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第36話 夕日に舞踊る戦乙女

 以前にマッドマンの襲撃によって住めなくなった村が復興するまでそこの人たちを一時的に受け入れるという形でミクス村にも多くの人がやってきた。

 魔族と共生している村というマイナスのイメージがあったがバード公がセフィリナ聖教が協力しているという文書を出したこと、亜人に分類されるエルフ族やドワーフなど人間に近い魔族のおかげで幸いにも大きな混乱は起きることはなかった。

 唯一、トレント族のトリンとウルキア族のラギナは初めは怖がられたがラギナは村人が襲われた時に助けた魔族ということが判明し、トリンも畑の世話や避難してきた人たちが住む家などを作るための力仕事などで少しずつ受け入れられていった。

 それから数日後、廃れていた村の形も少しずつ元に戻るように活気が満ちていき、ラギナは今日もトリンと一緒に畑の仕事をしていた。


「ラギ、これ見て」

「ん?」


 成長していく野菜たちの面倒を見ていると横からミリアが何かを抱きかかえてラギナに話しかけてくる。

 その両手の中に三頭身ほどの大きさの球根の体に青い草が短い髪のように生えている生物が目に入った。


「それはもしかしてドリアード族か?」

「うん。トリンがここの近くまで来た子たちを助けたみたい」

「たち……?」


 ふとミリアの後ろを見るとその足元にラギナから隠れながら覗いている別のドリアード族がおり、抱かれているのも合わせて三体もいた。

 森の中に生息するドリアード族は他の魔族と比べて弱い種族であるために友好的な魔族と共生しなければ生きていけない。

 故にウルキア族という森で見かけない魔族を見たドリアード族たちは怯えた瞳でこちらを見ていることを知ったラギナはミリアに抱かれたそれと目線を合わせると頭を撫でながら口を開いた。


「ドリアード族は頭にある葉っぱを落として土を良くするとドミラゴから聞いたことがある。もしかして畑の面倒を見てくれるのか?」

「ト、トリンもそう言ってた。この子たちと一緒に育てるって」

「それは助かる。結構大変だからな、畑仕事は」

「そ、それにこの子たちは、初めての、友達……」

「……! そうか。よかったなミリア」

「うん……!」


 友達、という言葉を恥ずかしながらも彼女の口から出たことにラギナも嬉しくなりその表情は自然と優しくなっていく。

 この後もミリアはドリアードたちと森の方で遊ぶらしく、彼女たちが向かっていくのを見届けた後に村の中を歩いて行くと自分に向けられる目が確実に変わっているのがわかる。

 村の現状をこうして見てみると魔族と人間との摩擦だった部分が少しずつだが無くなっていっているようだった。

 そんな中でこの村に訪れた行商人が見える。その背には自分の体よりもデカい荷物を背負っており、人間の力では明らかに持てなさそうなのに平然としているその様子は不思議な光景であった。

 だがそれよりも商人である彼が売り物を出さずに人の群がる場所にいるということにラギナは気になり、そこに向かってみると聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「さぁ~見てらっしゃい! そっちじゃ見ることがない珍しいモンばっかだよ~!」

「この声、キッカか?」

「おや? その姿は旦那じゃありませんか。久しぶりですね、へへっ」


 そこにはオッドの町にいたリザード族の商人キッカが自身の売り物を風呂敷の上に並べて商品を販売していた。

 そこには人間の方では見られない鉱物の欠片や意味深な木の棒、魔力が含んだ葉っぱやキノコなどがあり、群がった人々がそれに興味を示しているようだった。


「お前なんでこんな所にいるんだ」

「何って、そりゃあ旦那。あっしは商人ですぜ? "そういう匂い"があるところには行くっていうのがあっしの魂に刻まれてるんでさぁ」

「確かにここでは見られないモノばっかだな……」

「でしょう!? ホラホラ皆さん、ここにいる白くてカッコいい魔族もそう言っていますよ! この価値はあっしが保証しますぜ! 今なら値段もお手頃! さぁ早いもの勝ちだよ!」

