番外編 ラグとメープルのスパーリング
「お嬢様。よろしくお願い致します」
リングの上で恭しく一礼をしたのはメープルの恋人兼執事的存在のラグだ。
ショートよりは長めの髪は動くとさらりと揺れ、大きな琥珀色の瞳に長い睫毛。小顔で色白の顔は中性的だ。黒の執事服に白手袋を着け異様に大きなリボンタイをしている。
背丈はメープルとさほど変わらず体格は華奢だ。彼は先の戦いで参戦できなかったことを恥じていた。
冷静に戦局を分析してハニーと戦うつもりが結局は川村に任せてしまった。もっと早く動いていればスター流の負傷者も減らせたのではという自責の念が彼をスパーリングのリングへと上げた。
恋人の頼みなのでメープルも承諾し、ふたりはリングで全力で戦うことを誓った。
練習とはいえ勝負には変わりない。最初からラグは飛ばしてきた。身体の大部分を機械化している彼は並の人間には不可能な動きができる。
「ハリケーン・キック!」
脚をドリルのように猛回転させて放つ蹴りをガードしようとしたメープルだが、すぐさま顔が苦悶に染まる。凄まじい回転でガードを削られ崩され防いでもダメージを負う。
「スクリュー・パンチ!」
腕も錐揉み回転させることで防御を崩し相手の身体を貫ける。
「ちょっとラグ君、反則じゃない?」
どこか嬉しそうにメープルは言った。実際に嬉しかったのだ。好きな人と遠慮なく戦い力を比べる楽しさがある。
メープルがコーナー最上段からダイブすると、ラグは軽々と彼女を受け止め飛行機投げで場外へと飛ばし、ロープを反動にしたロケット頭突きで追撃。
ギリギリで躱してリングへ戻るメープルにラグはすぐに起き上がり、跳躍してリングイン。
「リングアウトを狙っていたのに」
「簡単に倒されるわけには参りません。お嬢様が相手ですから」
「それもそうね」
ふたりは真っ向から見つめあい首相撲に突入する。膠着状態。
先に腕をとったのはメープルで腕折りを数回極めてダメージを与えつつ、フライングヘッドシザーズで倒して素早く腕ひしぎに入る。
トントンと軽くラグがメープルを叩く。タップ。降参の合図だ。
メープルは頬を膨らませて金のツインテールの毛先を揺らし腰に手を当てた。
「もう。簡単にギブアップしないでくれるかしら」
「申し訳ございません。お嬢様が強くて……」
「まあ、いいわ。試合後は喉が渇くからお茶の用意をお願いできるかしら」
メープルはフッと笑ってタオルで汗を拭ってリングを降りる。
ラグは彼女の願いに笑顔で答えた。
「喜んで。お嬢様」
番外編 おしまい。




