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第19話 四英雄"異端の魔女カルラ"─②

 カルラは信者に持たせていた結晶石を取り上げるとそれをラギナたちの目の前に浮かばせる。

 結晶石に取り込んだミリアの血はゆっくりとその形を成していき、やがて液体が一つの線となると幾何学的模様を描いた。


「これは……つまりなんだ?」

「この結晶石に血を入れるとね、その持ち主の体質が分かるっていうものよ。魔族は特殊な者もいるからね。それを知るためってこと。──結論から言うとラギナ、この子は今いるどこの種族にも存在してないわ」

「何……? どういうことだ?」

「魔族っていうのは不思議でね。種族の形が星座のように分かれているのよ。星座は私たち魔族の始祖と言える存在を当てたもの。私なら澱み深き者の星座、貴方なら獣神バルバロの星座。それでこの星座は何処にもない」

「お前のお得意の占星術か。だが何処にもないってそれじゃあこの子は一体……」

「まだ話は終わってないわ。正確には魔族を司る星座がない……けど一つだけ該当するのがある。それは調律と調和を司る二つの星座、その間にある存在するといわれている秘匿された小さな星。全てを陥れる災いの星座。それがこれがその形よ」

「災いの星座……その名は?」

「さぁ……」

「さぁ……、って知らんのか?」

「知らないわよ。二つの星座の間にあるそんな星の名前なんて。ただその星が強く光る時、凶兆が訪れるというのは古くから言われてるわ」

「確かに災いとか、そんな似たようなことをフロルフィーネ様もそう言っていたな……」

「…………ふ~~~~~ん?? ……まぁ、あの女がそう言ってたなら私のも正しいってことね。まぁ確かに? この子の血からとてつもない魔力を感じたわ。この結晶石に閉じ込めているのに未だに模様を作り続けているのがその証拠よ。はっきり言って凄まじいわ」


 浮かんだ結晶石の中は確かにカルラの言う通り、未だに模様の端が伸びているのが見え、少し時間が経てば結晶石の端にまで到達するのは目に見えるほどであった。

 カルラは話している間は飄々としていたがこれを知った途端マスクに隠された複眼から明らかにミリアの事を警戒しているようであり、ラギナも獣の直感でそれを感じていた。


「ま、私が気になっていたことはこれで終わったわ。ご苦労様」

「結局わからんとはな。全く……とんだ寄り道だったな」

「でもこの子の事、少しでも知れてよかったでしょ? この子の力、再生能力の高さだけでも十分お釣りが来るレベルで利用出来るわ。旅を続けるなら相応の覚悟は必要ね」

「それは問題ない。今向かっている場所が俺たちが安心して暮らせる場所かもしれないからな。ドミラゴに教えてもらった」

「ドミラゴ……あのジジイにも会ってたのね。ほんとラギナってこうでもしなかったら私には会いに来てくれなかったのね」

「そもそもお前がこんな場所にいるなんて知らないんだから会えるわけないだろ」

「そう? それじゃあ今日はここで休んでいきなさいよ。色々サービスするわよ?」

「お前の口から吐く息が血の匂いがキツすぎる。悪いがもう行かせてもらう」

「まぁ! 淑女レディに失礼ね」

「それじゃあな」


 ラギナはそう言ってミリアと共にカルラに背を向けて館の外へと向かっていく。

 大広間の扉を待機していた信者たちに開けてもらい、その姿が見えなくなった瞬間、カルラは長い指を動かして音を鳴らすとこの部屋を照らしていた光がユラりと揺れ動き、彼女の影が実体となって姿を現した。


「お呼びでしょうか。カルラ様」

「今すぐあの二人を追ってちょうだい。それから──」

「……──畏まりました。それでは直ちに……」


 カルラの信者の一人が深いローブの中にある肌には刻まれた呪印があり、その言葉を聞いた後にそれを発現させると彼女の影からプツリと離れると影のままラギナたちが通ってきた跡を追うように這い向かっていく。

 それを見届けたカルラは近くにいた別の信者から布のポーチを差し出され、その中にある紙煙草を取り出すと指先から火をつけて静かに煙を飲んでいった。


「ねぇラギィ……」

「なんだ?」

「私、やっぱ変なのかな?」


 信者たちに館の出口へと案内されていく中、ラギナのすぐ後ろを歩いていたミリアが不安そうな声で問いかけてくる。

 その意味は結局ミリアの正体が曖昧な結果に対しての事でありそんな彼女を見てラギナは一息ついて言葉を発した。


「別に大丈夫だ。お前が特別な存在だからって気にする必要はない。お前はお前らしくすればいいんだ。まぁ特別ってことはある意味俺と同じなのかもな」

「……うん、そうだね。そっか、ラギと同じなんだ。えへへ……」


 館の出口、その玄関の扉が信者たちによって開かれ外気がこちらに流れ込んでくる。

 閉め切った館は湿気があり、少し乾いた肌寒い空気が妙に心地よい。

 ラギナが先に一歩、外に出ようと足を運びそれを見てミリアもついていこうとした瞬間、突然彼女の体が動かなくなった。


「──え?」


 体の自由が利かなくなったミリアは僅かに漏れた戸惑いの声の後に続くものはなく、一瞬にして何かによって口が塞がれる。

 驚いたまま自身の体を見るといつの間にか白い糸によって全身が絡めとられており、上を向くと虫の顔が混じる人間が口からそれを行っているのが分かった。

 そして上を見上げたままのミリアに信者は自分の体を影のようにドロりと溶かしながら覆いかぶさるように落ちていくと、そのまま全身を包み込んでしまった。


「──~~~~っ!!!」


 異常を知らせる為に必死にラギナの背中を見ながら叫ぼうとするがそれは届かず、そのまま天井へと吊り上げられていった。

 その最中、持ち上げられる自分の体に纏わりついている影が元いた場所に音もなく落ちていくとそれはすぐに形を変えていった


「……ん?」


 ラギナが館から一歩外に出た瞬間、何かを察したのか後ろを振り向くとそこには先ほどまで黒い影だったものがミリアそっくりの姿でこちらを見ている様子であった。


「どうした?」

「……何でもないよ。いこ」

(ラ、ラギ……!)


 ラギナはあの一瞬の違和感に鼻を鳴らしたが匂いも全く同じになっているのかこれが偽物だということに気が付かない。

 偽物のミリアはそのままラギナの傍まで駆け寄るとそのまま一緒に外へと向かっていく。

 やがて信者たちによって館の扉がゆっくりと閉まっていく光景を見たミリアはまるで希望がゆっくりと絶望へと侵食されるような感覚であった。

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