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それは誰かの宝物



ステラ・コンドレイ伯爵令嬢

十六歳 三女 庶子

銀髪碧眼 美人


アルディ・シリュウム公爵

二十三歳 金髪碧眼 知的美形

母である先代公爵夫人は領知に滞在

眼鏡使用


ロッド 公爵家執事

五十七歳 

先代の公爵の頃から仕えていて、アルディが生まれた時から側に居る

アルディの嫁取りに気を揉んでいる


シズケイト侯爵 

二十七歳   夫人は二十五歳

アルディの同僚

ステラの養子先の父

聖物が好きなことからアルディと仲が良い


本文に執事の名前は出てきませんが、当初の設定ですので残しておきます。



「始めて見た時から気になるご令嬢だと思っていました。しかし、あなたを愛しているのだとすぐに気が付きました」


 アルディはバラの花束を差し出したまま、緊張気味に告白を始めた。

 バラの花束が大きくて、ステラはアルディの顔が見えない。

 しかし、そんなことに気が付かないのか、はたまたそんなことはどうでも良いと思っているのか、アルディはそのまま話を続ける。


「あなたがコンドレイ伯爵家で伯爵令嬢としてあつかわれていないことに、私は怒りが湧きました。希少価値のある宝物を手元に置いたまま放置されているような、なんというか、なんで大切にしないんだと。しかし、だからあなたが他の男の目にとまらなかったのだと思うと、それだけは感謝だという矛盾も感じました」


 宝物を放置というのはあなたの十八番では?と心の中で突っ込むステラだったが、まだ話が続きそうだったので黙って聞いていた。

 

「ステラのことが大好きです。愛しています。あなたがそばにいてくれたら、私はずっと幸せでいられると確信しています。だから私もあなたが幸せだと思ってもらえるように、愛し続けます。どうか私と結婚してください」


 アルディは頭を下げつつ花束をさらにステラに近づける。

 ジリジリと近づく花束に圧迫感を感じたステラは、思わず受け取ってしまった。

 するとパッと顔を上げたアルディがあまりにも嬉しそうに笑うものだから、ステラはとうとう観念した。

 

「正直なところ、私も少しだけ公爵様を気にしていました。でも、私と公爵様とは育ってきた環境も違うし、私自身は教養もないので今までは断ることだけを考えてきました。でも、考えを改めます。私、公爵夫人として恥ずかしくないように勉強します。公爵様の隣に自信を持って立てるように頑張ります」


 アルディの目をしっかりと見てそう答えたステラに、アルディはやっと受け入れてもらえたと安堵した。

 そして、ステラが気にするなら教養の家庭教師を付けようと、アルディはステラへ提案する。

 もちろんステラは感謝して受け入れた。

 基本的に前向きな性格のステラは、目指す方向が決まれば目的地に向かって進むだけだ。

 目の前に現れた『教養、マナー』という大きな壁も、逃げること無くコツコツと叩いて穴を開けて通り抜けることにした。

 とりあえずダンスを学ばないとデビュタントができないということで、アルディはダンスの教師を手配することにした。

 しかし、暫くはステラが歩く練習が最優先だ。

 リハビリの医師も手配するように執事に言うと、もう公爵家のお抱え医師により手配してあると言われ、アルディは執事の仕事の速さに満足気に頷いた。



 

 シズケイト侯爵夫妻との顔合わせから二ヶ月半後、デビュタントまで二週間となった時には、それなりにダンスが踊れるようになったステラは、マナーの教師にも付いてもらい、大至急でマナーを頭に叩き込む毎日を送っていた。

 教え上手な教師はステラを褒めて育てるタイプだったようで、上手くステラをのせて気持ちよく教養を身につけさせていった。

 ステラも一度頑張ると決めてからやる気に満ち、また、覚えると褒められることが嬉しくて、どんどん吸収していった。

 社交界デビューの前日には教師からなんとか及第点をもらえたが、必ずアルディと一緒に行動すること、との注意を耳にタコができるほど言われたステラは、会場につくときらびやかであり荘厳さもあるその雰囲気にのまれ、絶対にアルディから離れないと心の中で誓った。



