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第51話 聖騎士リンゼル──①

 ──聖力。人間のみが使えるその力がいつ発現したのかは定かではないが魔族がロミナ大陸に出現したのと同時期であると人間側の文献にはそう記載している。

 太陽のように光り輝くその力は魔族に脅かされてきた人間にとって救いの力であり、のちにそれが信仰の対象になっていった。

 ロミナ大陸、人間側の中央に作られた聖都クリアロンド。調和の神セフィリナの信仰を元に人々が集まると聖教会の為に【セフィリナ聖律機関】が誕生し、そこから三つの組織が出来上がる。その内の一つ、魔族やモンスターに対抗するための組織【セフィリナ聖騎士団】が生まれた。

 リンゼルの父親もそこに聖騎士として属しており、騎士団の中で最も高い位【マスターナイト】の称号を手にしていた彼は百年戦争の時代においてその活躍は辺境に住む魔族にも耳に入る程の恐怖の対象であった。

 その娘、リンゼルが物心ついた頃にはすでに父親は殉職してしまった。だが父親の生き様を知ればその道に進んでいくのは自然な事であったが、それを志した幼い時期の彼女にとってそれが茨の道だということに気づくはずはなかった。


『女が騎士を目指す? なんてくだらないことを』

『女には女の道があるだろうに。その血筋なら何故大人しく神官の道に行かないのだ?』

『父親の後を追う、か……。聞くだけなら美談だな。無謀だが』

『立派な道を外れてまでそんなことをするとはねぇ。なんともまぁ、気分屋()らしいな』


 周囲の大人たち、引いては周りの同期の評価は常にこれであり、それはリンゼルが歩む道がいかに険しいものになるのかを意味している。

 男と女という性の差による職の違いは身分にも現れている現実は非常だった。

 父親が聖律機関の所属、その位は【マスターナイト】で人望もあったことから彼女の家は裕福であり不自由な暮らしはなかった。

 故に神教学校という花園に進むことも不自然ではなく、無難に修道女シスターの道にいくのもよし。エリート街道を進むのであればそのまま神官の道に行って三つの内の組織【セフィリナ聖神官】に属することも出来た。

 だが彼女はその道に従わなかった。リンゼルは敢えてその道を蹴ってセフィリナ聖騎士団の門を叩いたのだ。

 当然、周囲からは猛反発を受け、時には心無い言葉も浴びせられた。だが彼女はそれらに惑わされなかったのは誰よりも自分を信じてくれる母親の存在が大きかった。


『パパと同じになりたい……?』

『うん! だってパパは凄かったんでしょ? 皆を助けてたって、だから私もそれになりたい!』

『そっか……。本当にあの人の子なのね』

『……?』

『大丈夫リンゼル。貴方は私たちの子だもの。自分の思う道を行きなさい。私があの人だったらきっと、同じことを言うと思うから』

『うん! ……でも、もしもまぞくっていうのと仲がよかったら、パパとお喋りできたのかなぁ……?』

『……パパはもういないけど、でも貴方のその思いはパパと同じよ。だからそれを思い続けるかぎりずっと一緒だからね』

『ママは?』

『もちろんママもよ。当たり前じゃない、私とあの人のなんだもの』

『えへへ……』


 子供だった頃の記憶にあるその言葉を胸にリンゼルは遂に聖騎士団に入団することになった。

 入団試験は基礎的な剣技であったが幸いにも彼女には父親の才能と信念のおかげで問題なく突破した。

 聖騎士団が設立されて初めて、女性が騎士として認められた瞬間であった。


「初めてって……凄いじゃないか」

「ありがとう。でも、苦労はしたよ。本当に」


 リンゼルは無事に聖騎士団に所属することになったが、それは初の女性ということもあり見習いの時代は孤独との戦いでもあった。

 なまじ才能があったせいか疎まれることもあった為、性の差というのもありそのトラブルは少なくなかった。

 母親という学業に専念していた時にいた心強い味方もそこにはいない。

 リンゼルはまず、この差を無くすことから始めるしかできなかった。

 才能があるとはいえ鍛えなければ脆くなって腐る。基礎鍛錬以外にも聖技という聖力を扱った技を習得することも力を入れた。

 だが時が経つにつれて他人が自分を見る目が違う事に気が付いた。性的なものもあったが大半は彼女を通して父親を見ているものだった。

 聖技や剣技を習得しただけではなくそれを扱った父親と比較されたのだ。当然、技の質はリンゼルのほうが悪い。


「不思議でしょ? 尊敬していた父さんと比べられて、でもそこに近づいていたから名誉のはずなのに。──あの時は全然、嬉しくなかった」

「…………」


 この頃からだろうか。リンゼルはセフィリナ聖騎士団、いや聖教会全体に何処か違和感を感じていた時は。

 それは組織に関われば関わるほどその違和感の理由は分からないが拭い取れず、逆に少しずつだが膨らんでいった。

 この時期、見習いを終えたリンゼルは聖騎士としての任務に勤しんでいた。積み重ねた剣技と研ぎ澄ました聖技によって各地で暴れるモンスターを一層するほどの力を付けた彼女はついには【マスターナイト】の一つ下、【ディバインナイト】の称号を得るまでに至る。それは初の女性騎士としては快挙であり、後に続く新米たちにとって希望の象徴になるほどであった。


「上から二番目って、そこまで上り詰めたのか」

「実際は肩書だけで大したことなかったけどね。連中にとってその地位にいるのが()というのが気に食わなかったらしい」


 リンゼルは【ディバインナイト】という称号を得たのにも関わらず、その実力は存分に発揮されることはなかった。

 もし今も戦争が続いていればその実力は大陸中に轟き、新たな【マスターナイト】になれたことは予想がつく。

 しかし現在では百年戦争は終わり、その後始末に国が追われている。つまり彼女の力はこの時代では過剰で持て余していたのだ。

 故にリンゼルの主な仕事はモンスター討伐から上層部での雑務へと変わっていった。

 書類仕事もここで覚えていったと同時に鍛錬の時間は少なくなったことで自身の腕が錆びついていくのを感じていたがそれを止めることは出来なかった。

 そしてそれは同じ地位にいる者たちによる策略であるということを知るのに時間は掛からず、それは違和感が疑心に変わっていった時でもあった。


「あの時は澱んだ水の中にいる魚の気分だった。生かされているのだけが分かる、あの重い感じ。あの時の私は多分皆から必要とされてなかったと思う……」


 飼い殺しにされたことで心も殺されていくのが嫌でも理解する。

 それでもこの組織に入った以上、そこで生きていくしかない。何かを成そうにも横から手が出てきて邪魔をしてくる。

 幼い時に夢見た聖騎士団の現実に打ちひしがれ、後輩たちからは新しい時代への希望の象徴として見られる。

 板挟みになっていたリンゼルの心が壊れていくのは時間の問題だった時にリンゼルはある任務についた。


「そんな時に受けた南部に増えたモンスターの討伐依頼。当時は他愛もないと思っていたけど、それがきっかけで私は変われた出来事だった」

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