第57話 村の悪ガキ三人組
保護されたダークエルフのフィナもあれから食事を摂れるようになってから少しずつ体調を回復していき、それに付き添っていたミリアとクローディアもほっと胸を撫でおろしていく。
そんな彼女を今日は家の外に出てみようということになり、それにはミリアの他にクローディアも一緒だった。
「今日は天気がいいから、出歩くには最適ね」
「だ、大丈夫だよ。皆優しいから……」
体調は良くなっていったが外という世界にフィナは拒絶的な反応を示しており、それは元々ダークエルフという閉じた世界で生きてきた内向的な部分があった。
しかもシャムラの一件でそれがトラウマになっており、彼女の気持ちを考えれば分かることだったがミクス村で暮らすことを考えるとこのままではフィナの為にはならないという判断だった。
ここに通っているミリアを迎えに来たラギナにはまだであるが幸いにもこの二人、特にミリアには心を開き始めている。
玄関前まで来た彼女が戸惑いながらも、ミリアの手を目を瞑りながらとった。
「偉いね。それじゃあ今日は軽めに近くの原っぱまで行きましょうか」
フィナにとって勇気を示した行動を褒めつつ、クローディアは玄関の扉を開けるとそこから外の風が吹いてくる。
今日は風が少し強くちょっと肌寒く感じるが、照らされた陽の光で丁度良くなる気持ちのよい日であり、それは勇気を出して外に出たフィナを祝福するようでもあった。
「わぁ……っ」
「原っぱはあっちだよ」
ミリアの手に掴まりながらフィナと一緒に歩いていき、その後ろを見守るようにクローディアが付いていく。
初めて見る村の光景に戸惑いながらも歩き続けるその速さに合わせ、やがて村から少し離れた場所に草原が広がる場所に辿り着いてその中央まで歩いて行った。
「ここ、いつも遊ぶところで、お花の輪っかとか作ってるの……」
「今日はフィナちゃんの為に色々作ってあげましょうか」
「うん……!」
ミリアはフィナと一緒にここに生えている小さな花を摘んでいく。
ラギナと野草を採っていたこともあるためかその手際は良く、フィナの分までたくさんの花を摘んであげていた。
季節は夏が始まる前で、日差しが暖かい今日は畑仕事を終えたトレント族のトリンとドリアードたちも休憩のために近くで日向ぼっこをしている。
集めた茎付きの花たちはクローディアが持参してきた細い紐にうまく絡ませていき、花のブレスレットを作っていった。
「フィナちゃんは、こういうのしたことある?」
「ううん。いつもは小鳥たちとお話してる」
「そ、そうなんだ」
「でも、これも楽しい」
「……!」
風が吹いて草が擦る音を聞きながらミリアとフィナの二人で花のブレスレットを作っていくのを静かにクローディアは見守っていた。
そんな中で遠くで小さな人影がこちらに向かってくるのに気が付いたクローディアはそのまま顔を向けるとそこには人間の男子で、彼らはマッドマンの襲撃でここに避難してきた子たちであった。
──マッドマンの大群の襲来によって住んでいた村を追われた者たちはミクス村を避難場所として暮らしており、奴らが残した爪痕を処理するまでの一時的なものであった。
ここに来た者たちは待遇の良さのおかげか、このまま暮らしてもよいという者も現れたがやはり元の場所に帰りたいというのも少なくはない。
特にその元の村の世界しか知らない子供たちにとっては環境の変化に戸惑う子たちは少なくはない。その募っていく不安を紛らわすように今日も遊びに出かけていた。
「あ~そろそろ家に帰りたいよな~。いつまでここにいるんだ?」
「モンスターの後片付けがもう少しで終わるらしいって。父ちゃん言ってた」
「でもパパとママはここに居てもいいかもって言ってた。俺は嫌だよ」
「確かにバラバラになるのは嫌だよな。皆で帰るって出来ないのかな?」
「それよりも今日何処で遊ぶ? 大人の目がないとこがいいな」
