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第67話 己の心に決着を──②

 積み上げられたネクロフラワーの死体を横目にしつつ、コルネアは地面にある小石を蹴っていた。

 すでにモンスターを狩り続けるということを何度もしているが未だに心の中にあるイラつきが止まらない。

 もういっそ、何処かの魔族が喧嘩振ってくれたらいいのにと。そうすれば仕掛けられたというていで思う存分戦える上に後に起こる面倒なことも気にしなくていいのだ。


「はぁ~~~~……」


 もう何度目かも分からない大きなため息をついていると、露出している肌がピリつく感覚を知るとすぐに警戒の顔になり辺りを見渡した。

 ここは切り開かれた場所だが深い木々に囲まれている。このピリつく感じは明らかに敵意のある存在がこちらに来ていることを示しており、研ぎ澄ませた耳にはこちらに迫る音が僅かだが聞こえる。

 そしてその音は大きくなっていくのを知るとコルネアはニヤリと笑った。


(前に仕留め損ねたストーントータスよりは小さいけど、こいつも随分とでっかいな。けどハオマの足音じゃないな。あのでかく踏み鳴らす音が聞こえねぇ……)


 巨体が歩いて踏みしめる音は彼女の耳には聞こえない。かといって羽を動かすような音もないために飛んできているわけでもない。

 しかし木々は揺れている音は聞こえ、それは地面からよく聞こえる。初めての体験にコルネアの胸は高まっていた。


「さぁ、来い……! どんな奴でもぶっ飛ばしてやる……!」


 やがてその巨体が木々をすり抜けてコルネアの前に現れる。

 黒いヘドロのような塊が意思を持って這いずっており、妙に艶のあるそれは【ウーズ】であった。

 何でも食べてしまう悪食のスライムであり、通常であれば恐れることはない。通常であれば──。


「このウーズ、()()()()……。」


 通常のウーズが椅子一個分ほどで、机程度にもなればよく育った個体なのだが目の前にいるこのウーズはそれの比ではない。

 幅、高さ共によく育ったこの個体は通常の数倍以上であり、家のように見上げるほどの大きさは一体どれくらい食したらこうなるのかと思ったがその答えはすぐに出た。


「あ~なるほど、争いで死んだ奴を片っ端から食っていったのか。ネクロフラワーの数的に多分それだな」


 粘りのある音を鳴らしながらゆっくりと巨大ウーズはコルネアに迫っていく。

 それは正に獲物を追い詰めるかの如くのようで、普段は狩られている側の存在にこんな気持ちにさせられたことにコルネアは心の中で舌打ちをした。


「でもテメェを倒せば、アタシの気持ちも晴れるだろうな! 来やがれ!!!」

「──ッ!!!」


 コルネアの挑発を込めた声に巨大ウーズは反応し、ゆっくりとした動きが急に早く変わっていく。

 近くにあるネクロフラワーの死体を巻き込みながら這いずり、体の一部を伸ばすとコルネアに向かって叩きつけた。


「はっ! トロいよ!」


 触手のように伸ばしたこの攻撃はその重量を表すかのように地面にめり込んでおり、触手の近くは含まれていた酸の匂いと煙が立ち上っている。

 食らえばひとたまりもないがその攻撃は十分見切れている。本能に従った直線的な動作など、コルネアには何も脅威ではなかった。

 コルネアはそのまま触手の横を通り抜けるように本体に向かって走っていく。

 この重い一撃を巨大なウーズも完全にコントロール出来てはいない。現に次の一手を行うのに動きがかなり遅い。ならばこの機を逃す手はなかった。


「オラァ!!」


 コルネアの拳が巨大ウーズにめり込み、そのまま前腕部まで進んでいく。

 ウーズの体の中には酸が含まれている。当然、めり込んでいるこの腕もその酸にやられるがそんなことコルネアにとって構いやしない。

 肉を切らせて骨を断つ。オーガ族の好む粗い戦略だが目の前にすればその恐ろしさは凄まじいのだ。