 アルディは元々離れる気はなかったが、エスコートのためにアルディの腕に回してきたステラの手から緊張が伝わってきて、今夜はあまり遅くならないうちに帰ろうと決めた。

 デビュタントのステラのドレスは白だが、お揃いの色味の衣装は現在縫製作業中で、そのドレスをステラが着る日をアルディはとても楽しみにしている。

 今夜のデビュタントが終わったら、ステラはあちこちからお誘いが来るだろう。お茶会は無理でも、その他は全てアルディがエスコートするつもりでいる。そのためのドレスを既に十着依頼した。全てアルディと揃いとわかるデザインだ。

 今までは夜会などは面倒で仕方がなかったが、ステラと一緒だと思うだけで楽しみで仕方がない。

 ステラに教養を教えていた教師がステラの吸収の速さを手放しで褒め、ぜひこのまま教師を続けさせて欲しいと懇願してきたことを思い出したアルディは、つい表情が緩んでしまう。

 自分の出自と育ちから逃げ腰になっていたステラを、なんとか捕まえ結婚の了承をもらえただけでも良かったが、こうしてどんどん周りに認められるステラを見ているとまるで自分が褒められたように嬉しくなる。

 しかし、あまりステラの視野が広くなりすぎるのも不安だ。自分から離れていってしまうかもしれない。さて、そうならないためにはどうしたら良いか。とアルディは考えていたが、なかなか答えが見つからない。



 思案しているアルディの横顔を、ステラはじっと見ていた。

 何か考えているとはわかったが、それが何かはわからない。しかし、馬車を降りてホールへ向かう最中ずっと考え事をしているのだから、きっと重要なことなのだろう。

 そこまで考えたステラは、はっと気がついた。


『また何か買おうとしているのではないだろうか』


 シリュウム公爵家では二部屋改装し、アルディのための『宝物庫』を造った。

 今まで溜まっていた魔法関連の物は、ほとんどがオークション行きになったので二部屋でも余裕はあるが、気を抜くと以前と同じになるのは目に見えている。

 しかし、全てを拒否すると反動が来た時にどうなるかわからないため、アルディがどうしても欲しいと言うものだけは落札しても良いと決めていた。

 さて、こんなに悩むほど欲しいものとは何なのだろうか。

 知らないうちに物が増えるより、自分も知っていたほうが良いだろうと考えたステラは、単刀直入に聞くことにした。


「公爵様?今、何をお考えですか?」

「ん?ええと、鎖とか、かな」

「鎖?何にお使いで?」

「······ステラの首に?」

「ネックレスですか?」

「まあ、そんなところ」

「私、一財産築いたなと思うほどいただいたんで、もうこれ以上はご遠慮したいんですけどね」


 数日前、ステラが教師と部屋でお茶を飲んでいると、部屋にやってきた執事が『アルディ様からです』と大量に箱を置く。

 中を確認するとネックレスや指輪、ブレスレットにイヤリングと、それはそれは立派な物ばかりで、メイド長の指示のもとステラの部屋の衣装室に運び込まれた。

 貴族として生活をしてこなかったステラにはあまりにも重い贈り物で、すぐに返そうと思ったところで教師から、『貴族は買い物をして経済を回す』という話を聞き、なんとかその時は『勿体無い』という言葉を飲み込んだが、アルディがさらに買おうと思っているなら話は別だ。

 

「先日いただいた宝石類は、未だ未使用のものばかりです。さらに新しい物など······あ、デザインが流行遅れになるかもしれませんよ」

「流行遅れか······鎖に流行などあるのだろうか」

「ありますよ。ええ、装飾品は流行り廃りが早いですから」

「そうか。ああ、それならばステラに聞こう。何か欲しいものはないか?不自由していることでも良い。教えて欲しい」

「うーん、私はとても満足していますよ。私には勿体無いほど満ち足りたと言いますか。ただ、貴族としての生活は始まったばかりなので、ゆっくりと体を慣らしていきたいかなとは思っていますけど」

