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第13話 妖精園【クラムベリー】

「ようこそ二人とも。庇護の楽園である【クラムベリー】へ」

「──わぁっ!?」


 この深い森のとある場所まで辿り着き、宙に浮いている魔法の紋章の先に入ったミリアは思わず感動の声をあげる。

 深緑一色だった場所が一転して太陽の光が降り注ぐ広場は淡いカラフルの色に包まれている景色が本当にここが深い森の中だと思えない光景であった。

 先ほどまであったひんやりとした空気はなく、注がれる暖かな日差しがなんとも心地よい。

 流れる川には他の魔族たちが世間話をしているのも見え、彼らからオッドの町で出会ったような粗暴な雰囲気は感じられない。

 大きな木に穴を開けてそこに暮らしている住人たちは高低差のあるここを筒状の花から吐き出されるシャボン玉に乗って移動をしているようで、その中央には巨大な大樹が聳え立っていた。


「なんだかここ、とっても温かい」

「ああ、ここはいつ来てもいい所だ」

「それでどうする? お前が来たということはフロルフィーネ様にも挨拶しなければならん。先にそれを済ますか?」

「そうだな……。その方が都合がいい。ドミラゴに会うのはその後だな」

「わかった。それじゃあ付いてきてくれ」


 ローキアルはこのまま自分についていくように指示をするとラギナたちもそれに従う。

 彼の後を二人は周囲の景色を楽しみながら進んでいく。花畑のある広場にはその蜜を採取している人型の魔族エルフ族や植物の魔族ドリアード族、空中に浮かんでいるシャボン玉に乗って遊んでいるコロ族の姿もいた。

 やがてラギナたちは中央にある巨大な大樹に辿り着くと先ほどまでのほんわかな雰囲気から一変し、厳格な空気へと変わっていく。

 その周囲にはケイローン族や妖精の魔族スプリガン族が重武装しており外から来たラギナたちを警戒の目で睨んでいた。

 巨大な大樹の外側に作られた長い階段を上り終えると大きめの広場に出ると、そこには神聖なローブに身を包んだ者たちがこちらを出迎えるように待っており、その奥の大樹の内から巨大なクリスタルが見え、その真下には全長五メートルほどの巨大な女性が静かに座っていた。


「わぁ、とってもおっきぃ……」

「あの方がフロルフィーネ様だ。妖精の女王にしてここを創った偉大な魔族だ」

「久しぶりですねラギナ。ようこそここへ」


 淡く澄んだ声を出しながらフロルフィーネはその巨大な手をゆっくりと動かすと、その合図と共に従者とローキアルを含む近衛兵たちはラギナたちから距離をとって膝をつく。

 その仕草を見たラギナたちは近づいていき、彼女を間近で見上げたミリアは思わず声を失ってしまった。

 一つ一つの動作すら気品溢れており、透けそうなほど薄い純白のドレスから見える肌は健康的な白さがある。

 太陽の光に当てられた金の髪の毛は煌びやかな色をしており丁寧に短く編まれたそこに装飾された花たちが僅かな幼さを感じさせる彼女の容姿に女性であるミリアですら惚れ惚れしてしまうほど心が奪われそうだった。


