第21話 四英雄"異端の魔女カルラ"─④
館全体を伝わるほどの衝撃に信者たちの戸惑いと恐怖に体を縮こまるしかできない。カルラとミリアがいる大広間にも聞こえるほどであるそれに二人はそれぞれ違う意味で震えていた。
やがて扉自体が吹っ飛ばされると赤い気を纏ったラギナが現れた。
「カルラァ! お前っ!!」
「お帰りラギナ。あらあら、その赤い気……。まさに赫って感じねぇ~。さっきよりも恰好じゃない。ふふっ、今の貴方のそれ、とっても似合ってるわよ」
「一体何のつもりだ! 今すぐミリアから離れろ!!」
「ねぇラギナ……ほら、私って我儘でしょ? 欲しいものは絶対手に入れたい主義なの。この子もね、本当は別になんとも思ってなかったけどだんだんと興味出てきちゃった。貴方もこの子も私の手元に置きたいの。だから大人しく私の物になってくれるわよね?」
「戯けた事を抜かすな! これ以上戯言を言うなら力づくでもお前を這いつくばらせてやる!」
「あ~~~~もう、ホントに素敵よ貴方っ! 獣の魔族の癖に上位種の私に臆せず楯つくその度胸、虐めがいがあるわぁ~~! うふふふ、それじゃあこうしましょう。頑張ってここまで来なさい。そしたらこの子を解放してあげてもいいわよ?」
「舐めるなよカルラ、後悔させてやる!」
「舐めてるのはお前だよラギナ。忘れたの? 私の使う能力を。──我が眷属共よ、現れよ。【召喚】!」
カルラが二本の細い指を鳴らすとラギナの手前の床から黒い魔法陣が浮かび上がり、そこから全身黒ずくめの人型のモンスター、シャドウグールがいくつも召喚される。
一体、もう一体と次から次へと生まれるように這い出るそれらによってすでにラギナの周囲を取り囲むほど数を増やしていった。
「まずはお手並み拝見って感じね。こんなのに殺されるほど腕、鈍ってなければいいけど」
「ウオオオッッ!!」
一斉に襲い掛かるシャドウグールは鋭い爪を立てた両手と掲げてきたがラギナにとってそれらの動きは鈍く、迫ってきた順番にシャドウグールを赤い気で纏わせた爪で切り刻んでいく。
俊敏な動きで体をバラバラにされるシャドウグールを一体、もう一体と倒していく様子を見ていたカルラの表情は恍惚としていた。
「あ~~~ん! ちゃんと強いじゃない! 素敵よラギナ! でも──」
「……えっ?」
自身が召喚したシャドウグールがラギナの活躍によって倒される光景を見たカルラの顔は笑顔で口角が上がるのを両手で抑えていたが、右手の一指し指を顔から少し持ち上げながらちょっとだけ動かしていく。
すると身体をバラバラにされたシャドウグールの断片から白い糸が伸びるとそれぞれの断片に結合して引っ張り合うと元の身体に戻っていった。
「──チッ!」
「私の眷属たちはバラバラとかそんな程度じゃ死なないわよ。まぁこれでも一番弱いんだから大口叩いた以上、こんなのに苦戦するワケないわよね? こんなもんじゃないでしょ貴方の力は。早く本気出したほうがいいわよ?」
カルラの挑発に呼応するかのようにラギナの動きも激しくなっていく。
身体をバラバラにする程度じゃ断面からカルラの糸によって簡単に復元されてしまう。
粉微塵にする勢いで攻撃しなければ増え続けるシャドウグールに圧倒されてしまうのは目に見えていた。
だがそんな彼の様子を見てもカルラの表情に疑問が浮かんでいくのを近くでミリアもそれを感じ取っていた。
「う~~~ん。シャドウグール如きこんなに手こずるなんてね、なんで本気出さないのかしら?」
「ラ、ラギは頑張ってる……! あんなのに全然負けてないよ……!」
「……いえ、やっぱり出してないわ。貴方見たことないの? 彼の本当の姿を」
「本当の、姿……?」
