九。許すなんてできず
思ったより読んでくれてる人多くてうれしい。
「ここからがラウンド1だ。先手は譲ってやったんだ、次は俺が殴る番だ!」
前へと踏み込み、纏った煙を足から一部噴射する。勢いに任せ俺は皇帝へ突っ込む。皇帝は後ろへ下がるが反応が遅かった。俺の全力右ストレートが顔面にクリーンヒット。そのまま死んでくれりゃあ苦労はしないんだが、そうもいかない。
「早い・・・」
のけぞり、血を吐きながら皇帝はそう零した。ここは夢なんだろ?突拍子もないことが起きて当たり前なんだ。相手もだろうが、俺も余裕はない。なんせ、今までに経験したことないし、俺が知ってる限りの機密とか、その辺の記録を思い出しても現在の状況とはかすりもしない。先手必勝ができるならわけないんだ。でも、俺はそれほど強いわけでもない。
一瞬崩れた姿勢に左腕で追撃をするが、放った腕は宝剣で弾かれ俺の姿勢が崩れる。勿論、その隙を逃すほど相手が弱いわけない。瞬間にして皇帝は姿勢を正し、その剣をこちらへと向ける。
「ちッタァひるめよ!」
「生憎、戦場ではこの程度は当たり前でな」
皇帝は俺の頭突きを撃つ。首を傾げて避ける。頬から耳にかけて少し裂けた許容範囲だ。俺は引き戻される刀身を乱暴に掴み下へ向け剣を踏み固定、体を皇帝へ寄せ掌底。肩に蹴りを入れその反動で距離を取る。
「当たり前ェ?それにしちゃァ素手でやりあう奴とかいなかったんじゃねえかね。回避もできてねぇ様だし、煙の鎧も貫けてねぇようだが?」
俺は耳が欠けたが、相手はノーダメージ。結構全力で殴ってるが、骨が折れた様子もない。ジリ貧だな。
「私は皇帝だぞ?そもそも一対一は私の領分じゃない。」
皇帝がそう言いながら剣を土へ突き刺す。剣の装飾が溶け、地面へしみ込んでゆく。地面が揺れる。土から腕が生え、多くの者が這い上がってくる。この夢で最もありふれた敵対する怪物。全身に鎧をまとい、それが割れた者、矢が刺さった者、頭などの部位が欠損している者。多種多様な死に方を下であろう死者たちが、地面から這い寄ってくる。
「まるでゾンビパニック・・・ああ、いや。ネクロマンシーとか言うんだっけか・・・?」
俺は引きつり切った笑いを浮かべていることだろう。上空、から声が聞こえる。
「アンタ!ちょいと空まで来な!受け止める!」
急に空を飛べなんて、突拍子もない指示だが。俺はそれを信じるしかない。俺の煙は多数戦闘には向かない。それが呼吸をしない奴等ならなおさら。俺は全ての煙を飛ぶために固め、解放。煙の勢いで空高く飛び上がった。全ての煙を使って。なぜなら、それが信用にたる人の声だったから。
「はいキャッチ。アンタはいつも無茶しすぎなのさ!」
ジェットパックを背負った俺自慢の元嫁、トレナが俺の手を取り空中へと浮き上がる。
「わりぃな、トレナ。そいつぁ俺の悪い癖ってやつよ」
「調子乗りすぎな。アレ、全部爆破すればいいよな?」
「ああ。やってくれ。」
トレナはご自慢の自作爆弾を惜しげもなく投下。地面は煙とクレータだらけだ。
「いいぞ。下してくれ」
「ああ。アタイはいったん下がる。アーティの姉貴たちがすぐに来るはずだ。それまで、持ちこたえろよ。」
「当たり前よ。」
トレナの手を離し、俺は地面に滞留した全ての煙を纏った。地面へ激突する。衝撃など、無いに等しい。
ちょうど、アーテレイアと皇帝そっくりの奴が到着する。
「はは!ナイスタイミング!」
「ボンプ。状況は?」
「引き分けってとこか。固いが強いわけでもねぇ。手加減してる感じでもないしな。」
戦ってみた所感を彼らに伝える。皇帝のそっくりさんは、どうやら仲間と考えてよさそうだ。
「じゃ!第二ラウンドとしゃれこみますか!」
(~~~~~)
