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第53話 聖騎士リンゼル──③

 ネクロ族を村から逃がす為にもまずは自分たちの任務を優先すべく、鉱山までの道のり、そして入口に蔓延る死霊系のモンスターを討伐するためにリンゼルは部隊を引き連れていく。

 ここの任務を終えてその道に浄化作用のある聖粉などで整備すれば一先ず村の安全を確保できるために彼女の手にも力が入っていった。


『下位の死霊モンスターしか報告されてないが油断はしないように』


 鉱山の入り口まで近づいたことでモンスターの気配を感じたリンゼルは近くにいるモログを含めた部下たちに警戒の胸を伝えると彼らも武器を構えるとそれらは姿を現した。

 処理されなかった死体に魔力が宿ったことにより生まれた【ゾンビ】、その魂も浄化されずに半透明の物体となって生まれた【レイス】。

 どちらも"足りない部分"を補う為に生きる者を襲うモンスターであり、放置すれば増えるどころか進化してしまう厄介な相手であったが幸いなことにそれらはまだ初期段階であり、しかもこちらには死霊系には効果が抜群な聖力宿した武器を持っている。


『──出たッ!』

『数はそれなりか。これ以上増えても面倒だな。さっさと片付けよう』

『了解!』


 死霊モンスターの群れは動きが鈍く、リンゼルの統率力と訓練された部下たちの活躍により特に苦労もなく倒していく。

 唯一の懸念点があるとすればコレと遭遇する場所が想定していた所よりも早かったという事だが、このまま何事もなければ夜までは掛からないはずだった。

 襲い来るモンスターの数も半数近くになっていった時にふと、リンゼルは先ほどの懸念点に頭を過っていた中で近づいてきたモログがリンゼルの背面を庇うように立ち回りながら口を開いた。


(ここは調査したものによるとモンスターの遭遇しない道のはずなのに、どうしてこんなにいる?)

『リンゼル様、数もだいぶ少なくなりましたが……しかしここで戦うことになるなんて一体何処から沸いてきたんでしょうか?』

『こいつらの動きを見るに鉱山の方からこっちに来たっぽいな。……こっちに来た?』

『どうかしましたか?』

『モログ、こいつらはもしかして、"あっちに引き寄せられている"……?』

『そんな、まさか──』


 リンゼルの言葉にモログはハッとした顔で周囲を見渡す。

 他の部下たちが対処していく中で、よく見るとゾンビやレイスは目の前の生きている者に襲い掛かろうとしてるワケではなく、その奥に続こうとしているのが分かる。

 その過程でこちらが立ちはだかっている為に気づきにくかったが、この道の端は森が広がっておりその中にもいくつかのモンスターたちが通り過ぎていくのが見えた。


『例のアイツがコイツらを呼んでいるということですか!?』

『──否定はできない。だったらコイツらを早く何とかしないと』


 迫りくる死霊モンスターの数は少なくなってきているとはいえ、長時間の戦いによる消耗は少しでもこちらの戦力が低下すれば瓦解する可能性も出てくる。

 リンゼルは剣を掲げながら聖力を宿して一気に片を付けようとした時、モログが手に持ったメイスでそれを制しながら前に出た。


『ここで貴方の力を消耗すれば、万が一の時に取り返しのつかないことになります! ここは我々に任せて村の方に!』

『だ、だが!』

『心配しないでください。我々は貴方の元に集った身。こんな奴ら程度でやられるようなやわではないのです!』

『──ッ! すまない……!』


 モログの言葉に他の部下たちも気づき始めてリンゼルに向けて頷く。

 そんな彼らを見てリンゼルは剣を鞘に納めると苦い顔をしながらこの場所を託して村の方へと走り向かっていった。

 鉱山と村の間はそれなりに遠く、辿り着く頃には時刻はすでに夕暮れ。

 村が死霊モンスターの群れが集まっているのはネクロ族が関係している可能性があり、それは彼が裏切ったということになる。

 最悪の状況が頭に過ったことに唇を嚙みながら走っていくと、やがて村に辿り着くとその光景に目を疑った。


『こ、これは……』


 息を切らしながら村の入り口で思わず立ち止まってしまったその理由は、その村がほとんど荒れていない様子だった。

 正確には死霊モンスターが襲ってきた痕跡は村に戻っている時に感じており、その入り口には倒されたモンスターの跡がある。

 念のために剣を鞘から抜いて構えながら中に入って調べていくと始めは村人たちが決死で抵抗したのかと思ったが、それはすぐに違うことに気づかされる。

 村の中央、広場になっている場所に絵の具によって人の姿になっていたネクロ族が力尽きたかのように膝をついており、その周辺に夥しいほどの死霊モンスターが倒れているのが見えた。


『一体何が……お前がやったのか……?』

『…………』


 ネクロ族はまだ意識があるのか僅かに視線をこちらに向けると人に化けていた絵の具が剥がれ落ちるように取れていき、地面に広がるがそれも自身の腐食した肉と共に混じっていく。

