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Act.1 『日常と序章』

  新世界暦2740年

 宇宙の遥か彼方、『中央星系』の『緑星』に、人間と呼ばれる動物が暮らしている。

 『緑星』は美しい緑と暖かな気候に恵まれた惑星で、人間の半数以上は『緑星』に生活の拠点を置く。


 その『緑星』の中にある第3生活地区の大通りに、少女はいた。

 少女の瞳はこの時代でも珍しい灰色。髪の毛は肩甲骨より下の辺りまで伸びていて、色は焦げ茶。パリッとしたジーパンの上に、長袖のシャツを着ている。袖の長さは左右バラバラで、左のほうが短い。左腕だけが、鋼のような灰色をしている。


「よお、レイ。今日も買い物かい?」

 八百屋から、野太い男の声がした。

 声をかけた男の顔は、声からもイメージできるような所謂『強面』だ。

 レイと呼ばれた少女は、無愛想に男を見た。

「そうだけど、何?」

 氷も凍てつくほど冷たく言い放った少女の名は、レイオール・フランチェ。第3生活地区の学習棟に―――学校に通う16歳だ。『緑星』では、必須学習年齢―――義務教育は20歳まであり、それまでは学習棟に必ず通うのだ。

「いや、お前さん最近よく買い物行くなーと思って」

 男はたじろぐことなく、けろっと答えた。

「それだけなら、いちいち呼び止めないで」

 レイオールは苛立たしげにそう言い放つと、すたすたと歩き出した。

「ハハハ。相変わらずだなーレイは」

 男は楽しそうに独り言を言った。子供の頃から変わらない、レイオールの背中を見ながら。



 レイオールは南に向かって歩いていた。目的は、ただ一つ。両親の墓前に供える花を買うこと。


 レイオールの両親は、レイオールが5歳のときに死んでしまった。

 家族で旅行に行った帰り道に、突っ込んできたトラックに潰されたのだ。その時に、レイオールも左腕を失った。病院に運ばれたレイオールは、使えなくなった左腕を『兵器兼義手』にすり替えた。

 この『兵器兼義手』は、本人の意思に関係なく、体の一部を失ったら必ず着けるのだ。そしてそうなってしまった人は、年齢に関係なく学習棟の機械体保持生徒用戦闘技術科―――機戦科に通い、戦闘技術を叩き込まれる。卒業時の能力が平均並みか低ければ、健常者とあまり変わらない暮らしができ、逆に能力が高ければ警察組織に入り、その後に戦闘部隊に配属されるのだ。つまり、警察組織の人員確保のためのエゴなのだ。

 レイオールもその一人で、機戦科に通っている。

 その傍ら、暇なときには花を買って墓前に供えているのだ。


 この日は宿題もなく、夏休みが間近なのもあり、授業は早く終わった。レイオールは友達が少ないので、そんな日は他の生徒より数段暇になるのだ。


 左側に、見慣れた花屋のドアが見えた。

 いつもの様にマーガレットの花束を買うと、来た道を引き返した。両親の眠る墓に向かって。

 北に向かって歩くと、右側に細い道がある。その先の霊園に、レイオールの両親は眠っている。

 レイオールは花束を墓前に供えると、ゆっくりと歌いだした。高音が響く、幸せな親子の様子を謳った歌は、授業で習ったものだ。

 最後の一音まで歌い終わると、レイオールはゆっくりとその場を離れた。

 枝分かれのない石畳の一本道を引き返すと、先ほどの大通りに出る。帰るために北に向かって歩くと、八百屋と酒屋が見えた。

「ただいま帰りました」

 酒屋に入ってそう言うと、レイオールは階段を上って自室に入った。

 荷物の少ない自室に入ると、レイオールはベッドに倒れこんだ。仰向けになると、染みのない真っ白な天井と、飾り気のない照明がよく見える。


 どれ位そうしていただろうか。眠っていたかもしれない。

「レイちゃん、ご飯ですよ」

 下の階から、おばさんの声がする。

 レイオールはムクリと起き上がると、のそのそと階段を下りていった。今日の夕御飯はシチューだな、とか考えながら。


 こうしてレイオールの日常は、積み重なっていく。


 ◇


 レイオールが夕御飯を食べている時、第1生活地区に隕石が落下した。


 緑星に隕石が落ちるのは珍しく、その殆どは大気圏で消滅するか、となりにある影星に落ちる。そのためマスコミは大騒ぎし、専門家に話を聞いてみたり、目撃者に取材してみたりした。そして、すぐにテレビで報道され、新聞記事も作られた。

