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第64話 次なる段階

 地面が割れている不安定な足場の中でラギナのカウンターが見事に決まり、コルネアは腹部に爪を立てられながら仰向けに倒れている。

 勝負が決まった雰囲気を察したリンゼルは急いで彼らに寄るとまだ戦いの気が収まりきっていないラギナに声を掛けた。


「やったのか!?」

「ああ。これで勝負はついた」

「今の戦い……こっちまで衝撃が来るほどだったのにこの子、まだ意識があるなんて……」

「オーガ族の特性だな。こんな見た目でも身体は頑丈なんだ」


 目を食いしばりながら痛みに耐えているコルネアを見てリンゼルは思わず呟いてしまう。

 確かにラギナのいう通り、彼の力で腹部に爪を立てられて投げられれば、食い込んだ部分なんて地面に伏せられる途中で真っ二つに引き裂かれてもおかしくはない。

 そんな彼女の腹部は爪が食い込んで血が出ている程度であり、改めて魔族というのが異質な存在なのだと感じた。


「痛つつ……。ま、まだだ……アタシはまだ戦える……!」

「いやお前の負けだ。この状況をお前が打開する術はない」

「なんだと……? ふざけ──」


 ラギナの言葉にコルネアは反射的に体を起こそうとしたがその手前、キラリと光る殺気が首元に迫ったのを感じて動きを止めた。

 動き出す瞬間には既に腹部にたてられた爪を引き抜き、それを喉に向けている。顔だけをゆっくりと動かして上を見上げるとラギナの鋭い眼光が見下ろしているのを知ると、次はないということを意味しているようだった。


「うっ──」

「理解したか?」

「……わかったよ。アタシの負けだよ」

「よし」


 負けを認めたコルネアを見てラギナはその爪を立てている手を離したのを見て彼女も立ち上がる。

 まだダメージはあるようで何処かぎこちない動きであったが依然として目つきは睨んでおり表情も納得していないようだった。


「だけど、今回だけだ」

「何……?」

「アタシは全力でやったのにアンタは本気じゃなかった。まるでこっちに興味がないようなそんな顔、ずっとスカしたような感じが本当にムカつく……。だから次は絶対に負けない。もっともっと強くなって、今回で本気を出さなかったことを後悔させてやる……!」


 コルネアはそういうと足を引きずりながらこちらに背を向けて何処かへと去っていく。

 まだ傷も癒えきっていないその体のままでは魔族側では危険である。ラギナは彼女を労わろうかと声を掛けるつもりだったがそんな雰囲気ではないことに言葉は喉元で止まってしまった。

 そんなことを思っていると事が終わったのを見計らってリンゼルがラギナに問いてきた。


「ねぇラギナ、一つ聞いていい? なんで今回の戦いであの赤いのを出さなかったの?」

「あれか。あれを放てばかなり強化されるが見境が無くなる。俺自身、あれを完全に制御出来てるわけじゃないんだ」

「だからあのと戦った時もやらなかったの?」

「そうだ」

「なるほどねぇ……。それじゃあ、あんな気持ちになっても仕方ないか……」

「……?? どういうことだ?」

「わからないの? あの子はどんな形であれ本気の貴方と戦いたかった。でも貴方はそれをしなかった。そんなの納得できるわけない。勝負には勝ったけど、恐らく何処かで同じようなことをあのはしそう。この結果を見ると根本的な解決にはなっていないね……」

「むぅ……」

「……その顔、なんだか貴方も納得してない感じか。確かにあの赤いのを解き放ったら、貴方は暴走してしまうかもしれない。でも──」

「……?」

「これは私の感覚なんだけど、今の貴方なら大丈夫な気がする。だからもっと、自分を信じてあげて。さて、さっさと戻って報告してミクス村に帰ろう」


 こちらを見上げてそれを言うリンゼルの顔は自身に満ち溢れている。

 そんな彼女の先を行く背は眩しく、それはラギナの心の疑念を晴らすようでもあった。



 ──ゴルゴダス卿からの依頼を終えて戻った二人は報告すると約束通りミクス村との商業ルートを繋ぐよう根回しをしてくれるようだった。

 そのおかげが以前にも増してミクス村は訪れる商人によって活気が溢れており、始めの方と比べるとそれなりに賑やかなな村にはなった。だが──。


「はぁ……」


 部屋の中で一枚の紙を見ながらリンゼルは大きなため息をつく。それと同時にラギナが今日の収穫を報告するためにここに訪れていた。


「どうした? 溜息が深いぞ」

「んんん、あぁ……何事も順調、なんてことは起きないんだなって」

「何かあったのか?」

「人がね……減っているの」

「人……?」

「そう。ここの大半はモンスターの襲撃を受けた前の村から避難として移住してきた人で、その村の復興もほとんど終わっている。当たり前だけどだからそこに帰る人が出てきたってこと」

