対抗意識
電車の出発時刻が迫っていたので、駅までの道をやや急ぎ足で歩いていた。
しばらく歩いていくうちに、だいぶ前を歩いていた女性に追いついてしまった。
「・・・・・・。」
速度を緩める。・・おそらくスマホを見ているのだろう。たらたらと歩いている。
追い抜きたいのだが、道幅の関係上でそれができない。
向かい側からも人が歩いてきているので、しかたなく後ろをついていくしかない。
腕時計を見ると、ちょっと間に合うかどうか微妙なところだった。いや、余裕をもって家を出なかった自分が悪いのだが。言い訳めいているが、昨夜は色々と忙しく、起きるのが遅くなってしまったのだ。
・・・もっと、早く歩いてくれないだろうか。
彼女の前には誰も歩いていない事がわかり、恨めしく思った。
後ろからも人が来ているのに。
(ようし、こうなったら。) 私は強行手段に出る事にした。向かい側から人は来ているが、距離はまだ遠い。
無理矢理抜かすことにした。ずいっと前に出た時、彼女の肩に私の肩がかすめた気がしたが、知らない。
やった。 成功した。形勢逆転。
しかし。
勢いよく前に出て、彼女との距離をどんどん引き離していく私だったが、直後に予想外の事態となった。
後ろの方からツカツカとヒールの音が聞こえてくる。
どんどんそれが迫ってくる感じがしたので・・振り返ると。
!?
まっすぐに私を睨みつけるようにしながら、早歩きで迫ってくる彼女の姿があった。
その目はなぜか、私への対抗意識に燃えているようだった。
え? なに?? なになに??
急にこわくなり、私は前を向くとさらに歩くスピードを上げていく。
それに合わせて後ろの歩く速度も上がったのがわかる。 えー、こわいよー。
やがて進んでいくと、大通りに出た。これを渡るとすぐに駅に着く。
もう、電車には余裕で間に合うが、彼女がこわかったので、すでにチカチカしている信号を小走りで渡り終えた。
この信号はわりと長い。ここで上手くやらなければ鬼につかまってしまう。
信号が赤に変わると同時に、後ろで大きな舌打ちがした。
なんなの!? このひと?? 抜かれたのがそんなに悔しいのか??
こんなことは初めてである。
・・・とにかく、一刻も早く電車に乗ってしまおうと、ひたすら前だけを見て小走りする。
ようやく駅に着き、少しほっとした私が改札口を通ろうとした、まさにその時だった。
周囲がざわついていることに気が付き、おもわず振り返った私はそのまま口を開けてフリーズした。
手前のビルの壁に彼女がよつんばいで張り付いている。
彼女は私に気が付くと、ふっと勝ち誇ったように笑った。
完