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第4話 外におでかけ

 彼女の自前の回復力の高さのおかげなのかミリアの体調が日を追うごとに良くなっているのを見て今日は一緒に森の中へと二人はそこにいた。

 いくら体が良くなっても家に閉じ込めさせ続けさせたらストレスは溜まっていく。

 ラギナは心身ともに良くなっていくことが重要だと考えたうえにどれだけ体調が戻ったかを知るための外におでかけであった。

 念のために姿が魔族だとバレないように着させた大きめの灰色のローブは彼女の視界を遮ってしまうほどだったがこの森の中であれば万が一誰かに見られても誤魔化しはしやすい。

 この前の季節外れの雨のおかげかここ数日の天気は悪く、今日も曇り日和なのが幸いして歩いている森の中には人の気配を感じなかった。


「ここらは薬草以外にも食える草やキノコが採れる。いっぱい採れれば具がいっぱいのスープができるぞ」

「この前食べたの、は、ないの?」

「あれか。あれは婆さんたちがくれたモンだからな。また村にいって頼めばくれるかもしれんが……頼りすぎるのもな」

「そっか……」

「……まぁ、なんだ。ここにはモンスターも動物もいる。食えるモンだったらそいつらを仕留めてやる」

「……! うんっ!」



 ミリアの表情がパっと明るくなったのを見てラギナは自分の作るスープが不味いのは薄々勘づいていたがこうもはっきりと反応されるのを見ると少しだけ複雑な気持ちになる。

 一緒に持ってきた小さな本に料理の仕方も書いてもらえばよかったと人差し指で頬を掻きながら思っていると森の中に少し開けた空間に出た。

 少し深めに入ったこの場所は普段は日当たりがよく、ここを中心に薬草や山菜、キノコ類や木の実などが充実している場所は今のところラギナしかしらない穴場のようだった。

 ラギナはポケットから小さな本を取り出すとページを捲りながらしゃがみ込むと今回採るものの特徴についてミリアに説明していった。


「──……これらが食えるものだ。味はうまくないが体には良いらしい。もしうまいもん食いたきゃキノコを多めだな。アレは小さいものばっかだけどうまいんだ」

「うん、わかった」

「今言ったモンは大体ここにあるからすぐ見つけられる。よし、それじゃあやるか」


 そう言うとミリアは自分の目の届く位置で採取し始めていく。

 山菜を丁寧にとって袋に入れていき、気になった木の実はそのまま口に含んで味を楽しむミリアの姿を見ると普段は冷たい心で過ごしているラギナだったがほんの少しだけ心が暖かくなるのを感じていた。


(この気持ち……ダンケルたちにもてなされた時みたいだな。戦いばっかだった俺でもこんな風になるなんて生きていれば何が起こるかわからんな。……おっと)


 よそ見をしながら手に取ったキノコの匂いを嗅いだ時、刺激臭が鼻腔に刺さったのに気が付いて思わず手を顔から離す。

 そこには赤い傘のキノコだが似ている種類も存在している。つまりこれは食用ではなく毒キノコなのだが見分けがつきにくいコレらは山に入る村の人たちも安全を懸念して手を出さないモノであった。

 ──そういえば()()()()()()もある、と説明してなかったことを思い出して彼女の方に向くとその手にはこの毒キノコと同じものが握られていた。


「ミ、ミリア!!」

「……んぐ、ふぇ?」


 すでに赤いキノコの傘が彼女によって齧られており、ラギナは手に持っていたモノを手放しながら慌てて近づき、彼女の小さい肩を掴んだがその衝撃のせいで口に含んだそれがゴクリと音を鳴らして喉を通ってしまった。


「お、お前っ! それは食っちゃならんやつだぞ!」

「う、え……?」

「ああ、しまった……。か、体は大丈夫か!? どこかおかしくはなってないか!?」

「な、なに……? 全然平気だよ……?」

「ほ、本当か……? と、とりあえずそれをこっちに寄越せ」

「あっ……」

「うっ……!」


 もしかしたら自分の勘違いかもしれない。そんな淡い期待を胸にミリアの持っていた食いかけのキノコを奪ってその匂いを急いで嗅いでみる。

 ラギナも焦りすぎたのか勢い余って嗅いだその匂いは毒のある刺激臭であり、吸いすぎたことによって思わず顔を顰めた。

 魔族は毒物に対してある程度耐性があるがそれでも危険なことには変わりない上にこの赤い毒キノコは即時性がある代物だった。

 だが当の本人の様子は特に気にしていなく、キョトンとした表情でラギナの顔を伺っていた。


「あぅ……」

「これは……確かに毒のモンだがお前、本当に大丈夫なのか?」

「う、うん。全然平気……」

「ハァ……説明してなかった俺が悪かったな。さっき言った食えるモンと似ている見た目をしているがこれは毒のあるヤツで普通は食えないんだ」

「そ、そうなんだ。で、でもこれね、すごくおいしかったよ?」

「そ、そうか……。まぁ俺は食えんからどれくらい旨いかはわからんが……」

「その……ラギ。ごめんなさい……」

「あ、いや……。むぅ……」


 ミリアの言う通り彼女の体は未だに中毒症状は起こっておらず問題ないのは明白であったが、元をたどればラギナの説明不足による不注意が原因である。

 にも拘わらずこちらに謝ってくるミリアを見てラギナもほうも気まずい気持ちになってしまった。


(考えてみればこの子の回復力は魔族こっちから見ても異常だったな。もしかして毒に対して高い耐性がある種族……と思うのが自然だが人間に近い体の魔族でそういうのは見たことはないな……。むむむ、なんだか余計にわからなくなってきたぞ……)

「ね、ねぇラギ、見て。これ……」

「うん……?」


 自分らしくない不器用なことをしてしまった事について現実逃避するように考え事をしていたラギナにミリアが彼の毛を引っ張って呼ぶ。

 そこに顔を向けると彼女の手で袋の口元を開いたその中身は今回の収穫はたくさんだったことについて見せてきた。


「おお、結構入ってるな……。俺よりも多いな」

「え、えへへ……」

「しかもちゃんと味がするもんばっかだな。これなら具沢山の旨いスープが作れるぞ。よくやったな」

「や、やった……! 嬉しい……」

(まぁ……パッと見た感じこの袋には結構()()()()()が入っているな。帰ったら忘れずに分けておかないといけないな……)

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