 そうして、1時間で殆どの人がこの出来事を知った。―――しかしその情報は、真実ではない。報道された内容は、

・第1生活地区に、隕石が落下したこと。

・緑星の近くにある隕石郡から落ちてきたこと。

・大気の摩擦のせいか、隕石は小さくなっていたこと。

・目撃者によると、流れ星(隕石)が見えなくなった直後に大きな揺れがあったこと。

が主で、何故落ちてきたのか専門家による解説があったり、これまでに落ちた隕石について今回の落下に照らし合わせてみたり、内容は番組や記事によって様々だった。

 しかし、真実を知る者は三人だけだった。



  第3生活地区某所


 少女はラジオを聴いていた。流れているのは、隕石についてのニュース。

 少女は満足そうに微笑みながら、ラジオの電源を切った。琥珀色の瞳に映るのは、ただただ純粋な悦び。

「人って、自分達に予測及び理解できないことが起こると、すぐに理解しようとするけれど、」

 少女はそこで言葉を切ると、窓の外に目を向けた。そこには、深緑の森がある。

「世の中、本当に理解できることなんて、全く無いのよ」

 向かいに座る少年に目を向けると、少女は真面目な口調で『仕事』についての打ち合わせを始めた。

「…とりあえず、私の『力』は信じていただけたかしら。『読み手』さん」

 『読み手』と呼ばれた少年は、ニッコリと頷いて答えた。

「ええ、勿論です。それに、僕は最初から信じていましたよ」

「…それで、『仕事』について、詳しく聞かせていただきたいのよ」

 少年は少し顔を引き締めると、『依頼』をゆっくりと口にした。

「手紙でも言いましたが、あなたに依頼するのは…」


 ―――それは、人類にとって不都合なこと―――


 ◇


 翌日、レイオールが通う学習棟では、当然のように隕石のことが話題になった。

「レイ~昨日の隕石、知ってるよね~」

 そう話しかけたのは、レイオールと同じ機戦科に通う、数少ない友人の一人。

「知ってるけど?」

 レイオールはそう言いながら、2時限目に出された夏休みの宿題を片付けている。

「あれね~、聞いた話によると、誰かが意図的に起こしたらしいよ~」

「あっそ」

 レイオールは素っ気なく返事をすると、訓練室に移動する準備をした。


 機戦科に通う生徒は、3時限目以降は戦闘訓練をする。

 この学習棟には、他にも普通科や、お金持ちの子供たちが通う社交科がある。普通科と社交科には制服があるのだが、機戦科は私服登校だ。これは、人によって『兵器』の場所が違うからである。

 学習棟では1時限50分、1日5時限ある。2時限目と3時限目の間には、40分の休憩がある。

 時間割はクラスと学科によって異なり、レイオールがいる機戦科11-Sは、同じ機戦科の11学年の中で最も優れているクラスなのだ。そのため、授業は他のクラスに比べて、発展的内容や高度な内容が多い。

 その中でもレイオールは、常に成績上位だ。このままこの成績を保てば、確実に戦闘部隊の中でも重要な地位に就くことができる。


「行くよ」

 レイオールは友人にそう言うと、訓練室へと続く廊下を歩き始めた。

「待って~、置いてかないで~」

 そう言われて待つ奴はいないな、と思いつつ、レイオールは立ち止まるのだった。

 振り向きは、しなかった。


 廊下を歩きながら、レイオールは思う。さっきの友人の言葉は、軽く流していいものではなかったのでは、と。

『意図的に誰かが起こした』

 あれほど大規模な隕石を、意図的に落とすことなんて可能なのだろうか。

 しかし、自然に起こったとしては、不自然なことが多いような気がする。

 意図的に。意図的に。意図的に。


 どんっ!


