二。出奔/手紙
さて、エノプロウラがどうのこうのしてまた緑の夢道への門を開く。どうやらボンプとアーテレイアには珍しい事象らしく少し驚いていたが、すぐに平然とした。夢なんだから、ありえないことはないってのを理解してるんだろう。やはり有名人てのはベテランしかいないんだな。
「ここを走ればすぐです」
「エノプロウラさんと俺が先に行く。良いよな?」
ボンプが先行を申し出る。断る理由はない。エノプロウラとボンプが先頭、俺がそれに続き、アーテレイアが殿を務めるような形で通路を走る。緑の夢とは言えども、病院のような白い壁、白い床が延々としてい、その上枝分かれしているのでどれほど進んだかわからなくなってゆく。迷路の様で非常に面倒に思う。
「エノプロウラ、先に俺の事務所に行くっての忘れてないか?」
「わかっております。できるだけ接敵を避けるための経路です、耐えてください」
「わざわざ戦闘有利なオレらを雇っておいてそうなるか?」
「俺が依頼したのは護衛だろ?依頼主へ危険が及ばないならいいじゃん」
良好ではないにせよ、話しながら移動できるってのはとても夢の人間らしいくて良い。白い壁ばっかりで通らなかった通路が欠ける。先に通路が欠けることもあり、そういう時は枝分かれした道へと行く。だんだん直進するだけの道が減って行く。タイムリミットだ。
「そろそろ鈴を鳴らします。舌を嚙まないように」
「ああ」
「わかった」
鈴を鳴らす、というのは夢から起きるのは目覚まし時計という考えから生まれた言葉で、夢が現れてから常用されるようなった。夢は現実でありえない超常現象が起きる地域である。空間が歪んでいたりまあ、いろいろ異常な場所で現実で観測できるよりも広い。だから、夢の外へ行くときはできるだけ高速での移動が求められる。夢の中にいすぎると目覚められなくなるから。
鈴の音が響く。魔法によって保護され、ワープの様に現実へと引き戻される。
(~~~~~)
見慣れた俺の事務所。事務員のリヒすら、だれもいない。置手紙をするにはちょうどいい。
「お前の事務所か?結構良い所に構えてるんだな」
「空いてたからな。前の持ち主がボヤ起こしたとかで・・・おい、何で目をそらしてるんだ?」
「ナンデモ・・・ナイデスヨ・・・?」
能力というのは夢に長く居すぎた人間が使えるようになる力で、現実にありえないものが大半だ。青の魔法だってそうだし、戦える人間はほぼ持ってるって考えた方がいい。確か、赤の能力は火に関するモノが多かった。そういえば、アーテレイアって能力で涙が燃えるから有名になったんだっけ。
「今は燃やさないでね・・・?」
「もうやらねェって・・・ボンプも煙草気をつけろよ」
「お前に言われたかねぇ」
「王よ。お手紙をお書きになるのでは?」
「ああ。さっさと書いてしまおう」
書き出しはどうするか。友人に向けてだからカジュアルに書くか。できるだけ簡潔にしよう、いつもならこんな事しないから深読みとかされたらたまったもんじゃない。
「手紙、ねえ。お前、そういうとこちゃんとするんだな。オレの弟はそういうことはしてくれなかった」
「弟が居たのか?」
「ああ、死んだが」
「それは・・・」
死者の話にふとペンが止まる。
「いいんだ。オレの失言だった、忘れてくれ」
仮面の色が濃くなり、背を向ける。俺は手紙を書き続ける。
十数分後に書き終わった。良し。こんなもんで良いか。これで良い。これで、良い。
「行こう。できるだけ速く。」
世界の裏側、そのすべてに張り巡らされるように密かに存在する緑の夢。俺は空を裂き、そこへの門を作る。俺達は夢へ落ちてゆく。青の夢まではそう時間はかからなかった。
(※)
夢へ入った時、新人のデルンがいませんでした。リヒは僕のせいだ、と頭を抱えていました。リヒが夢の中へと飛ばしたから、きっと自分のせいだと思ったのでしょう。でも、あの新人は何かがおかしかった。多分、人間じゃなかったと思います。だから、リヒが青出身の魔法使いから学んだ『人を夢へ飛ばす魔法』が正しく機能しなかったんだと思います。そのあと、戦争の異常を解決させて事務所の皆で現実へ戻りました。
