温泉に浸かりながら恋バナしましょ
シャンプーで髪を洗って石鹸で丁寧に身体の汚れを落としてから入浴する。
白い湯気が立ち上る温泉に浸かると身体の芯まで温まり深くリラックスができる。
長い息を肺から吐き出して周囲を見回すと客は自分たちの他にはいないようだった。
美琴もムースも甘々なスキンシップをしており完全にくつろいでいる。
彼女たちの甘いやりとりや背中の洗い合いに耐性がないのか赤面している李を見て、メープルは自然と口元が緩んだ。生真面目な彼女にとって刺激が強すぎるのだろうか。
ふとヨハネスのことが頭に浮かぶ。
物音や声がここまで届いてこないことを察するに男湯ではうまくやれているのだろう。
「メープルお姉さま。頭を撫でてくださいませ」
「甘えん坊ね」
優しく撫でるとムースは子供のように柔らかな笑顔を見せる。
甘え上手なところは姫君らしいと思いながらしばらく彼女を撫でた後にメープルは昼の約束通り李の傍に寄って話をする。
「ちょっと雑談いいかしら」
「どうぞ。なんでも話してみて」
李の言葉にメープルはすこしだけ意地悪な笑みをして。
「カイザーには告白したの?」
「うん」
「返事はどうだった?」
「聞いちゃう? ダメだったよ」
「……ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ。彼は誰とも付き合わないらしい。妹が大好きなんだって」
「妹さん?」
思わぬ単語に美琴とムースも近づいてきた。
「初耳ですわね」
「わたしも初めて聞きました」
「私もよ。カイザーに妹がいるなんて知らなかった」
「ボクも知らなかったよ。何億年も前にいたらしいけど、先の戦いで戦死したらしい」
「……辛かったでしょうね」
「だろうね。隊長の妹さん、きっと可愛いんだろうなぁ」
「誰にでも平等に愛する主義の彼が明言するぐらいだもの、当然ね。でも、あなたは悔しくないのかしら? 妹さんに最愛の人が奪われて」
「正直、最初は嫉妬もしたけど、今は受け入れられたかな。大好きな人が好きな人なら、嫉妬するのは筋違いかなって思って」
「あなた、優しすぎるのね」
「そうかな。自覚ないけど」
「そこがすごいのよ」
李は端正な顔立ちに柔らかい笑顔を見せて言葉を続けた。
「でも彼はボクが告白してくれたらデートしてくれたんだ」
「まあ、おめでとう!」
「ありがとう。たった一度だけだけど、大好きな人をひとり占めできたのは本当に夢みたいに嬉しかった」
天井を見上げる李の顔には負の感情はひとつとしてなかった。
彼女は自分の恋愛に決着をつけて新たな道と心境に進んでいるのだ。
あまり親しくはなかった李と会話して、これまでよりもずっと心の距離が縮まった気がしたとメープルは思った。