第27話 ミクス村へようこそ
林道の中を太陽の光が所々に照らされる場所に自分の前には敵意を露わに対峙する二人の騎士にラギナは歯がゆい思いをしていた。
キラーウルフの群れを追っ払うつもりだったが彼らの視点では群れを率いているボスとして扱われ、その言動を聞くにキラーウルフたちが悪さをしていたのだと分かる。
しかしこちらの説明を聞いてもらう間もなく、攻撃を仕掛けられては相手もこちらに耳を傾けてくれる状況ではなくなってしまった。
しかも相手は聖力という魔族、モンスターに対して特効のある攻撃手段を使用してくる。百年戦争でこれを経験しているラギナは油断すればただでは済まないは知っていた。
正直に言うとラギナがカルラと戦った時のように赤い気を纏わせるほど本気を出せば"この程度"の相手ならばその二つの首を撥ね飛ばすことなぞ造作でもない。
だがそれでは意味がない。ラギナがここに来た理由は戦う為ではないのだ。
(くっ……。どうにかして冷静になってもらわんと……。だがあの攻撃を受け続ければ俺も無事じゃ済まん……!)
幸いにも先の自分の動きで相手もこちらを警戒しているようで膠着状態になっている。
風が通り過ぎ、林から木の葉が自分たちの間に舞い散る中、バケツ頭の騎士が動き出そうとする気配を感じた瞬間、隣にいる白銀の騎士が手でそれを制した。
「──ッ! 待て!」
「なっ!?」
「ラ、ラギ……?」
「──……ッ!!?」
動きが止まった瞬間、ラギナの背後から彼女の声が聞こえ、振り返るといつの間にかここに来たミリアが心配してこちらを見ている姿が映ると彼の近くまで走ると腰にしがみついて顔を見上げた。
「ミリア……!?」
「ど、どうしたの……? ねぇ、なんでこうなってるの……?」
「女の子……」
ミリアの今にも泣きそうな顔にラギナは彼女を守るように抱き寄せて対面にいる騎士たちを警戒したが、その様子を見た騎士たちは互いに顔を見合わせると何かを察したのか持っていた武器を下すと白銀の騎士はこちらに近づきながら訪ねた。
「……その子はお前の子か?」
「そういうワケじゃ……いや、まぁ近いモンだ」
「なるほど……。つまりあの村の噂を聞きつけてここに来た……ということでいいのか?」
「そうだ。俺の友から聞いたんだ。そこが記された地図も持っている」
「ふむ……見せてもらってもいいか?」
「構わん」
ラギナは懐からドミラゴから貰った地図を彼らに手渡すと、それを広げてまじまじとそれを見続ける。
その内容は周辺が詳細に記載され村の位置も正確な座標であったことに少し驚いたような様子をした後、丁寧に地図を折りたたんでラギナに返すと白銀の騎士はこちらの前で怯えるミリアと視線が合わせた後に頭を下げた。
「……──凄いな。かなり正確な地図だこれは。これを魔族が持っているとは……いや、そんなことよりまずはお前たちに謝らなければならないな。いきなり襲ってすまなかった。こちらとしてもやむを得ない事情というのがあったのだ。どうか許してほしい」
「あ、あぁ……。ともかく誤解が解けてよかった。ところでこの先にあるのがその……魔族と人間が共生しているという村で合っているのか?」
「そうだな。合ってはいるぞ」
「本当か! よかった……」
「な、長かったね……」
「ああ」
「せっかくだから案内しよう。こっちだ」
白銀の騎士とバケツ頭の騎士に連れられて二人はゆっくりと歩いていく。
林道を抜けた先は少し高い場所であり、そこから目的地である村全体が見えると白銀の騎士は兜を脱いで一息つきながら素顔を晒す。
白銀の中から露わになったのは白藤色の長い髪の毛が網目に編まれて纏まっており、薄明るい色の髪の毛が林の隙間から照らされる太陽の日差しによって輝きを放っている。
整った顔つきにそれに合わせるように白くきめ細やかな肌は髪の色も合わさって神秘的な雰囲気であるが、少し釣り目の中にある瞳の色は瑠璃色によって引き締められた容姿は凛々しさと麗人さを合わせてた女性であった。
「リンゼル・フェルトラムだ。ようこそミクス村へ」
──リンゼルに連れられて村に入った二人の中でミリアは興味が尽きないのか周囲を見渡しながら歩いていく中でラギナは逆に不安げな気持ちになっていた。
(なんていうか……。思っていたのと全然違うな……)
村に入ってみてまず感じたのは住んでいる人の気配の無さであった。確かにここは村ではあるが、元々そこで暮らしていた人たちは何処かに移住してしまったのか建てられている家は多いが空いているのが目立つ。
一応、森で暮らしている平和主義な魔族のエルフ族と山に暮らしているドワーフ族など人に近い種族はちらほら見かけたがそれでも閑散としているこの雰囲気は村というより集落に近い感じであった。
「積もる話もあると思うけど、まずは私の家で話しましょう。あそこに見えるのがそれです」
リンゼルの指の示す方向には少し大きめの家が建てられており、ラギナたちはそこにお邪魔して中へ入っていった。
質素だが生活感のある内装は不思議と心が落ち着き、リンゼルに促されるようにテーブルに向っていった。
「いや、俺は立ったままでいい。デカいからな」
「そう。ごめんなさいね。ふぅ……」