「お前なぁ……。ここで物を売っていいってリンゼルに許可貰ったのか?」

「あの騎士さんのことでしょう? ええ、勿論。無断でするなんて、あっしはそんなことしやせんぜ」

「…………」

「さぁ買った買った! その代わりコレを買って効果があったら宣伝してくださいよぉ~!」


 キッカは魔族のくせに商売に関しては妙に熱があって勘が鋭い。ある意味商人としての素質はあるのだが彼の欲深い性格が時として悪さを百年戦争の時にしたとこを思い出す。

 何を考えているか読みにくいキッカを警戒しなければと考えていると足にキッカの指が当てられると何かを聞きたそうな顔をこちらに向けていた。


「そういえば今日、何かの催しがあるんでしょう?」

「ああ。ミクス村に活気が戻ったという祝いを夕方にするつもりらしい」

「あっしもそれ、旦那と一緒に見ていいですかい?」

「別に構わんと思うが……」

「そうですか! いやあっしもここに来たばっかでさぁ、旦那と一緒ならなんつーかこう……安心? できるみたいな?」

「……勝手にしろ」

「へへへっ。すいませんねぇ……」


 ラギナのいう通り、夕方になるとミクス村の広場に村の人たちが集まりそこにはトリンの近くに他の魔族がいる。

 人混みから少し離れた位置にラギナとキッカがおり、皆が注目する広場の中央にはリンゼルが軽装の姿が長剣を握っているのが見えた。

 静かにしている大勢の中で彼女は息を整えると長剣を静かに、だが力強く振って演舞を行っていく。

 その背景には楽器のような音ない。踊る彼女の近くに座っているエルフ族のクローディアの口から綺麗な歌声だけの質素な演舞だった。

 それだけであったがこの場にいる皆はそれに見惚れていた。

 風に運ばれて聞こえる歌声と夕日をバックに演舞をする彼女の白藤ペールパープル色の髪が照らされたことにより、煌びやかな粉塵を纏っているような錯覚を起こして優雅さを引き出していた。


「はぁ~……あっしはあんまこういうことわかんないけどこう、言葉に出来ない感じが良いですねぇ。流石ディバインナイトってことなんですかねぇ」

「……ディバインナイト?」


 皆がリンゼルの舞に見惚れている中でキッカのポツリと呟いた一言にラギナは思わずそれを聞き返す。

 そんな彼の反応にキッカは少し驚いた様子であった。


「え? 旦那知らなかったんですかい? あの女がディバインナイトという位の高い人間だっていうことを」

「人間の方にはそういうのがあるというは知っていたが……。だが彼女はそれを話さなかったな」

「あっしの情報によるとマスターナイトが聖律機関が一番上でその下にいる地位だったはずですぜ。まぁ、あの見た目からして若くしてなっただろうし苦労したんでしょうなぁ」

「…………」


 初めて彼女と出会った時に受けた技やその技量を思い出すと確かにモログのような一般的な騎士ではなかったなと思い返しているとリンゼルの演舞が終わり盛大な拍手が彼女を包んでいった。

 やがて祝祭が始まると皆が酒を手渡され各自が楽しんでいようとしている中でラギナの隣にいたキッカはいつの間にか姿を消していたのだった。

 祝いの活気が夜が更けていくと同時にその熱も下がり始めたころ、人の気配が少なくなった広場にリンゼルは座れる場所に腰を掛けると手に持った容器の中にある水を見つめる。

 村の人たちから酒を勧められて久々に飲んだことで体に溜まったアルコールの余韻を水に流そうとしているとき、重い足音と共にラギナが近寄ってきた。


「疲れたか?」

「ラギナ。そうだね、久々にこんなことをしたから少しはしゃいでしまったかも。ミリアちゃんは?」

「あの子も疲れて寝たよ。楽しかったんだろうな。寝顔が喜んでた」

「ふふ、そっか。ふぅ~……」


 夜の冷たい空気を大きく吸っている彼女を見つつラギナも座ると二人で夜の月を見ながら疲労した体を落ち着かせる。

 広場の中央に焚かれた火の音とほんのりとした暖かさがこの空間では妙に心地よく、そのままでは眠ってしまいそうなほどであった。


「あの踊り、俺はああいうのよくわからんが、でも良かったぞ」

「そうだろうね。でもそう言ってくれるとやったかいがあるよ。今の私に出来ることはあれぐらいしかないから」

「ディバインナイトというのはああいうのもしなきゃいけないのか?」

「ん……? まぁ勝手に出来るようになった、というのが近いかな? あれ? 私、貴方に私がディバインナイトだってこと言ったっけ?」

「他の奴から聞いた」

「そっか。別に隠すつもりはなかったんだけど、もしかして警戒した?」

「敵だったらな」

「はは、確かにそうかも。でも、もしもラギナが敵として私の前に現れたら貴方を倒すのに苦労しそうね」

「まるで自分は負けないみたいな言い方だな」

「あら? 負けるつもりはないわよ。こう見えてもマスターナイトの手前までは昇りつめたからね。でもびっくりしたよ。最初に貴方と対峙した時に私の技を初見で見破ったのはね」

「見たことがあった技だったからな。アレは皆使えるのか?」

「聖剣技の事? 自分が引き出せる聖力次第ね。でも私の場合は教えてもらったから。父さんに」

「父上……?」

「そう。私の父ローラン・フェルトラム。マスターナイトにして聖律機関の英雄だった人よ。……もう亡くなってしまったけどね、私が小さかった時に……」

「──……ッ!」


 リンゼルの父親の名を聞いた瞬間、記憶の中から名前と共に呼び起こされた光景にラギナは思わず動揺してしまい視線を逸らす。

 幸いにも彼女はまだアルコールによって気が散っており、水で喉を潤しているのを横目で見るとこちらの様子に気が付いていないようだった。

 ラギナが動揺したその理由。彼女の父ローラン・フェルトラムは百年戦争の時に死んでおり、その死因はラギナが彼を殺したからであった。

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