「そんなに深刻なのか?」

「人手が足りないから本当ならここに住んでほしいところだけど、魔族に対した偏見も元々あったけど以前に魔族に襲撃されたでしょ? アレがやっぱり響いているようでここに住むには不安があるって……」

「そんなの。俺とモログがなんとかすれば……」

「それだけじゃダメ。もっとこう、人を増やして村から町になるようなことをしないと……せっかくバード公からの支援も受けているのにこれじゃあ持ち腐れになってしまう。それも結局、手が無ければ進まないってこと。ここのリスクを加味してもあっちからここに住みたいと思えるような、それぐらいの魅力がないと……」

「それだったら、アッシに考えがありますぜ、お二人さん!」


 悩む二人の中に突如として声が聞こえ、驚きながらそこに顔を向けるとリザード族のキッカがいつの間にかこの中におり、手を振りながら二人に挨拶をしている姿であった。


「キッカ! お前なんでこんなところに……!」

「いやいやいや旦那。あっしは耳がいいんで聞こえちまったんですよ。あっしも旦那の力になりてぇって常日頃から思っててさ。だからあっしのアイディア、ちょいと聞いてみません?」

「お前が絡むとロクでもないことばっかだ。すまんリンゼル、コイツをつまみ出してくる」

「そんな殺生な! 話だけでも聞いてくださいよ~!」

「待ってくれラギナ。彼の意見を私も聞きたい。聞くだけならいいでしょ?」

「う、うむ……」

「さっすがここの主様! 話分かって助かりますよ~」

「さっさと言え」

「はいはい……。えっとですね、要はここから出ていくのを止めたいって話でしょ? そりゃあ働き手が出ていけばそれだけで廃れちまいますからね、そんなこと色んな場所で見てきましたぜ」

「何が言いたい?」

「つまりこの村に魅力がないから出て行っちまうんですよ。だからその魅力をもっとこう……ばぁ~っと増やせばいいんでさぁ。さてそこで問題なのはどうやって魅力的するか……。商業ルート開拓してここに商人たちが来やすくしたのはいいが、いかんせんその品がねぇ……」

「ダメなのか?」

「あ~ダメダメダメ、てんでダメ! あ~ま~り~にも貧弱っ! ちょっと珍しい薬草? 育ちのいい野菜? そんなの栄えているところの近くだったら何処でもありますし、しかもそれだけじゃないですか。はっきりいってここに来る人間の同業者はあっし目的で来てるってーのもありますぜ? おかげで品薄で仕入れが大変でさぁ~。──そ・こ・で、ウチらの方にちょいと足、伸ばしてみませんか?」

「何……?」

「品を増やすんですよ。魔族側の地に行って採れるモンを持ってくるんですよ。考えてもみてくださいや。ここでしか買えない調薬に使えるもっと珍しい薬草。こっちでは採れない希少な鉱石にそれを加工する技術者もいる。あぁモンスターの素材でもいいですねぇ。こっちで見れるモンスターの素材なんてしょっぼいですけど、あっちならそれなりにするんじゃないんですかね?」

「なるほど……。確かにそれを資金にしてもっと発展させることもできるか……」

「そうそう! 皆珍しいモンには群がるモンです。そして金の匂いってぇのは甘美でねぇ~……そこに匂いがあれば自然と居ついちゃうモンなんです。こっちでは傭兵とか冒険者とかそういうのって危ない場所や知らん場所に行ったりするでしょう? 多少のリスクがあっても金があればいっちまうもんなんでさぁ」

「しかし……本当にうまくいくのか? それ」

「あっしの目に狂いはありませんぜ旦那、信じてくだせぇ! まぁそうですね……まず手始めにオーガ族の里なんかと交流しちゃぁどうですかい?」

「……!!」

「お前、なんでそんな話になる?」

「さっきも言ったでしょう。()()()()んでさぁ、あっしは。丁度いいんじゃないんですか? 初めにアプローチを掛ける場所としてはね」

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