リンゼルは一息つきながら椅子に座るその様子は先ほど戦っていた時よりも柔らかくなったそれは彼女の二面性を表しているのだろうと思っているとその隣にバケツ頭の騎士も座ってその兜を脱いで素顔を晒す。
若干歳をとった顔と茶色の短髪は強面な雰囲気があり、ミリアの方を向くと怖がらせないように笑顔を作ったがその顔を見た彼女は少し緊張したようだった。
「まずは改めて自己紹介をしましょう。私の名前はさっき言ったよね」
「あー……リンゼル、……えーっと」
「リンゼル・フェルトラムよ。リンゼルで構わないわ。隣に座っているのがモログ・ヘイヤで共にセフィリナ聖律機関に所属している騎士で、ここの管理を任されている」
「どうも。よろしく」
「俺の名はラギナ。それでこっちの子がミリアだ」
「こ、こんにちわ……」
「こんにちわミリアちゃん。その見た目からして獣の……ウルキア族で合ってる?」
「ああ」
「で、そっちの子は……」
「……実はだな、この子がどんな魔族か分かってないんだ」
「うん……? それはどういうこと?」
リンゼルとモログの疑問にラギナは重傷を負っていたミリアを助け、妖精園【クラムベリー】に保護を求めたが駄目だった為にここに訪れたということを簡潔に話していく。
その中でラギナは人間の場所で隠れて暮らしていた事、ミリアが災いを齎してしまうということは伏せてしまった。ここがダメならもう行く宛てのない怯えによるものだったがそれでも二人はこの話に真剣に耳を傾けているのを見て心が痛んだ。
「なるほど……そういう事情だったのね」
「彼の話を聞く限り、嘘はついていなさそうではありますが」
「確かに。実際ここに助けを求めたエルフ族も似たようなことを言っていたわ。……ところでラギナさん、一つ聞きたい事があるんだけどいい?」
「俺もラギナでいい。その方が気が楽だからな。それで、聞きたい事とは?」
「このミクス村を見て、何を思った?」
「…………。……正直に言うと想像とはかなり違かった。俺の予想ではここは人間が管理していると聞いていたから、てっきり人間がもっと多いとかそういうイメージだった」
「まるで廃れる寸前……という感じ?」
「いやそこまでは……」
「いいのよ。貴方の思っていることは間違ってないわ。この村はね、魔族との戦争が終わって境界線が引かれた時にその境界線が近いせいでモンスターの被害が多かった場所で皆移住してしまった場所なのよ。この一帯を持っている領主に支援してもらってようやく魔族と共生する村っていうのは出来たけど、今ここにいるのは私たち二人とエルフ族とドワーフ族、そして物資を時々運んでくる運び屋だけね。いくら支援してもらっているといってもお金は全然足りない。だから私たちは周辺の村や町に行ってモンスターを狩ってその運用資金をなんとか稼いでる感じだわ」
「そういうことか。……というか俺たちを除いて魔族はその二つしかいないのか?」
「そうね。どちらも"亜人"だから」
「亜人? 魔族じゃないのか?」
「人間にとって友好的な種族は区別するために亜人という呼び名になってるの」
「なんだそれは。魔族じゃダメなのか?」
「しきたりだからね……」
リンゼルのため息をつくような一言に腑に落ちなかったがこんなことを今言っても仕方ない。しかしそれがラギナの顔に少しだけ出てしまったのを見ながらリンゼルは話を進めていった。
「今の村で暮らすためには人間に友好的という絶対的な条件に加えて人型というのがある。これは上からの命令で私たちにはどうしようもない」
「…………」
「でも、もしも貴方が協力してくれたらその条件は緩和できるかもしれない。結局今のこの村は人間側にかなり偏っている状態だからこれじゃあ魔族との共生なんて難しい。でもウルキア族の貴方がここに来るというのならこちらも助かるわ」
「……俺たちの寝床はあるのか?」
「もちろん。空き家はいくらでもあるからね。家具とかないしボロボロになった箇所は修復しなきゃいけないけど……」
「ならそれでいい」
「ありがとう。明日にでもやってもらいたことがあるから、朝起きたらモログのところに行ってね」
ラギナはそのまま手を二人に差し出すとリンゼルとモログ、それぞれが彼の手に握手を交わすと交渉が成立したことにテーブルから見上げていたミリアも笑顔になっていく。
二人はモログに連れられてリンゼルの家から出ると空き家になった場所を見繕ってそのうちの一つを貰い受ける。
玄関は人間用のサイズのせいで長身のラギナは頭をぶつけそうになったが、家に入ったミリアは少し興奮しており奥にあったボロボロのシーツが掛けられているベッドに飛び込むと嬉しそうな表情になった。
「やった……! やっとちゃんと寝れるんだね……!」
「ああ。とりあえずはな。ふぅ……」
「ありがとラギ。う~~~ん、ふわぁ……」
ようやく安心できる場所についたことに喜んでいるミリアを後目にラギナは窓から外の景色を見るとすでに日は落ち始めており、夜を告げる紫の空を見つつ静かに息を吐いていた。
ここに来たとはいえ、まだまだ苦労がこの先に待っているのは容易に想像できる。
だが今はこれまでの旅による疲れからか体が重い。それはベッドに飛び込んで横になっているミリアも同じようでありいつの間にか寝息を立てているのを見てラギナも彼女の傍まで近寄って横になると静かに瞼を閉じていったのだった