 ぶつかった。レイオールが立っているということは、相手が倒れたということ。

 レイオールは相手に手を差し伸べた。因みに無言で。と、そこで動きが止まった。

 水色と灰色の、タータンチェックのスカートとリボン。―――つまり、社交科の制服。

 レイオールの動きが止まったのは一瞬で、何事もなかったかのように、そのまま相手を起こした。機械化されていない、細い右腕で。

「ありがとう。あなた、機戦科ね。もしかしなくても、Sクラスでしょう?」

 いきなりそんな事を言われて、戸惑った。

 自然に話しかけてくる初対面の少女に、なんて答えればよいのやら。ただでさえ話すのが苦手なレイオールにとっては、今すぐ逃げ出したい状態だ。しかし、よく解らないが口が勝手に動いた。

「はい。あなたは社交科ですね?」

「ええ。せっかくだからお名前を聞いてもいいかしら」

 このとき隣にいた友人が何かしていれば、レイオールが自分の今の異常さに気付いていたら、誰かがこの少女に話しかけていたら―――

「レイオール・フランチェです。機戦科11-Sクラスです」

 黒く長い髪を持ったその少女は、にっこりと微笑んだ。

「ユレーム・フィムネルンよ。社交科の13-Sクラスよ」


 ―――そして、歯車は徐々に噛み合わさっていく。


 ◇


 少女がいた部屋で、少年は読書をしていた。

 少年は明らかに未成年で、学習棟にいなければならないのだが、構うことなく黙々と読書を続けている。と、ある行で目を留めた。

『もう一人の綴り手を抹殺する』

 その行の上には、日付も記されていた。それは、この日から9日後となっている。

 少年は口笛を吹くと、純粋無垢な子供のように笑った。

「…うわあ、さっすがお嬢様!庶民とはやることが違うね~!」

 そう言うと、今度は真面目な落ち着いた口調になった。

「でも、だからこそ成功するとは限らないんだけどね」

 誰もいない部屋で誰かと会話するように呟かれた言葉は、そのまま誰の鼓膜も揺らすことは無かった。

 少年は目を眇めると、何かから逃げるように、スキップで部屋から出て行った。

 足音は、しなかった。


 コンコンッ


 部屋の扉がノックされた。

 ノックした男は何も言わずに部屋に入ると、迷わず窓に近づいた。

 窓の外に広がる森は、前に見たときよりも色がくすんだように見える。元気がなくなったようにも見える。小さくなったようにも見える。

 だが、男には止められない。いくら足掻こうとも、机の上に置かれた本の持ち主に掛かれば、男の命すら簡単に亡き物にできる。

 男は小さく溜め息を吐くと、部屋の掃除を始めた。

 いつものように、丁寧に。


 本の持ち主は学習等で、残り僅かな移ろい往く平和な世界を過ごしている。

 そして今、思惑を実現させるために動いている。


 ◇


 訓練室の角に、レイオールと友人は佇んでいた。

 あれからユレームと二言三言話し、逃げるように訓練室へ入ったのだ。

「美人だったね~」

 友人は笑顔で言った。しかし、レイオールの頭に届くことはなかった。

 何故、あの時あんなに話すことができたのか。

 何故、ユレームは自然に話しかけてきたのか。

 『何故?』がレイオールの頭の中を交差して、絡まった毛糸のようにややこしくなっていく。

「レイー?どうしたの~?オ~イ、話聞いてる~?」

 目の前で手をひらひらされて、ようやく友人の言葉が頭に入ってきた。

「どうしたの~?具合とか悪い~?それともさっきの美人さんの事とか考えてる~?」

「いや、大丈夫」

「考えすぎは体に毒よ~。それより、ホントに話聴いてなかったでしょう」

 図星。

 レイオールが首を縦に振ると、しょうがないな~と言わんばかりに溜め息を吐いた。

「じゃ、もう一回だけだよ~。これは、ただの噂なんだけどね~…」

 そして、語りだした。

「教室でも言ったけど、あの隕石って誰かがわざと落としたらしいよ~。でね、遂に緑星滅亡の危機だ!ってインターネット掲示板では盛り上がってるらしいよ~。…何がそんなに面白いんだかね~」