アーテレイアに連れられ城を抜けた時、爆音が響く。火薬が爆裂した音だ。私とアーテレイアは城外にいる者たちには目もくれず、爆発がした方向へと全力疾走。
「アーテレイア。何でお前は、見知らぬ相手と協力しようだなんて言えたんだ?」
「信用と信頼は先に与えた方が勝ちってわけ。俺の価値観の話だから、あまり気にするなよ。手が足りないってだけだ」
私は、利用しようとする人間はわかる。どうしても、アーテレイアが私を利用しようとしているようには思えなかった。
爆心地へと到着すると同時に、煙が全て一点へ集まってゆく。
「はは!ナイスタイミング!」
その中心には輪郭のぼやけたロングコートを着たサングラスの男。そして、皇帝が立っていた。アーテレイアはその男と会話をする。
「ボンプ。状況は?」
「引き分けってとこか。固いが強いわけでもねぇ。手加減してる感じでもないしな。」
アーテレイアの仲間らしい。敵でないなら十分だ。きっと、先の爆発もこの男がやったのだろう。私とアーテレイアがここに来るまで皇帝と戦っていたのだ。そのうえ、会話中も皇帝から目を離していない。きっと手練れなのだろう。
「じゃ!第二ラウンドとしゃれこみますか!」
「先ほどはそちらが先手を取ったのだ。次は私からやらせてもらおう」
アーテレイアの宣言と同時に。皇帝が突っ込んでく来る。アーテレイアが前に出て、突っ込んできた皇帝の頭をドアを蹴るように蹴り飛ばす。後方へ皇帝は飛んで行く。
「あれ、思ったより弱い?」
「油断するなアーテレイア!アイツは無駄に頑丈だ、その程度で倒せるなら俺がとっく殺せてるよ」
皇帝はその勢いのまま、地面を跳ね数メートル飛んで行った。無駄に豪華なマントがたなびくので無駄に優雅に見える。それを見た私は、皇帝へ走って距離を詰める。先手必勝と言わんばかりに、私は倒れた皇帝へ剣を振り下ろす。
「遅い!」
皇帝は倒れた姿勢から私の剣を弾き、私は大きく前にのけぞり転んだ。皇帝は弾いた勢いに乗って立った。勿論、転んだ私に剣が振り下ろされる。煙男が片腕でそれを防ぎ、もう片方の手を私に差し伸べる。私はその手をつかんで立ち上がった。私が立ち上がったのを確認したとき、煙男は受け止めた剣を弾き、皇帝の姿勢がよろける。がら空きの胴体へと煙男の巨腕が撃ち込まれる。
「オラァ!」
その衝撃で皇帝は吹き飛ぶが、空中で身を翻し着地する。アーテレイアは追撃に走った。着地の瞬間、蛮刀で首を狙うが、皇帝の剣で防がれる。
「うっそぉ!」
アーテレイアが驚愕の声を上げる。私はそれに続き、剣を皇帝の背中へと向け走る。私の剣が皇帝の背へ刺さるというとき、皇帝はアーテレイアの蛮刀を押しのけながら回転し、私とアーテレイアを跳ねのける。
「"燃えろ"!」
跳ねのけられたアーテレイアは脈絡なしにウィンクを決める。その瞳から火花が散ったかと思えば、皇帝へ向け雫型の火の弾を飛ばす。その火の玉は命中し、軽く爆発する。皇帝はその火の弾をマントで受け止め、マントは燃えその熱で皇帝は全身を火傷する。皇帝は炎上したマント脱ぎ捨て、急速に距離を取る。
「仕切り直しだ・・・!」
皇帝は剣を土に突き刺した。先より地面が大きく揺れた。先ほど爆破され粉々になった鎧たちが復活し、そのうえ地中から地上へさらに鎧が現れる。
「お前たち風に言えば、第三ラウンドだなああ!」
皇帝らしさの欠片もない、感情に任せた強い声でそう言った。どうやら意趣返しのつもりらしい。まったくそうなってるような気はしないが。そしてアーテレイアは言う。
「エルナート、約束通りだ。雑魚は俺達が受け持つ」
「え、そっくりさんとそんな約束してんのかよ。俺多人数戦闘苦手なんだぜ?特にアレ相手だと」
私はその言葉の意味が一瞬分らなかった。自分の命が惜しくないのだろうかと。煙の野郎もだ。
「アーテレイアがそこまで言うなら信用する。お前は皇帝との因縁でもあるんだろ?さすがに判る」
