四。僕は私か
良いのだろうか。これで。
今までに自分の判断を疑った事はない。初めに剣を取ったときも、虫を潰したときも、人を殺したときもだ。あり得ない。戦争が始まって、もう数年たった。敵を殺す。部下が死んでゆく。人が消えていく。それ以外も。
「天も地も、我らを拒むののはない!」
物資を、馬を、命を、あらゆる物を犠牲にし、ただひたすら前へ、前へ、前へ。阻むものなどないなんて、直ぐに暴かれる嘘だ。でも、その触れれば崩れる虚構に兵士は縋った。そうするしかないから。それ以外に進める道がなかったから。茨の道しかなかろうと、後ろが崖だったから。敵前逃亡は処刑だった。
「進め、進め、進め!止まることは許さない!」
それを定めたのは私だった。士気が下がろうと戦わねば死に、戦わねば勝てない。まぁ、戦ったところで死ぬが。それも私が定めたものだった。
征くしかないのだ。全てを滅ぼさねばならない。民のためか。いや、自分のためだ。押し付けられた王冠を、ひどく輝かせなければならない。永遠の栄光を手にせねばならない。きっと、私がそう望むから。
中央の陣地へと、伝令が届く。
「西翼方面より通達!異能者の戦場投入を確認!」
「私が行こう!伝令の君、随伴せよ。道中の案内をするように。」
天馬を駆けり、西の戦線を目指し戦場を飛ぶ。あらゆる兵器たちが火を吹き、あらゆる兵士たちが剣を取り、あらゆるモノの命が奪い取られる。一人は微力だが、ソレが集まる事でこれほどの大火を産んだ。
(※)
第三次世界大戦、あるいはスペルゲンの戦いと後の世で語られる戦い。その戦火は、ここ【赤】を中心とし、すべてを巻き込んでいった。
(この世に存在した国全てに反旗を翻したを仕掛けたバカげた戦争。だった)
反逆側が勝利したが、実際に代わったことは特には無く。多くの犠牲を生んだ戦いで、現在は歴史の汚点の一つだ。国という概念は滅び、いまでは色や『夢』の範囲で自治区分されている。
夢というのは眠る時に見るソレとは違う。誰かが望んだ世界が、だれかが恐怖した世界が、そんな世界を夢に見てしまった人間を中心に現実へと溢れ出した。土地を飲み込み、その内の空間は現実ではあり得ない事が起きる上に、内の物は外へと持ち出せる。そうして世界は発展した。
たとえば、【青】と呼ばれる地域では、妖精やユニコーンが見られるようになった。【白黒】の地域では龍や鬼など、現実にありえないとされていた妖怪や化物が顕れた。もちろん【赤】でも。
(【赤】では過去の死者が姿を保ったまま蘇った。尤も、それらに意思は宿らなかった。)
全ての夢では、その夢を見た主の願いや望みが、一部のみ叶う。
(私は死んだ者たちとまた笑う事を夢見た。意思などなく、ただ死んだ時の行動を繰り返す空虚な人形を望んだつもりなど無い。ふざけている。私は、ただ。失った人を取り返したいだけなのに。)
(私の見た夢は、兵器を掘り出す鉱脈として扱われている。スペルゲンの戦いは【青】の地域で体系化された魔法が、実戦投入された最初で最大の戦いだ。私達反乱軍も、【青】で魔法を学んだ者が幾らかいたので、我々も魔法を兵器に詰め込んで戦った。そのように作られた兵器のうち、特に戦果を上げたのがアザレア長銃とヴァーミリオン大砲だ。火薬による爆発を、魔法による爆発に代替するというコンセプトで作られた兵器だ。もちろん、魔法が扱えない者でも使えるように工夫が施されている。
それを可能にした材料は、永久的に稼働するように加工を施し、魔法を使うための最小限の器官を残した敵魔術師兵だ。具体的には、脳の一部を植物と融合させた器官に接合、光合成だけで生きるように改造した。空気中の浮遊物を媒介に魔法で水を生成し、外に置くだけで火力が保証される。引き金も引きやすく、範囲も申し分ない素晴らしき兵器たちだった。他にも多くの兵器を作った。閑話休題。このような素晴らしい兵器たちを使って私達は勝利した。)