「お久しぶりです。フロルフィーネ様、ここに我々を向かい入れてくれたことに感謝します」

「本当にそうねラギナ。四英雄の一人は何処かへ行ってしまったとドミラゴから聞いていましたが、ついに戻ってきたのですね。いったい何処へ行ってらしたの?」

「それはまぁ……色々ありまして……」

「ふふっ。貴方のような冒険好きは珍しいですからね。そのお話、是非聞いてみたいものです。それで、今日はどうしたのかしら?」

「はい。それはこの子、ミリアの事についてです」


 ミリアの背中に手を優しく当てながらそう言うと今までローブによって隠していた彼女の顔が公に晒される。

 青い肌にベージュ色の髪の毛、そして黒い目の中に緑の瞳の彼女を見た瞬間、周囲の様子がざわつき始め、嫌悪感のある視線が一斉に注がれた。


「なんだあの魔族は……一体……」

「青い肌……ダークエルフの類か? しかしそんなのは見たことがないぞ……」

「見たことのない汚れた魔族の同類だったりな。しかしなんであんなのをここに入れたんだ?」

「いくら四英雄といえども、ここを汚すことは許されざることだぞ」

「──……まずは説明させてください。俺たちの事情を」

「……聞きましょう。皆の者、静かに」


 小言が尽きない周囲の者たちをフロルフィーネは静かに片手を水平に動かす仕草と共に声をかけるとそれに気が付いた者たちがビクリと体を震わしながら口を閉じていく。

 周囲がしんと静かになり話せる状況なったのを見て怯えるミリアを横目で見つつラギナはローキアルと同じように事をこの場で話した。


「──……ということがあったのです。つまりはフロルフィーネ様、率直に言うとこの子をここで保護してほしいのです」

「ラ、ラギ……?」

「なんだと……!?」

「恐らくですが俺が見つけた時を考えるとこの子が何かに追われているであろうというのは予想できます。ここであれば貴方様の力によって平和に暮らせる。この子はとてもいい子だ。迷惑は掛けない」

「ふざけるなっ!! ただ厄介事を押し付けているだけじゃないか!! ここを何だと思っている!?」

「そうだそうだ! そもそもここで暮らせる人数がすでに許容範囲を超えている! これ以上などと、いくら四英雄といってもそんなことを通すわけにはいかん!!」

「勝手なこと言いおって……! 助けた責任を放棄するぐらいだったら最初から救うべきじゃない! 貴様、弱肉強食という魔族の本質を忘れたか!?」

「ラギ……」


 ラギナが話し終わった瞬間、その一言を皮切りに罵声と怒号が浴びせられる。

 予想はしていた反応であったが、その中で隣でミリアが不安な表情でこちらを見上げているのは周囲から発せられる言葉の暴力による怯えではない。

 ラギナに対しての彼女の視線、それが彼にとって一番堪えた。


「……分かってくれミリア。魔族の世界は厳しい。はぐれ者の俺と一緒だと常に危険が及んでしまう。全てはお前の為なんだ」

「……っ」

「──……ラギナ、貴方のその要求、答えを出します。皆様お静かに。……それでは。ラギナ、残念ながら貴方の要求は受け入れることは出来ません」

「……なっ!?」


 フロルフィーネの一言でヒートアップしていた火が鎮火させ誰もがフロルフィーネの言葉に注目する中でたった一言、ラギナに向かって言い放ったその答えに思わず驚いたが彼女は言葉を続けていく。


「な、何故ですか……!? 何か理由が……」

「ラギナ、確かに貴方は百年戦争の中でここの森の民の為に戦い尽くし、いくつも命を救ってきたことには感謝しています。四英雄たちの功績は今でも語り継がれるほどです。貴方たちがいなければここも無かったことでしょう。しかし戦争が終わっても平和な時は僅かな間しかなくここも常に脅かされている状況です。ここには五百ほど数の魔族たちが暮らしていますがクラムベリーに移住したいという外部からの民たちは後を絶ちません。これ以上の受け入れは難しい状況なのです。そして何よりもそのミリアという子、これが大きな理由になります」

「大きな理由……?」

「そうです。妖精の女王として生まれたこの私ですら知らないその魔族からはとても()()()()ものを感じます。例えるなら厄災。それを形にした存在といってもよいでしょう。それをここに置けばこの楽園は近いうちにそれによって飲み込まれてしまう。それは私の力でもどうすることも出来ません。私はここを護らなければならない責任があります。どうか理解してください」

「そ、そんな……」

「ですが私もそこまでではありません。空はもう少しすれば陽が落ち始めます。夜が来れば外に広がるあの森も貴方にとって危険な場所になりますから明日の朝まではここに居てもよいでしょう。ドミラゴに会いに来たということはすでに知っています。そこでこれまでの旅の疲れを癒してください」

「……寛大な心遣いに感謝します」

「それではこれで話は終わりです。ロー、案内してあげなさい」

「かしこまりました」


 二人はローキアルに連れられてこの場を後にしていく中、その背後から見えなくなるまで鋭い視線を受けつつ大樹から降りていく。

 その中でラギナは最悪の状況になったことに頭を悩ませ、それを表すかのように足取りが重くなっていたのだった。

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