 同意見だ。口には出さなかったが、洞察力、観察力に優れた友人なら解っただろう。

「そんでね~、ある人がこう書きこんだんだって~。

『俺、聞いちゃったんだけど、何処かの誰かが人類滅亡を目論んでるって噂、案外本当らしいんだ。第2生活地区の路地裏で、スーツ着た男×2がコソコソと、お嬢様がどうとか、人類滅亡も近いとか、隕石がどうとか、まるで警戒心0で話してて…。何の事か、よく聴こうとして近づこうとしたんだけど、スーツ男がこっち見て…。ホント怖かった!』

…で、その書きこんだ人は、この書きこみの後、二度と掲示板に現れなかったらしいよ~」

「殺られたね」

 キッパリと言った。

「あ、これ噂だからね~、噂」

 友人は朗らかに笑い―――

「…と、言いたいところなんだけど」

―――『ただの噂』の可能性を、あっさりと否定した。

「その掲示板に行って確認したんだ~。で、そしたら本当みたいなんだよね~。実際に一つ一つ見たんだけど、確かにその人は、さっき言った書き込みをしたあとはもう書き込みしてないんだよ~」

 でもそうなると、人類滅亡の話とか、口封じのこととか、全部本当の話になる。まるで現実味がないけれど。


「くおぉらあぁーーーっ!」


 怒られた。というよりも、怒鳴られた。

「おみゃー等はいつまでこんな所でさぼっとるのじゃぁ!とっとと訓練始めろっ!」

 訓練官(既婚・37歳・愛妻家)はそう怒鳴ると、レイオールの友人を見て、集中的に怒鳴り始めた。

「おみゃーは優等生をも巻き添えにして、そんなに落第したいのかぁ!大体、何でお前みたいな不真面目な生徒がのこのことSクラスで授業受けてるかなぁ?もうそろそろAクラスに落ちるぞぉ!それに―――」

「行こ」

 訓練官が怒鳴るのを遮って、レイオールは友人と逃げた。

「待てぇいっ!おみゃーらそんなにAクラスに落ちたいのかぁ!おいこら、逃げるなぁ!」

 訓練官が怒鳴りながらこちらに走ってくる。しかし、Sクラスでも10位以内に入るほど足の速い二人にとっては、校庭で新入生と鬼ごっこをするような気軽さで楽々と逃げられる。

「おー、やってるやってる」

「またかー。教官情けねー」

「よくあれで結婚できたよなー」

 真面目に訓練している生徒でさえ、このお決まりの風景には声が出てしまう。

 レイオールと友人が入学してから恒例となったこの風景は、訓練で疲れきった生徒に、少しの笑いと、少しの安堵感を提供しているらしい。

 いつもと変わらない、安心。

 ま、それが日常という奴だから。


 ◇


 少年は、部屋から窓の外をぼんやりと見ていた。

 空のように澄んだアクアブルーの瞳は、似ているようで違う、本物の空をその瞳に映していた。

 雲はゆっくりと流れ、やがて視界から消えていく。それの繰り返し。

 少年はあまりにも暇なのか、椅子から立ち上がり、窓の外に身を乗り出して―――


飛び降りた。


「よっと」

 少年は苦もなく着地すると、芝の上に寝転んだ。念のためここで記述しておくが、少年がいた部屋は4階にある。

 ぼんやりと空を眺める少年の髪を、時々風が玩ぶ。そのことを特に気にした訳でもないのだが、上半身を起こして左手で前髪を後ろに梳いた。何度かそれを繰り返すと、少年は立ち上がって伸びをした。

