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第79話 心わくわく 興味うずうず

 子供たちの朝は早い。昨日遊んだ分の疲れは眠りと共に消えており目覚めの良さが今日の体調を表しているようだった。

 三人のグループでリーダー的存在のエディは朝食を食べ終えたらすぐに外で遊ぼうと思ったが今日は家の手伝いをするらしい。

 子供とはいえ労働力には変わりない。今は簡単なことを任されているが段々とそれも面倒になってくることは予感していた。

 出来ることが増え頼られるのは嬉しかったが、その分だけ他の皆と遊ぶ時間が減ることには複雑でいた。


「はぁ~~~……めんどくせぇ……」


 親から頼まれた仕事は家畜の鶏の世話をした後にトリンたちが育てている野菜畑で今日の分を貰うことだった。

 この鶏も村で共同で出資して手に入れたものであり、生み出す卵によって少しだけご飯が良くはなっていた。

 とはいえ、餌を撒いて今日の卵を収穫するだけの作業は単調で数日もすれば慣れて飽きてくる。

 あとはトリンの所に行って育てた野菜を貰って親に渡せば自分の仕事は終わって暇になる。そうなれば二人と合流して遊ぶだけだった。

 今日は何をして遊ぼうか。最近は遊んでくれる魔族コルネアもいて楽しい日々が続いている。そう考えるとワクワクが踊るように止まらなかった。


「ん……?」


 貰った野菜を入れる為の籠を持って歩いていると先の景色に気になるものが通り過ぎる。

 自分と同い年ぐらいの背だが青い肌とベージュ色の髪が特徴の魔族の子供、ミリアだった。

 彼女も自分と似たような籠を持って何処かへ行くようだったが、その素振りは少しおどけており一目を気にしているようにも見える。


「あいつ、何処に行くんだ?」


 籠を持っているがエディが向かう先とは違う方向に行くミリアを呆然と立って見続けてしまう。

 前までは気にも留めなかったのに森でモンスターに出くわした時にミリアが庇ってくれた事が今でも覚えている。

 一度、目に入ってしまえば心のウズウズがもう止まらない。エディはすっかり本来の仕事を忘れてしまい、彼女の後を追っていくことにした。

 ミリアの背後を素直につけるのはなんとなく嫌だったので偶然を装うように少し離れ、時には隠れて追っていくがミリアはそれに気が付くことなく、そしてある場所まで辿り着いた。


「ここって……あの森か?」


 そこは以前エディ、クリス、オッドンの三人が興味本位で入ってしまい、モンスターに襲われたあの森だった。

 あの一件で両親にこっぴどく怒られたのが今でもちょっとだけトラウマになっているぐらいでしばらくは近づくことはしなかったがミリアはその森に何の躊躇いもなく入っていったのをエディは見た。

