魂の試練へようこそ!
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ハーベルは、92階の入り口にやって来た。
「お前!【呪われた杖】は持っているのか?」
入り口のドワーフが少し偉そうに聞いてきた。
「ああ」
ハーベルはそう言って袋から大きなスタッフを取り出した。
「おお、そんなところに!」
ドワーフは驚いているようだった。
「この試練は、【魂の試練】だ!」
「魂か•••」
ハーベルが少し考え込むと、ドワーフはまた少し偉そうに説明し始めた。
ドワーフの話では、
元は、【マーキュリアルスタッフ】と呼ばれる、どんな姿にも変身することのできる伝説の杖だった、ある大魔導師がこの杖に魅了されて、魂を奪われてしまったそうだ。
それから、【呪われた杖】と呼ばれるようになり忌み嫌われてきた。
このダンジョンでは、最深部にいる魂を奪われた大魔導師を救出して、元の【マーキュリアルスタッフ】へと戻すことができればクリアとなる。
「また、難しそうだな•••」
「いや、ハーベルなら大丈夫だろ!」
ブリッツが肩にピョンと飛び乗って言った。
「まずは、襲ってくる亡霊どもを天へ帰してやってくれ!」
ドワーフが祈るように言った。
扉を開けると、中は洋館の廊下のようになっていて、いきなり建物の中へ入ってきた感じだった。
「へえ、こんな風になっているのか」
ハーベルがスタッフをみると、薄明かりが灯っているように、ぼんやりと白く光っていた。
恐る恐る廊下を進んでいくと、すすり泣く女性の声が聞こえる気がした。
「うう、嫌な予感•••」
ハーベルは乗り気がしないが、その部屋の扉をゆっくり開くと、
ギギギギ••••ギギ•••キーーーー!
嫌な音をたてながら扉が開いた。
真っ白のドレスの長い黒髪の女性が、なぜかずぶ濡れで、すすり泣いていた。
いつものハーベルならここで駆け寄って声をかけそうなものだが、さすがに躊躇してしまった。
「大丈夫ですか~?」
ハーベルは少し離れたところから声をかけてみた。
すすり泣く女性は、泣くばかりで答えようとはしなかった。
「••••••••」
「おーい!聞こえてないですか~?」
もう一度だけ声をかけてみた。
「は~い、お邪魔しました~」
と扉を閉めて帰ろうとドアノブに手を掛けると、
「待ちなさい!」
ずぶ濡れの女性の右手が手を掴んだ。
「うう••••」
ハーベルは思わず身震いがして鳥肌がたった。
素早く手を引き抜いて女性の顔を見てまた身震いがした。
「ああ••••」
ハーベルはそのまま固まってしまった。
そこには、顔をキャッチャーミットのように腫らして、水でふやけてブクブクになった女性がいた。
ハーベルは思わず後ろに飛び退いてしまった。
だが、よくみるととても悲しそうな顔にも見えた。
ハーベルは思わず、
「どうしたの?」
と聞いてしまった。
「私、キ•••レ••••イ?」
女性が口をモゴモゴしてそう言うと。
「あ、ああ•••」
ハーベルがその場しのぎの答えを返してしまった。
「じゃあ、結婚して~~~~~!」
その顔のままでハーベルの顔面スレスレまで一瞬で近付いていた。
ハーベルは目をつぶって、そのまま女性を両手で抱きしめた。
なんとも形容しづらい触り心地で、一瞬でも早く放したかったが、そのまま堪えてこう言った。
「俺は、既婚者なので結婚はできましぇん!」
思わず噛んでしまった。
しばらくの沈黙の後薄目を開けると、
「ハハハ!できましぇんって•••」
可愛らしい顔で笑う女性を抱きしめていた。
「はあっ!」
ハーベルはビックリして大袈裟に両手を放した。
「ハハハ•••こんな笑ったの何年ぶりかしらね•••」
女性は寂しそうな顔になって話し始めた。
女性の話はこうだった。
昔、婚約者に裏切られて、入水自殺をしたが誰にも見つけられないまま、すべての人の記憶から居なくなってしまったので、天に行けなくなってしまったとのことだった。
「ごめんね、俺は結婚できないけど、生まれ変わったらいい人が見つかるといいね!」
ハーベルはそう言って、彼女の額にキスをしたいところだが止めて、スタッフをかざした。
すると、スタッフが輝きだしスーッと彼女は消えていった。
そのときの顔は、未来に希望を持っているような美しい顔だった。
【呪われた杖】は、こうして輝きを取り戻していった。
最深部の地下室では、一人の白くて長い髭を蓄えた、いかにも魔導師といった風貌の老人が立っていた。
「よくここまで辿りついたな!」
「この杖を復活させるには、どうしたらいいんだ?」
ハーベルがその老人に尋ねると、
「私の魂の汚れを払ってくれ!」
老人は懇願する顔で呟いた。
「具体的に、どうして欲しい?」
ハーベルが尋ねると、
「その杖を私に貸して欲しい!」
「杖を?」
ハーベルは何か違和感を覚えた。
「そうだ、杖を私に返してくれれば、天に行くことができるだろう!」
「•••」
今までの亡霊たちは、希望を叶えて最後に杖を額にかざすと、幸せそうな顔で天に召されていった。だが、この老人は杖そのものを要求している?
「では、この杖を!」
ハーベルが杖を老人の目の前に差し出すと、生きた人間に飛びかかるゾンビのように飛び付いてきた。
「早く、よこせ!」
老人は力ずくで杖を奪おうとするが、ハーベルが強く握った杖はびくともしなかった。
「やっぱり•••」
ハーベルがそう言って杖を取り上げると、老人の額へ一発お見舞いした。
そのまま老人は尻餅をついて倒れた。
「何をするんじゃ•••」
老人は悲しそうな顔をして見ている。
「杖を奪ってどうするつもりですか?」
ハーベルが強い口調で言うと、
「私は、天国へ行きたいだけじゃ!」
「分かった!」
ハーベルが杖を老人の方へ投げた。
投げた骨を拾いに行く飼い犬のように老人は杖へ飛び付いた。そのまま大事そうに抱きしめると、
「ハハハ!バカな奴め!これで、私は完全復活だ!」
いきなり大声で叫ぶと、【呪われた杖】が激しい光に包まれた。
「おお••••」
老人は輝く【マーキュリアルスタッフ】を掲げて、恍惚の笑みを浮かべている。
「マーキュアル•シフ••••と•••?」
老人が若いときの自分自身に変身しようと詠唱しようとすると、
「はい!そこまで!」
ハーベルが一瞬で杖を取り上げて、杖の先を老人の口に突っ込んでしゃべれなくしていた。
「ぐっは、ペッ、ペッ、ぺ•••」
老人は呆気にとられて口を拭った。
「お前の考えぐらい分かるよ!」
ハーベルがそう言って、
「マーキュリアル•シフト!」
詠唱すると、老人を老犬に変えてしまった。
「ワン、ワン、ワン•••」
何か訴えているようだが、ハーベルは無視してそのまま出口へと向かった。
次回 逆行と共鳴の世界へようこそ!
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頑張って続きを書いちゃいます!




