら敵わないのか?」

「魔術に長ける俺らでもこれの解呪はできんかった。ヴァルゴが提供したこの死骸はそれだけで他に危険な要素は見つからん。だが逆にそれが不気味で仕方ない」

「この死骸はこれ一匹という話ではない。すでに森を抜けてここにまで到達してきているのだ。今は俺たちウルキア族が警戒の目を広めている」

「森の方では一体何が起きているんだ……」


 呪われた死骸を見た全員が音を鳴らして唾を飲み込むほどの緊張が包み込んでいく。

 マーグは再びこの死骸を布で包み込んで奥にしまうように合図をするまで沈黙がこの場を支配し、それを先に破ったのはヴァルゴだった。


「今は森の中にいるが、いつ虫どもがこちらに牙を向いてくるかわからん。それに他の魔族もそれに乗ってくるかもしれん。グリミア、ヒュルマ族はどうだった?」

「声はかけたが返事は貰ってないな。この様子だと同盟には入らず奴らは中立を保つのだろう」

「はっ! 元々裏でコソコソする小心者の種族。腹の底では何考えてるかわからん奴が来ても困るだけだ」

「しかし、戦力が多い方がいい。森の方にいる同胞たちにも声が届けばいいのだが……」

「ヴァルゴ、それについて一つ案があるぞ?」


 マーグの言葉に全員の注目を集めた後、満を持してその案を彼らに説明していく。

 それは予め言うつもりだったのだろう。その提案は魅力的であったがヴァルゴだけは違い、苦い表情が顔に出ないよう必死に耐えたのだった。


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