 徐々に西へと傾き始めた『炎星』に背を向けると、少年は忽然と姿を消した。

 後に残ったのは、窓が開いたままでカーテンがたなびいている部屋を4階に設けた建物と、何事も無かったかのように日光浴をする芝、それから、全ての木が葉を落とした、砂漠化が進むかつては森だったもの。

 あと、強いて言えば、前髪を梳いたときに抜けてしまった、日に翳すと薄茶に見える、灰色と薄茶の中間の色の髪が数本。少年が消えてからしばらくして、風に飛ばされたわけでもなく、自然と陰になって消えていった。


 全てを詳細に見ていたのは、人と意思の疎通が図れないような蟻たちだった。

 部屋の掃除をした男は、そのことに気付いていたが、何も言わずに、紅茶を上品に飲んでいた。

 ついでに言ってしまうと、建物の中には毛並みの綺麗な猫が一匹、徘徊していた。この建物と人々の異常さを知ってか知らずか。

 全貌は、神様にもわからない。

 この建物もすでに、神様の決めた理が少し歪められた場所にあるのだから。

 少年も、男も、猫も、森も、家主も、少女も。


 神などこの世界にいないとでも言うように―――


 ◇


 少年は町を見下ろしていた。別に意味は無いのだが、こうしている事で、心を落ち着かせることができる。

 決して干渉できない、非現実的な現実。

 それが、少年がこの町に抱くイメージだ。深い意味は無いのかもしれない。ただ、真実と見たままを述べただけかもしれない。少年には、それ位しか解らない。

 干渉できない―――訂正、干渉されないこと。あるいは、その両方。

 少年にとっては、目の前の風景は画面の中の世界のように、薄く膜が張られたようなのだ。


 はあ、と溜め息を吐くと、少年はゆっくりと扉に向かった。扉を開けると、その先は階段。階段の下では、緑を基調としたタータンチェックのスカートを穿いている女子が目についた。なにやら雑談をしているようだが、少年にはさっぱり内容が解らない。

 私服で歩いているのに、誰も咎めない。それどころか、今は授業中らしく、廊下には誰もいない。先程の女子はサボりらしい。


 しばらく歩くと、また階段が見えた。

 なんとなく降りると、まだ降りられるらしく、階段は折り返しながら続いている。特にすることも無いので更に階を降りると、もう続きは無いようで、階段はそこで終わっていた。ここが1階らしい。

 やはり廊下には誰も居らず、少年はきょろきょろと辺りを見回した。昇降口らしきものが、ポツンと口を開けている。その向こうには、巨大なホールのような建物がある。

 なにやら怒鳴り声が聞こえるので、そちらには行かないことにする。廊下の反対側には、渡り廊下がある。少年はそちらに行くことにした。

 廊下を歩いていると、教室の中から聞こえる音が気になってきた。

 擦るような音、引き摺るような音、叩くような音。

 音で程よく満たされた廊下を音も無く歩くその少年は、やはり場違いなように見える。


 渡り廊下を抜けると、先程までの古びた感じはなく、真新しい感じがする。

 装飾は細かく鮮やか、かつ上品。色使いも落ち着いていて、何処かのお屋敷かと思ってしまう。まあ、本当のお屋敷にはどこか及ばない部分もあるのだが。

 少年は、ふと気付いたように傍の階段を駆け上った。

(―――ただの直感だ。根拠なんて何処にもないのだが、やはりあいつは何か企んでいる)

 止めなくては。替えさせなくては。

 これ以上ややこしくされたくは無い。

少年は焦る心を抑えられなかった。


 ―――キーンコーンカーンコーン…


 鐘が鳴る。焦る気持ちを増幅させる音を背中に受けながら、少年は駆け続けていた。

 この章も、ある意味では序章なんです。けれど、運命の歯車は、既に音をたてて回転を始めているんです。


 これは、ブログに投稿している小説をまとめて投稿しているものです。

 十話分溜まったら、それが一章分です。

 本当は一話一話サブタイトルがあるんですが、こちらでは新しく付け直しました。

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