「原っぱのあそこは飽きたしなぁ~……。ん? 誰かいんぞ?」
エディ、クリス、オットンの村では悪ガキ三人組はエディを先頭にして他愛のない会話をしつつ原っぱに向かっていくと、そこには先にいたミリアたちが見えると三人は少しだけ不機嫌な顔になった。
「おい、青の魔族の奴がここにいるぞ……」
「うわぁマジかよ……他にもいるし先にここ取られてんじゃん……」
「エルフの姉ちゃんもいる」
「てか知ってる? リグのおっちゃんとエルフの姉ちゃんって実はマゾクじゃなくてアジンって言うんだって。父ちゃんが言ってた」
「え~? それどういう意味? 魔族じゃないって、あの青いのと同じじゃないの?」
「う~~~ん、俺もよくわかんない。父ちゃんが言ってただけだから」
「それよりも俺たちの遊ぶ場所どーすんだよ」
「あっ……」
三人で小声で話している間にミリアがエディたちと目が合うと他の二人もそちらに気が付きフィナは思わずミリアの後ろへと隠れてしまう。
まるで自分たちが嫌な奴みたいな扱いされたような気分になったが、そのあとにすぐクローディアが柔らかな表情をしながら会釈をしてきた。
「坊やたち、こんにちわ」
「あっ……、こ、こんにちわ……」
「お、おいそれでどーする? 他で遊ぶ場所ないぞ?」
「あ~、帰れば俺たちの秘密の遊び場あったのになぁ~……」
「……それじゃあさ、それをココに作ればよくね?」
「えっ……?」
エディの閃いた一言に他の二人も目が丸くなりながら彼に耳を貸す。
「俺たちの遊び場って森だったじゃん。今日はそこ行こーぜ」
「森~? でも大人がダメって言ってるしさぁ……」
「大丈夫だって。ここもあそこと変わんない感じだから。そんな感じしない?」
「う~~~~ん……。確かに?」
「だろ? ここにはエルフのねーちゃんしかいない。今なら行けんじゃね?」
「…………そうだな!」
「行こうぜ!」
見通しのよい原っぱには今はミリアたちとエディたちしかいない。
このまま森の行ってしまうとすぐにバレてしまうが、彼女たちが花を摘むことに夢中になっていることを考えるに少し遠回りをすれば搔い潜ることもできるかもしれない。
村の暇な時間を遊ぶために使う悪知恵は育っている三人組は早速その行動に移していったのだった。
「ね、ねぇ、クローディアさん」
「なぁに? もしかしてお花のが完成した?」
「ううん。そうじゃなくて。さっきの子たち……」
「あぁ……。あの子たちは何処かに行っちゃったね。それがどうかした?」
「う~~~ん……。なんか森の方に行った感じがあって……」
「え? でも、村の方に向かっていったけど……」
悪ガキ三人たちが姿を消してしばらく経った後、ミリアの言葉にクローディアは立ち上がって周囲を見渡す。
そこにはすでに彼らの姿はなく、代わりに日向ぼっこをしているトリンたちを見つけると急いで彼らに近寄って尋ねた。
「ねぇトリン、起きて」
「んん~? あぁ、エルフの者か。トリンに何の用?」
「この近くで人間の子供たちが通ってなかった?」
「んんん~~~……。トリンたちずっと寝てたから……。でも何か小さいモノが動いてたのは知ってるぞ」
「それって何処に行ったかわかる?」
「ん~と……森の方、かなぁ……?」
トリンの大きな指が示した森は魔族側の方なのを知ったクローディアは恐らく子供たちは人間側の森の方に向かったと勘違いしてしまったと想像すると顔が青ざめていった。
「も、もしかしてトリン、いけないことしたか?」
「いや大丈夫……。それよりも大変なことに……。今すぐ誰かにこれを言わないと……!」
焦るクローディアは子供たちが迷い込んだ森に救援を求めに村の方に駆け出していく。
この場に置いてかれた二人は走り去る彼女を見送った後、森の方角を見たミリアはフィナにここに居てとお願いをすると意を決して森の方へ入っていったのだった。