 他の村人たちの姿が見えないのを考えるに彼がこのモンスターの群れを引き受けていたとすぐに予想がついた。

 人の姿に化けていた、ということは自分の本性をバラさないように立ち回っと見える。

 本来、肉体が強くはないネクロ族は魔術や呪術などの力を扱うがこの様子を見る限り使った痕跡はないのがその証拠だった。


『一人で皆を救うためにこんなことを……?』

『おい! モンスター共が倒されているぞ! リンゼル様もいる!』

『……!』


 彼の近くに向かおうとした時、遠くから村人たちが安全になったのを確認して戻ってくるのが見えたが、彼らの視線はリンゼルの思っていたモノとは違うことに思わず背筋が凍ってしまった。


『おおっ! リンゼル様が魔族を倒してくれたのか! やっぱり魔族のせいでこんなことに……』

『おい! こいつまだ生きてるぞ!?』

『あいつ、あんなんでもまだ息があるのか!? リンゼル様、逃げる前に早く止めを!』

『早く倒して!』

『……っ!!!』


 事情を知らない彼らの視線には膝をつく魔族の前にリンゼルが剣を持っているという構図になっている。

 それは正にトドメの一撃をする手前であり、彼らの視線は恐れの中に熱が帯びていることにリンゼルの心は慄いた。


『私が……コイツを……?』

『村をめちゃくちゃにしやがって……』

『聖騎士団がいなくなったのを見て襲ってきたんだ! 魔族ってやつは本当に……!』

『殺せっ!』

『殺せっ!』

『殺せッ!』

『…………』

『うっ……』


 すでに塗料が取れているネクロ族に彼がモンスターたちを倒したという証拠はない。

 だがそれを行ったというのは遠目から見ていた画家の信じられないような顔と目が突き刺さり、体が静かに震える。

 しかし罰を欲する村人たちにリンゼルは答えなければらなかった。

 ここで躊躇えば聖騎士団の信頼、果ては聖教会の信仰に傷をつけてしまうことになる。

 リンゼルは剣を握る手が震えるのを抑えながらそれを空に刃の先を向けた。


『……──すまない』


 誰にも聞こえないよう、通り過ぎる風にすらかき消されるほど小さく呟き、その掲げた剣を縦に振り下ろした。

 ネクロ族の首を飛ばして虚ろな目で空を見上げると夕暮れの空は少し紫掛かった。

 あの後、鉱山の方で別れた部隊と合流したリンゼルは死霊モンスターの討伐に成功したことを聞く。

 さらに元凶だった魔族の討伐も出来たことで村の人々に感謝されてはいたが、この場で真相を知るのはリンゼルとモログ、そして画家の三人だけだった。

 画家からの当時の状況を聞くと、向かっていったリンゼルたちとすれ違うように死霊モンスターが村に襲ってきたのを見て、ネクロ族が画家の使っていた塗料を体に塗ると人の姿に化けてモンスターたちを一人で対処しにいったという。

 彼を止めようとした画家も危険だと言われながら他の村人に安全な場所まで連れていかれ、しかし魔族とバレれば自分の身も危ないことをここで気が付いてそれ以上何も出来なかったという。


『魔族の彼と過ごしたあの時間はとても奇妙でした。もしあんな事が起こらなかったら、あの平和な事がずっと続いていたのでしょうか……?』


 全てが終わり、村を去る前にリンゼルに言った画家の言葉が胸に突き刺さる。

 魔族と人間がいがみ合いもなく共に暮らせる世界。これが本来あるべき世界なのでは?

 そんな疑問が頭から離れなかった。それを振り払おうと教会にある女神像の前で祈りをどれだけ捧げても晴れることはなかった。

 やがてこれに耐えられなくなったリンゼルは聖教会の大司祭にこの事について相談した。彼は父親と仲が良かった間であり、叔父のような存在でもあった。


『魔族と人間、私はあれを見て共に歩み寄れると思うのです。司祭様、私は今おかしいことを言っているのは分かっています。普通はありえない、と誰もが思うことでしょう。しかし私にはその可能性を否定できる自信はありません』

『なるほど……。貴方の悩みはよくわかりました。しかしまぁ、これも運命なのですかね」

「司祭様、運命とは一体……』

『実はですね……ある計画があったのですがうまくいきそうになくて白紙になったものがあるのですよ。それは今、貴方が言っていた共存、いや共生の道です。和平が成立したすぐにその話が出ましたが反対の意見が多くて無理でしたが……。もし貴方がそれに先に立つ人になるというのであれば今なら可能かもしれません。しかしこれは大きな事、それには代償がつきものです。それでも貴方はやり遂げようと思いますか?』


 聖教会の在り方に燻っていたリンゼルにこの一言は正に天からの一声であり、悩む時間はなかった。

 リンゼルは大司祭の前に膝をつき、これを承諾したがその時に彼の顔が僅かに歪み笑ったのを彼女が気づくことはなかった。

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