だが失った者も多かった。私と共に反逆を企てた友人たちは悉く戦死し、世界もまた、戦争など二度とできぬほどの損害を受けた。人類の5割を滅ぼしたのだ、無理もない。それから1700年の時が流れたわけだが、今や人類の脅威は人類ではなくなった。
夢のおかげで発展した世界の人々は、夢によってもたらされた技術に恐怖した。つい昨日まで蝋燭に火を点けて明かりを確保していた家が、朝起きればオール電化になっていたほどの発展に恐怖しない人間はいるはずない。
そんなとき、夢の中で確認されていた化物が、市街地に現れるようになった。対処法など考える暇なく、化物に人々は蹂躙されていった。技術者たちが夢によってもたらされた技術で化物を退治できる様になった時には、夢は広がり、拡散し、現実を侵食して行く事がわかってきた。
これを見て政府は、急遽夢を拡大させないために全世界夢研究所立ち上げ、対策を取り始める。わかったのは
・夢が拡大する条件のうち、一番は夢内部での人間の死亡であること。
・夢を縮小させるためには、夢に発生する怪物を殺せば良いということ。
化物退治をすることで夢の拡大を防げるので、そのような職業が生まれた事は言うまでもない。原因は不明だが、人類全体の身体能力が向上していた事。まれに異能力を持つ者が生まれるようになった事もその追い風となった。
「で、それが俺達ってわけ。」
ヴィレと私が歴史を含め、色々と解説してくれた。歴史の方は、僕も実際に体験した事があるような感覚がした。
夢から帰ってきて2日。僕の違和感だったものがとてもはっきりとしてきた。僕の頭の中に、『私』がいる。二重人格といった状態が最適か。
帰ってきて悪戯を受けたそのあと、一日休暇をもらった。記憶を失ってしまったせいでなくした知識を得るために、ヴィレから本を借りて読んでいたときだった。
(気づいてるんだろ?私がお前の体を使ってるって。鎧の時とか、大砲のときとかさ。)
はっきりと頭の中で響いた。夢に連れて行かれた時に感じた違和感の正体がこいつによるものだと確信した。
(悪いとは思ってるんだよ?人の頭に勝手に入ったりしてさ?でも私も気がついたらお前の中に入ってたんだよ。私も意識がはっきりとしてきたからさ。あ、無視しようとしてるでしょ。いまは私=僕なんだから、わかるんだよ。)
などと、とてもうるさいので、しかたなく受け入れることにした。
僕は、私に感謝した方が良い。(感謝するといい)
いつの間にか僕の中にいた私は、僕にとって有用であることが感覚的にわかる。
(私と僕の体は同じ何だから、僕が死んだら私も死ぬからね。生きるために仕方なく助けるんだよ。)
私が過去の人物、戦争を起こした主犯格であるということもわかった。
(それはしょうがないだろう。国が悪かったんだから、国が。)
少し黙ってもらえるか。
(わかった。)
というふうに、自分の中で会話できるというのが、不思議で仕方ない。でも聞き分けが良いみたいで、黙れと言ったら黙ってくれる。それのおかげで、まだ楽だった。頭の中の私が言っている。
(もしかしたら、僕の記憶がなくなったのは、私の性かもしれない。僕の中に私を入れるために、僕の記憶が押しやられて飛んでいったのかもしれない。)
と。ヴィレの声がする。
「「デルン聴いているか?」」
私が、僕と会話する時、声が二重に聞こえることがある。僕は私であるが、完全に同一でないことの証明だ。僕と私は同じ体を共有しているので、僕が聞いた事は私も聞いている。同時に、同じ体で二人が同じ事柄を聞いているので二重に聞こえる事があるようだ。(尤も、私と僕の意識が独立したせいでもある。私と僕の意識が統合されればこの問題は直ぐに解決するはずだ。)ということで、僕は頷いた。
「長かったしな。でも、これで大体の説明はできた。内容は理解したか?」