 エディも当然、その後を追おうとするが足が竦んでしまう。またモンスターに襲われるのではないかという恐怖が体を石にしてしまったかのようだ。

 だが先に行く彼女はまるで薄暗い森というモンスターに飲み込まれるような、そんな錯覚にエディは意を決して足を動かして中へと入っていった。


「ふぅ……ふぅ……。なんだここ、こんなに怖かったか?」


 ミリアの後を追って入ったのはいいが、すぐに彼女は何処かへと姿を消してしまい、入ってすぐにここにはエディただ一人だけ残さてしまった。

 引き返すなら今だが入った以上、戻るのは癪でもある。無謀と勇気が入り混じっている感情に酔いながらもミリアを探すことにした。

 前には気が付かなかったがよく見ると、鬱蒼とした空気は若干の湿り気があり、それが嫌な感触となって肌に伝わる。

 日照りの部分は少なく、かえってそれが不気味な感じになっているのはエディが以前の件で増長されているのもあるだろう。

 足を踏み入れる度に自分はこの森に食べられてしまったと嫌な考えが過ってしまうほどだった。


「か、帰りてぇ……」


 自分の行いに後悔したがもう遅い。後ろを振り向いて来た道を戻れば外に出られると思うが、実際に目にした光景は前方向と変わらない鬱蒼とした空間。

 迷ってしまったことに背筋が凍ると再び足が竦んでしまい立ち止まっていると──ガサリ、と草が擦れる音が鳴り響いた。


「──ッ!!」


 こんな空間では少しの音も敏感に反応してしまう。ピンと垂直に体を伸ばしたそれは恐怖を体現しているかのようであり、固まった体は動かず頭だけは嫌な予感で溢れていた。

 また前みたいにモンスターがこっちに来ているのかもしれない。そう思うと冷や汗が止まらなくなる。エディはなんとかして首だけを動かし音の方向に恐る恐る向けていった。


「……うん?」

「~~~♪」


 音の方向に向けたそこには探していたミリアの姿が見えると彼女は姿勢を低くして地面に生えている何かを採っているようだった。

 彼女はこの場所で暢気にも鼻歌を交えながら手を動かしており、こちらには気が付いていない。

 自分と比べて何の緊張感もないミリアの様子に何だか馬鹿らしくなってきたエディは緩んだ体が倒れそうになり、思わず足ふみをするとその下にある落ち葉が大きな音を立てた。


「あっ……」

「えっ……!?」


 二人の目が驚いた様子で交差する。ミリアは彼の姿を見て体の動きが止まり、エディもまた同じであった。

 気まずい時間がしばらく流れると、先に口を開いたのはミリアの方だった。


「あ、あの……その……ど、どうしたの?」

「……え? あ、いや……別に……。偶々ここに用があって来ただけだけど?」

「そ、そうなんだ……」


 彼女が気になって追ったことを誤魔化したエディは視線を逸らす。

 明らかに見え見えの嘘であり、自分でもおかしいと思ったが横目でチラリと見るとミリアは信じている様子に心の中で安堵した。


「……っていうか、ここで何してるの?」

「えっと……これ、採ってた」

「なんだぁこれ? 葉っぱとかキノコとか、なんか変なのばっかだな」

「お薬に使うの。いっぱい採ってくると褒められる……」

「ふ~~~ん?」

「い、一緒に採る?」


 ミリアの上目遣いの提案にエディの心臓は何故か跳ねる。

 そのせいか言葉を出すことは出来ずに頷くと彼女はほんの少しだけ嬉しそうな顔をするとしゃがんで薬草を採り始めていった。

 正直言ってエディにとって今目の前にある草たちの種類なんてわかるワケがない。会話もなくミリアが採っている同じ種類を見様見真似で摘んでいくだけの静かな時間が過ぎていった。


(ここにあるもん、全部同じじゃね? よくわかんね~)

「あ、これ……」

「え、何……?」

「これ山菜なの。食べれるよ」

「そうなんだ……」

「うん……」


 緑色の小さな蕾を彼女から渡されてたが、この静かな中で今のような会話があってもぎこちない事にエディはもどかしさを感じる。

 よくよく考えると元の村でもミリアのような同じ年の女の子はいたが関わることはほとんどなく、村の祝祭などの機会で会話をするかしないか程度の関係で終わっていた。

 こういう時、なんて話したらいいのか。男友達だとバカみたいな会話でも笑いあって話が続くがこの状況ではどんな話題を出せばいいか分からず黙々と作業を進めていった。

 やがてミリアの籠がいっぱいになると、その収穫量にミリアはやりきった顔をしつつ立ち上がると愛おしそうな目でそれを見る。

 そんな顔を隣で見ていたエディはしばらくそれを見たあと、急いで自分も立ち上がって村に帰る方向を見た。


「もういいだろ、それぐらいでさ」

「うん。でも、全然ないよ? これ、足りる?」

「あ? えっ、あっ、その、そうだな! もうちょっと採らなくちゃな! 気づかなかったわ!」

「そ、そうなんだ。じゃあこの辺にまだいっぱいあるから。私、先帰るね……」

「あ、うん……」

「じゃあね……」


 籠に入っている薬草が少しの量しかなかったのを見たミリアはまだここにいると思ったのかそのままエディを置いて帰ってしまう。

 その足は迷うことなく進んでいき彼女がここに何度も訪れていることを知ったが当然エディはここには慣れていない。

 咄嗟についた嘘のせいで彼女が見えなくなるまでその場に呆然と立ち尽くしてしまい、後悔の念が押し寄せてくる。

 その後、少し迷いながらも何とか村に戻ったエディだったが、泥だらけの体に貰う野菜が入ってないことに怒られるという不機嫌な一日を過ごしたのだった。

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