「ぐぅ……、まだだ、こっから!」


 腕が酸でやられる前に空いた片方の手をめり込んだ二の腕をしっかりと強く掴む。

 体にある生命力を闘気に変え、それをこのめり込んだ腕の先に集中していく。

 熱を帯びるほどの力がこの腕に蓄えられ、やがてそれは先端にある拳に到達するとそれは解き放たれた。


「弾けろッ!!」


 一か所にエネルギーを集中、そして収縮したそれを一気に放つ。

 小さい拳から発生する破壊のエネルギーは噴出された瞬間の勢いが凄まじく、それは確かに巨大ウーズに大きな衝撃を齎した。

 オーガ族は巨躯の種族だがコルネアはその中でも小さいほうである。

 故に力を求める中で彼女なりに編み出した技であった。


「……なっ!?」


 だが以前としてめり込んでいる腕が巨大ウーズの中に取り込まれたままになっており自由にはならなかった。

 攻撃の手ごたえは確かにあった。だが巨大ウーズは襲い来る衝撃をその緩い全身を使って受け流したのだ。

 それにはウーズ自身にも受け流すほどの十分な技術とそれまでに体が弾けないよう耐えうる生命力がいる。それはコイツがこれまで狩られずに死体を食い漁り、力をつけてきた"生き残り"であることを示してた。


「そんな……くそっ、うっ!?」


 渾身の一撃が効かなかったことにコルネアは焦り、急いで腕を引き抜こうとするがその力は凄まじく抜くどころかさらに奥へとめり込んでいく。

 この腕の周りに穴すら空けられてないことを知ったコルネアの目にさらに別のものが映った。

 巨大ウーズの中、黒いヘドロのようなものだが僅かな透明性にある物体が見える。

 それは先ほど巨大ウーズの這いずりによって巻き込まれたネクロフラワーの死体たちであり、内側にあるその形が明らかに歪なのだ。

 その歪は単に肉体がへしゃげたものではない。丸くなるよう小さくなっているそれは今も溶かされている光景だった。


「──……っ!!!」


 その姿にコルネアは思わず自分と重ねてしまった。このままではこうなるとこちらに暗示しているようでもあった。

 その恐怖が頭、そして体を支配するのに時間は掛からない。攻撃してどうにかするという発想はすでに消えてしまい、今すぐにでもコイツから離れる、いや逃げなければならなかった。


「くっ……! くうぅ、うううっ!!!」


 めり込み続ける腕からなんとかしようと巨大ウーズに空いた手と足で殴り、蹴りを入れていく。

 だがその体は弾力があり、捕まっている不安定な体勢では弾かれてしまい風穴を開けることすらできない。

 今まで興奮していた為に気が付かなかったが、恐怖のほうが増してきた途端にめり込んだ腕から酸による痛みが頭を貫いてくる。

 オーガ族にとって普通であればこんな程度の痛みなど慣れているはずなのだが、恐怖に支配されたコルネアにとってそれは逆に膨れ上がっていた。

 やがてめり込んだ腕は肩にまで迫り、今度は体に密接した部分から飲み込もうとしてくる。

 ここでようやくコルネアは冷静になり、先ほどと同じよう再び生命力を闘気に変えて攻撃しようとした瞬間だった。


「──うぐっ!?」


 獲物が強く抵抗してくるのを察したのか、巨大ウーズはコルネアを巨木に挟むようにして体当たりをする。

 二度目は御免だ、と言わんばかりの勢いは巨大ウーズにとっても未知の経験であり恐れていたのだ。


「うあっ!? や、やめ……、ぐっ……、うっ、うぅ……。…………──」


 念には念を。それを体現するかのように何度も何度も、獲物が抵抗しなくなるまで続けたこれにコルネアもついに力が抜けてしまう。

 オーガ族の生命力の高さのせいか、なまじ意識だけはあるこの状態は最早地獄といっていいだろう。

 先に取り込んだネクロフラワーのほとんどは消化を終えている。今度は新鮮な獲物を食い尽くそうと巨大ウーズは飲み込もうとしていたのだった。

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