「そういうことになったから。約束通り、トドメはやる!」
有無を言わせない善意を感じたからだ。であれば、私も信用しなければ。
「愚策を立てるのは終わったか?さあ。来い!私のラストピース!」
アーテレイア、煙男は私の背の方向へと走り出す。私もそれと同時に、皇帝へと走り出す。後方では、私を守るように戦闘が始まったようだ。
「デュルアああああああああああ!」
「懲りないなお前も。さっさと私の一部に戻ればいいのになあ!」
私は懲りない。そうして、感情に任せた一撃に見せかける。煙男、アーテレイアは雑魚の処理で手一杯。初対面のあいつらがここまでして私と私の一騎打ちという場面を作ってくれたんだ。私は、それに報いなければならない。
「いい加減にしろ!」
近づいた私の肩へ剣が振り下ろされた。私はその剣を真正面から受け止め、つばぜり合いの形をとる。相手は私の三倍の力を持っている。私は私を四分割した欠片のたった一つの力しか持たない。技量も、知識も四分の一しかない。だから、きっと皇帝はここが夢であるという事を忘れる。私なら、きっと忘れる。
「あああああああああああああああああああ!!」
「押し負けるだとッ?!私は!皇帝なんだぞ!お前が!矮小な欠片如きに!?」
だから、真実を。予想通りだ。私は私だ。外的要因がなかった皇帝と違い。私は別の場所で、お前の器を。自分以外の人間とかかわってこれた。
無条件で信頼し、その善意で人を虜にする。アーテレイア達や、器を拾った奴らもだ。私と、私の器はそんな人ばかりに拾われた。だから、私はいつしか染まってしまったのだろう。私以外の、ただただ良心だけで人を救えるような人達に。
彼らは夢を教えてくれることもあった。世界平和とか荒唐無稽な夢ばかりを語る者が多かった。私はそんな彼らの善意を踏みにじり、彼らが拾った器を壊し続けた。二度とかかわることなどない。だのに、心が痛まなかったことなど一度もなかった。私は、私として自由に生きてみたかった。
私は私だ。私は結局のところ罪人だ。多くの人を殺した罪人だ。それは今も昔も変わらず。私の声一つで国単位の人が死んでゆく。私はもう、そんなのは嫌だ。だから。
私は力任せに皇帝の剣をたたき割り、皇帝の胴を両断する。
「矮小で、荒唐無稽だからだ!これが、お前が。私達が踏みにじってきた夢だ!ここは夢だ!」
「ありえない!」
「罪を許され、自由に生きたい私みたいな薄汚い奴に!!!」
「人々が差し伸べた手を払いのけたのは私だ!断じてお前じゃない!私は、私のために全てを殺してきた!それも生きるためだ!仕方ないだろう!地位と力があったんだ!狙われるなんて、命が脅かされるのなんて嫌だ!敵対勢力や政敵を全て殺せば、私は自由に生きれるのに!お前も自由に生きたいだろう!お前は私なんだから!!」
見苦しい。自分の欲を語るだけの命乞い。もう私には私の言葉は届かない。私は、エルナートとして、私の罪を雪ぐ。
「やめろ、やめろ。来るな!自由を望んだだけだ!私はあ゙まだ!」
皇帝は這いずり、逃げようとする。胴体を切断され、腕で移動する私を阻止するのには何の労力も必要ない。ここは夢なのに。自由を夢見るだけで、命は永らえられるのに。それは、荒唐無稽な夢なんかじゃなくて、切に願い現実だから。現実にする、とそう強く思うからこそ夢は叶う。私は、自由に生きるという理想が現実になるとは最初から思っていなかっただろう。だから、傷が塞がらず、私からも逃げることができない。
私は、皇帝の私の頭を貫いた。その瞬間に、周りの鎧たちは戦いが終わった事を察したのだろう。剣を捨て、空を仰ぎ見て手を合わせ祈るような所作をした。空が晴れてゆく。あたりに残るのは、やっと自由を得た者たちの感謝だけだった。