夢から出た時、私のヴィレがいませんでした。夢から帰れなくなるなんて、珍しいことでもないのに、私はそんなことあるはずが無いって慌てて、ふためいて、私は信じなかった。ヴィレが死んじゃったなんて、信じなかった。皆はありえないことなんてない、って言って諦めて副長の私に全部権限が移された。そんなはずない。あるはずない。あの人が、私達に何も言わないで居なくなるはず無い。
「今日だけでいいんです。ヴィレを、探しましょう。良いですよね?」
今日だけ、夢の中でいられる時間は最大でも12時間程度と言われています。それ以上は、夢から出られなくなるって聞きました。今はヴィレと夢に入って5時間だから、後7時間もあるんです。7時間探せば、痕跡位はきっと見つかるはずだって思いました。
「僕は・・・反対です。きっと、きっと・・・ヴィレは帰ってきますよ!アイツが死ぬはずない・・・ですから。それに、僕たちは捜索に向いていませんから」
リヒは反対と言いました。もっともです。夢は広いですから、7時間探しても見つからないこともあるでしょう。それに、私達は危険地域の整理や、正面戦闘向きの能力の人しかいません。そんな私達の中で唯一そういう事ができるリヒがそう言うのです。きっと不可能なのでしょう。
「レ二、済まないけど私も反対だよ。こういった場合は、探すだけ無駄だ。肉と骨だけが見つかるだけかもしれない」
カイ姉さんは反対だと言いました。いつもなら私の名前がレイ二ィだから雨って呼んでるのに。おしゃべりで楽観的なカイ姉さんらしくない、とっても真面目で希望もないような、私を危ない目に合わせたくないようにそう言ったんだと思います。
「オレは・・・クソ。すまねえ、帰る。」
「おにぃが帰るなら帰る。ヴィレは死なないでしょ?きっと心配ひつようない」
ジンは私より滅入っているらしく、妹のデリちゃんと一緒に帰っていった。ハス爺さんは帰ってきた瞬間に帰って行ってしまった。定時なのでしょうがないですね。
でも、ヴィレを探そうって言うのは私だけでした。確かにそうです。夢で行方不明になるのは珍しいことではありませんし、行方不明というのはほぼ死亡と同じ意味です。でも、ヴィレは一人でも誰にも負けるはずないんです。
「――――私はヴィレを信じていますから」
「雨ちゃん、今日は帰って早く寝ると良い。ほら、涙も拭いて」
「うん・・・」
私はカイ姉さんから手拭を受け取って涙を拭く。そうです、今は居ない人の事を考えている暇はないのです。赤夢大研究所の報告会に行かなければならなくなってしまったのですから。
(※)
報告会から帰ってきた私達は事務所の机に置かれている一枚の封筒が目に入りました。今時珍しい封蝋を使った古風な手紙があったんです。私はそれがヴィレの書いたものだってわかりました。封蝋をこじ開け、中を読む。
『急にいなくなってすまない。手紙などと、柄にもないことをすることを許して欲しい。』
すまない、じゃないですよ。私達を置いていったくせに。
『俺は、本来の役割をしに青へと帰る。危険だからついてこなくて良い。お前たちはもう、自由に生きれる。事務所の引継ぎについては手紙の隣にある封筒に詳細がある。参考にするように。』
そういうの、一番嫌いだったのは貴方でしょう?私を本来の役割から切り離してくれたのは貴方でしたから。私達のために、そうして一人で行ってしまう貴方はとても素敵だと思います。もっと頼ってほしいけれど、私は弱いですから。私は、同室に居た皆に突き付けた。
「皆、これ見て下さい。皆も私と同じこと思ってますよね」
勿論、全員が同意した。私達はヴィレの事を信頼してるし、信用しています。私達は出身がバラバラです。しかも、私達はそれぞれ訳ありで人が関わろうって思う生い立ちじゃありません。なのに私達を拾って一緒に居させてくれる。依存じゃない。対等に話せる仲間と一緒に仕事をして、実績を重ねて、生い立ちのことなんて誰も言えないくらいの高みへ立ったの。私達は、自由に生きられるだけの力を手に入れたんだ。
『最後に、お願いだ。』
最後なんて言わないでください。でも、聞いてあげますよ。
『――――俺のことは忘れてほしい。』
それだけは許さない。
だから、私達は自由に生きるよ。
「青に、行きましょう。」