「その様子だと見せたことないのね。あぁ勿体ない。赤を超えた赫色の気を纏った彼はとっても素敵なのに。魔族はね、ある一定を超えると能力が覚醒するのよ。溢れ出る魔力は実体化しそれを糧にできる。でもその制御に失敗すると死ぬけどラギナはそのギリギリの境界を直感でコントロールしてる。魔族の野性と人間の理性、混血だからこそ制御の限界値まで力を引き出せることができるのよ。それが本当に、美しいのよねぇ……」
「…………」
「もうっ! 私を焦らすなんてそういう事、いつ覚えたのかしら。でも私、好きじゃないのよねそういうの。……あぁ、そっか。なるほどねぇ……。ふふふ、このお姫様がそんなに大事なのね。まさかこんな小娘に私が妬けちゃうなんてね」
カルラはそう言うと宙づりにされているミリアを抱き寄せると爪を細い首筋に這わせていく。
青い肌に爪の先端が下から上へと掠るこの感触にミリアは思わず首をピンと伸ばしてしまい、それを見たカルラは口を大きく開けると彼女の首に歯を立てて嚙みついた。
「ずるっ……じゅるる……ズズズズッ……」
「……っ! うううっ! うあぁ……!」
首筋に嚙みついただけでは無くそこに空いた傷穴から流れ出る血を音を立てて吸い上げていく。
あえて下品な音を立てつつ首筋に立てられた歯とその近くで這う舌は手を吸われた時よりも不快感が数倍にも増しており、思わずミリアは悲痛な声を挙げた。
だがそれはあえて手加減して噛みついているカルラの策であり、ミリアの苦しむ声と表情が遠くで戦っているラギナに届くようにしていたのだった。
「──……ッ! ミリアッ!!」
「うああ、ああぁ……。ああああぁ…………」
「グウッ! ウオオオォォォォッッ!!!」
ミリアの苦しむ様子を見た瞬間、咆哮と共にラギナの中で何かが"切れる"ものがあった。
それは常に抑えていた不安定な感情であり、その反動もあってかそれが濁流となって全身を駆け巡っていく。
白い毛に纏っていた赤い気の色がさらに濃くなった赫となり、白と濃い赫が入り混じったそれは彼の怒りを表していた。
「グゥ……ああクソッ!! よくも俺を、こんな姿にしやがってッ!! 」
「──ッ!!」
「邪魔だッ!!」
「──ッ!!?」
シャドウグールが再び一斉に襲い掛かりその数は最初よりも倍近く増えている。
だがそれらを一瞬で、文字通り復元出来ないほど粉微塵に切り刻んで四散させられたのを見た他の眷属たちは思わず畏怖した。
彼の太い腕から赫白の魔力が半透明の形となって実体化しており、それは逆手剣と化していた。
彼の間合いに入ればその赤い逆手剣によって一瞬で切り刻まれてしまうのは目に見えており、シャドウグールたちは距離を取るとラギナを中心にして囲い、体内にある白い糸を両手の指先から吐き出していった。
「くらだん!」
「──ッ!?」
「失せろ!!」
粘着性のある白い糸はその中に特殊な魔力を帯びている為に通常では切ることすらままならない。強力な糸によって拘束されたラギナだったが自身の魔力を糸に伝わらせると飽和状態にして糸を内側から瓦解させる。
緩んだ糸を見て瞬時に逆手剣で振り切ると今度は赤い軌跡を描きながらシャドウグールたちを次々と切り殺していく。
その処理速度は凄まじくカルラの召喚が追い付かないほどであり、ついには召喚の魔法陣に逆手剣を突き立てるとそれを壊していった。
「殺してやる……殺してやるぞ、カルラッ!」
「そう! その姿はああ、なんて……もう本当に……私の物にして、壊したくなる……!!」
「貴様ッ! まだそんなことを言うか!!」
「ふふふ、貴方はそれになるの嫌がっていたわよね。でも今の貴方のその姿、さっきよりも、もっと魔族っぽくなっていい感じよ?」
「──ッ!!!」
「まぁでも、流石にシャドウグール程度じゃ満足できないわよねぇ。もっと私に貴方の戦うその姿を見せて? もっともっと……私が満足するまで、ね」