「はい。もちろん。予習のおかげでするりと」
「そっか。教科書ちゃんと読んでたんだな。勤勉でよろしい」
「それで、僕はこれからどうなるんですか?記憶が戻るかどうか、それが怪しくなってきたので。まだ2週間とちょっとですが、やっぱり気になっちゃって。」
「これからは事務仕事じゃなく、俺達と同じく夢の中で依頼をこなしてもらおうと思ってる。お前が来た時は人探しの依頼もあるって言ったが、もっぱら化け物退治だけだ。お前が良いなら、だが。」
(私は賛成だよ。戦いは私の得意とするところだから、いつでも役に立てると思う。)僕も、行って良いと思う。私の有用性は簡単にだけど理解した。私の知識があれば、僕は戦える。
「わかりました、それで大丈夫です。戦える事は、前回でわかってますから」
「よし!じゃどういうことで」
「ヴィレ、ずっといられると仕事がしづらいのですが。2時間もここにいて大丈夫なんですか?」
リヒがヴィレに言った。おお、リヒでも怒る事はあるのか。静かな怒りが感じられた。サボってるも当然なので、働き者のリヒからしたらサボりは許せないのだろう。
「大丈夫。さっき依頼行ってきたじゃん?それの処理が本部でも時間かかるらしくてさ、待ってんの。」
「待ってるのだ〜」
ひょこっと、子供が入ってくる。ひょこっと、とは言えども扉を勢いよく開けたのでバンという音がなった。あんな小さいデリにそれだけの力があることに驚いた。その後ろから、遅れてデカいのが来る。
「できたって。レニ姉がもっていってほしいって!はい!」
「どーも。リヒさん、デルン。げ、ヴィレもいるのかよ。処理終わったからリヒさん呼んでこいって言われてさ」
「わかりました。デルン、こちらの書類は頼みます。ヴィレも行きましょうね、サボったバツです」
リヒがヴィレを引きずって行く。ヴィレはなんの抵抗もできずに引きずられていった。リヒに任されたのは山のような書類の山。とりあえず上から半分を僕のデスクへと運ぼうとする。デリがいつの間にリヒのデスクの前に来ていた。
「手つだおか?はこぶの?」
「お言葉はありがたいけど、君に頼むのはなぁ・・・」
「じゃあ、おにいがやって!」
「え、オレか?なら手伝おうか?ほら、持ってやるよそれ。向かいのデスクで良いんだよな?」
答える前にジンがすっと書類を運び終える。ジンは僕が持っていた書類を、僕が気づく前に取っていって僕のデスクの上へ置いた。おお、見た目に反して素早い。
「ありがとう、助かるよ!」
「おやすいごようなのであった」
「なんでお前が誇ってんだよ。オレがやったんだ、よっと!」
ジンがデリを肩車した。ちょっと羨ましいなあれ。どれだけ高い景色を見れるのだろうか。
「オレもそろそろお暇するわ。頑張れよ」
「がんばるのだ〜」
「こら、偉そうにするなよ。デルンはお前よりきっと年上なんだから」
そう行って兄妹二人は事務室を出ていった。肩車のせいで、デリは扉前の天井に、ジンはドアクローザーに頭をぶつけて頭を抱えていたのが、本当に痛そうだった。
キャラ紹介4、5、6
:リチュカリアル・フォン・アウスロウエン
22歳男。いつも過労、常に疲労。赤の貴族であり、男爵の爵位を持つ。特に貴族として治める領地や民は居ない、近年の貴族は基本がそうである。貴族としての矜持をして、相手に敬意を払い常に敬語を使う。現在はヴィレの事務所の事務員として働いている。コーヒーよりエナドリが友であり、カフェインの重度中毒者。
:ジン
背が高いし、筋肉もある。見た目とは裏腹に、非常に器用。医者見習いで、当然肉体労働も可能だ。熊と殴り合って勝ったらしい。19歳。甘い物が好きだそう。
:デリ
悪戯好きの子供。無尽蔵の体力と、謎の怪力を持つ少女。年齢は兄とそこまで離れてないそうだ。熊と殴り合って勝ったらしい。塩辛い物が好き。




