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04 これはもはや天罰・・・いや、天佑か(前編)

「はっ、は、はわぁぁ⋯⋯」


「谷崎くん何でここに⋯ってもしかして環と谷崎くんって姉弟!?」


 僕は何が起こっているのか分からず言葉という言葉を発せられない。も、もしや姉の友だちって鳳条先生なのか⋯?嘘だろ?嘘であってくれ⋯


「え?れいちゃん何で秀ちゃんのこと知ってるの?二人知り合い?あ、この人が私のお友だちの鳳条零夏ちゃんね。上がっていいよ〜。」


 うん。何だこのクソみたいな現実。おい!鳳条先生までちょっと気まずそうな顔しないでくれ!死にたいのはこっちなんだよ!


 神は今日一日僕に天罰を与えたいらしい。別に神話的なことを信じたことはないが、もし神がいるなら腹に蹴りをいれたい。切実にそう思う。


 そんな僕なんか気にせず、姉はリビングに入っていく。玄関に僕と鳳条先生が取り残されてしまう。いや、悪いのは神とかじゃなくて姉だな。


「そ、そっか!よく考えたら環の名字も谷崎だったね!ご、ごめんね気づけなくて。別に私のこと気遣わなくていいから。ね?」


「は、はひぃ⋯」


「あ、そうだ。手洗っていいかな?洗面台貸してくれる?」


「そ、そそそそこのと、と、扉ですぅ⋯」


「何回か来たことあるから分かるけど・・・ありがとね!」


 鳳条先生は僕にそう言って手洗い場に入った。なんだこれ。ラブコメ展開か?別に僕はそんなの絶対求めてないぞ!第一、いろいろとリスクが高すぎるだろ!下手したら学校生活どころか社会的に死ぬことになるじゃないかこんな状況!


 しかも、何回も入り浸ってんのか・・・僕がたまたま見たことなかっただけか、記憶に残っていないだけか・・・この際そんなことはどうでもいい。


 と、とにかく僕に今できることは細心の注意を払って時がすぎるのを待つしかない。しかもそれだけじゃない。相手は鳳条先生だ。僕の隙を見せたらそれこそ学校で晒されることだって全然あり得る。取り繕って、取り繕わねば⋯


 僕は震えた手でドアノブを握り、リビングに入った。


 ☆★☆


 鳳条先生がいるから制服から着替えることもできない。僕は何も点いていないテレビを睨みつけながらただ時がすぎるのを待っていた。


「秀ちゃ〜ん!ご飯準備できたからたべよ〜ぅ!」


「い、いや、いい。先二人で食べてもらって⋯」


 何も分かっていない姉が僕を食卓という名の軽い地獄へ連れて行こうとする。僕はその誘いにもちろん乗らない。夕食ぐらい後で一人でゆっくり食べさせてくれ⋯


「だ〜め!秀ちゃん運動してきたんだし早くご飯食べなきゃ!それにお姉ちゃんせっかくお仕事在宅だったから手間かけてご馳走作ったんだよ!冷めないうちに食べちゃわないと損するよ〜!」


「ちょっ、離せっ!っていうか在宅ワークでもちゃんと仕事はしろっ!」


 僕の必死の抵抗も虚しく、制服の裾を掴んでずるずる食卓まで僕を運ぶ。なんて馬鹿力なんだこの女⋯


 食卓には一足先に鳳条先生が座っていた。小さな子どものように姉に裾を引っ張られる姿を見られたことに思わず羞恥心が込み上げ、腕を振り払って素早く着席する。何故人間こうも醜態を晒してはならない状況ほどそうしてしまうのか⋯


「じゃあ!みんな手を合わせて〜いただきま〜す!」


「「い、いただきます⋯」」


 相変わらず姉だけが異様にハイテンションだ。それと対照的に僕の存在ゆえに少し遠慮している鳳条先生、今にもここから消えたい僕⋯と食卓がカオス極まっている。


「はいれいちゃんどーぞ!明日は二人ともお仕事無いし、朝まで飲みあかそうぜっ!」


「いや、私は明日も午後から部活行かなきゃなんだけど⋯」


「え〜!?先生ってやっぱ大変だね⋯でもまぁ、午後からなら大丈夫でしょ!はい、かんぱ〜い!」


 半ば強引に鳳条先生に飲酒を強要する姉。何らかのハラスメントで訴えれないだろうか⋯僕への仕打ちも含めて。


 そんな二人を脇目に、僕は無言で食べ進める。認めたくはないが⋯味は美味い。自分でも手間をかけたと豪語する程だ。両親共に仕事で家から離れており、そんな僕の世話をしてくれていることには感謝していなくもない⋯かも。


 だからといってあんなKYムーブが許されるわけではないが⋯


 少しでも早くこの場から離れたかった僕は、黙々と夕食を終え、自分の皿も洗って自室に戻った。二人はというと⋯


「んでさ〜⋯この前駅までナンパしてきた男がいたんよね!それでさ〜どうみてもヤリ●ン顔だったというかさ〜それで声かけてきた瞬間殴ってやったの!」


「あはははは!!環、弟くん以外の男にきびしーからね!そういえば私もこの前ね⋯」


 酒が回ってこのザマである。これは当分終わらんだろうな⋯まぁ、むしろ好都合だ。このまま鳳条先生も姉も酒に溺れて寝落ちしてくれたらもう気にすることは殆ど無い。


 姉たちがまだ晩酌している今のうちに風呂でも入ろう。というか、サッカーの後ずっとこのままだったけど、臭くないよな!?大丈夫だよな!?もし鳳条先生にそんなイメージを植え付けられたらたまったもんじゃないからな⋯


 姉たちの邪魔をしないようにそっと風呂場に向かう。既にお湯張りはされてあった。グッジョブ姉!十分で上がれば鉢合わせることもないはず⋯手短に済ませよう。


 〜二0分後〜


 ⋯僕はまだ湯船に浸かっている。もう身体も頭も洗い終えてしまったからあとは上がるだけだ。だが、僕の本能がそれを妨げる。なぜなら⋯


 そろそろラッキースケベが来るはずだからだっ!一人で風呂にいて、家に美人な先生が泊まりに来ている。エロゲやラノベならお風呂で鉢合わせ確定演出だ。なのに⋯何も起こらない。


 いや、冷静に考えたらわかると思う。これは現実である。そんなことが起きるわけない。ただ、童貞の心理的に、これらの条件はそういうフラグと認識してしまうのだ。


 まあ、それに関しては今日一日でフラグというフラグを回収し尽くしている現状もあるかもしれないが。


 そんな御託はどうだっていいが、現に僕の僕はそういう妄想のみで硬直してしまっている。男というのはどうしてこんなにもアホな生物なのだろうか。


 流石にのぼせてきたのでそろそろ上がろうかとしたその時、ガラッ、という音とともに風呂場の戸が開いた。やはりフラグは回収されたっ!


「や〜ん!秀ちゃんのえっち〜!こーこーせーにもなってお姉ちゃんとお風呂とか可愛いね〜♡♡」


「⋯⋯⋯チッ」


 狙ったかのような登場をかます姉の横を素通りして風呂場から出た。途端に猛烈に死にたくなった。自分の愚かさ、アホみたいな自分の性欲に殺意が湧いた。


 また、僕の僕は見慣れた姉によって元のように収縮した。

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