「そうか。満ち足りているか、良かった。ステラはデビュタントを迎えたばかりだから、あまり急いで社交に出なくても良い。必要なところは私と一緒に行けば良いのだから、一人でなんでもこなそうとしないで欲しい」

「ありがとうございます」

「それならば私の願いを聞いてもらえるだろうか」

「できることならば」

「私達は結婚するのだから、公爵様と呼ばれるのは悲しい。今この時からアルディと呼んで欲しいがどうだろうか」

「あ、そ、そうですね。流石にそうでしたね。では、えっと······アルディ様」

「うん、嬉しいよ。ありがとうステラ」



 アルディの名前を呼ぶだけで頬を染めたステラを見て満足気な笑みを浮かべたアルディは、とりあえず今はこの美しくも可愛らしいステラの婚約者という位置で満足しようと思った。

 最短で結婚式を挙げようと奮闘したが、色々な兼ね合いで結婚式は半年後となった。

 その半年間でステラはさらに磨きがかかるだろう。

 

「原石から見守るのも楽しいものだな」


 アルディの呟きを聞き逃さなかったステラは、即反応した。


「アルディ様、今度は何を競り落とすつもりですか?落札したらきちんと保管しないとだめですよ。手もとに来たことで満足していたらその品物が可愛そうです。もしアルディ様が落札しなかったら、誰かの宝物として大切にされていたかもしれないんですからね」


 ステラからの説教は落札品についてのことだったが、ステラのことだと置き換えても通じる話にアルディは頷く。

 

「そうだな。縁あって我が家へ来たのだから、大切に大切にしなくてはいけないな」

「そうですよ」


 これだけ言えば、オークションでも落札する前に少しは考えてくれるだろう。そう考えたステラだったが、自分が見当違いの心配をしていたのだとすぐに気がついた。

 この日以降、隙あらばステラのそばに居て愛の言葉を惜しみなく伝えるようになったアルディに、恥ずかしいから節度をもってほしいと伝えると、『宝物は大切にしなくてはいけないと言ったのはステラのはずだが』と言われたためで、勘違いとはいえ確かに口にした記憶があるステラは、いつまで経っても慣れない愛の囁きに頬を染め、それを見たアルディからさらに愛されるという日々を送るようになった。



 

 とある社交の場でアルディ・シリュウム公爵の婚約者がステラだと気がついたコンドレイ伯爵夫妻は、恥も外聞もなく金銭的援助を求めてきたが、ステラは除籍されていたとアルディに一蹴され、渋々ではあるが引き下がっていった。

 ただ、領地の経営はアルディが管理人を手配してくれ、あっという間に黒字化したことに驚いたコンドレイ伯爵が管理人に頭を下げて教えを請い、数年後には伯爵だけの力で黒字化させることに成功した。


 

 ステラがコンドレイ伯爵家でひどい扱いをされていたが、困窮している伯爵家を救いたいとステラがアルディに頼んだことでシリュウム公爵家がコンドレイ伯爵家を助けたと噂が広がり、ステラの評価が上がったと聞いた老医師は、誰が流した噂かすぐに気がついたが、ステラが大切にされているならそれで良い、と深く追求せず、ただステラの幸せのみを祈った。



『愛妻家の公爵と外見も心も美しい公爵夫人』


 二人の逸話は多少解釈の違いはあれど、時には笑い話も交えて噂は広がり、社交界では憧れの二人と言われ続けたが、そんな噂など知ることなくステラはずっとアルディの落札癖に目を光らせる毎日を送っている。

 そしてアルディは、落札をほんのりでも匂わせることでステラが自分を見てくれることに気が付き、年に数回ふわっと匂わせていたが、実際に落札に至るのは年に一度あるかないかで、公爵家の宝物庫が膨れ上がることはなかった。








最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

山も谷もない、そしてオチもない話でした。

すみません。



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