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病が見つかる

こんにちは

この話は、単なるフンワリとした恋愛モノです。



 ステラ・コンドレイは、コンドレイ伯爵家の三女である。

 コンドレイ伯爵家は、その昔は飛ぶ鳥も落とす勢いの貴族だったが、曽祖父の代から少しずつ勢いは落ち始めた。しかし代々散財を繰り返してきた生活は止めることができなかったようで、ステラの父が伯爵となった頃には没落と言ってもいいほどの暮らしぶりだった。

 それなのに父は無駄に見てくれが良い男だったため、メイドと関係を持ち子を作ってしまう。

 その子がステラ。

 当然伯爵夫人からは母子揃って追い出されたが、ステラの母が若くして病死をすると、寝覚めが悪いと言う伯爵により伯爵邸に連れ戻され、一応伯爵令嬢として籍は作ってもらった。

 しかし、もとより生活が苦しい伯爵家。

 庶子を迎え入れる余裕は当然なく、ステラは無給のメイドとしての生活が始まった。

 とはいえステラにしてみれば、その日のパンにありつけるだけでもありがたい。

 文句など言うこともなく毎日せっせと働いた。

 ちなみに姉二人は王城で侍女として働いている。


 伯爵と夫人は、無給のメイドを手に入れたことから一人のメイドを解雇した。

 使用人の給料は他家と同額程度を支払っていたため、コンドレイ家にとっては一人分の給料が浮いただけでも助かる。しかしステラを連れてきたのはそのためだけではなかった。

 伯爵譲りの美しさを持つステラを、羽振りの良い大商人に縁付かせようと考えていた。

 そしてステラの結婚相手から援助をしてもらおう、と。

 

 ステラが十六歳になったある日のこと。

 いつものように早起きし、朝食の準備のためにキッチンへと向かった。

 マッシュポテトを作るためにじゃがいもを水洗いする。

 ふと見ると、ステラの左手首に何やら打ちつけたようなアザがある。

 何だろうと触ってみても痛みはない。

 きっとどこかでぶつけたのが治りかけたのだろう。

 そう思ってすぐに仕事に没頭した。

 それから一週間経ったある日、やはり同じところに同じアザがあることに気がつき、なんだか気持ち悪いな、と思ったステラは昼食後、近所の医師を訪ねることにした。

 この医師はステラの境遇に同情し、体調不良があったら無償で診てあげると言ってくれた老医師だ。

 老医師は晴れた日の昼食後、必ず近くの公園のベンチでぼうっと休憩していた。

 ステラはそれを知っていたため、公園へと向かう。

 やはりというか、老医師はベンチに座りぼうっと花を見ていた。

 

「先生!」

「ん?おお、ステラちゃんか。どうした?どこか具合が悪いか?」


 パタパタと駆け寄るステラに目を細めた老医師は、しかしすぐステラの異変に気がついた。


「ステラちゃん、痩せたか?」


 元々細身のステラだったが、老医師から見るとさらに少し頬が痩けたように感じられた。

 

「え?そうかな?ちゃんと食べているけど」


 町中で母と暮らしていた時より、たとえそれが野菜や肉の切れ端といえど食べることができている。

 料理人が、『子供は食べなさい』と気を使ってくれているおかげだ。

 

 老医師はステラをじっと見て、昼休憩中に診察しようと立ち上がった。

 ステラも老医師に並んで歩き、時間が勿体ないと手首のアザについて話した。

 老医師はステラの手を取り、歩きながらアザの確認をする。

 先程までの柔らかな笑みなど消え失せ、移動中とはいえきちんと診察を始めたようだ。

 程なく診療所に着いた二人は、裏口から建物へと入った。

 診察室に入るなり老医師はステラの脈を測ったり、魔力の流れ等の確認を始める。

 そして一通り終えて伝えた言葉は、ステラの余命宣告だった。


「ステラちゃん。君は今『ローズリーフ病』に罹っている。これは血管の壁に魔力がこびりついてしまう病気だ。一箇所にこびりつくのではなく、あちこちの血管にこびりつくが、血管にこびりついた魔力は血液の流れを阻害し、そのうち壊死がおこる。ステラちゃんの場合、この手首が一番酷いようだ。私の診立てではあと······もって一年」


 ステラは、老医師の言葉が信じられなかった。

 母は他界してしまったが、やっと食べ物に困らない生活を送りはじめた矢先の出来事。

 なぜあと一年しか生きられないのか。

 いつも元気なステラも、この時ばかりは目を見開いたまま言葉もなかった。

 きっと手首より先が壊死してしまうのだろう。

 それならば今切除はできないのか、と老医師に問いても、外見に現れているのは手首でも、体の他の箇所にも魔力はこびりついているだろうから、ここだけ切除しても無駄だと肩を落とした。

 ならばこのまま死を待つのか、とステラが俯くと、暫く考えていた老医師が、あっと何かを思い出したようで本棚から分厚いファイルを取り出した。

 ペラペラと捲り何かを探していた老医師は、目的の物を見つけるとさぁっと読み進めた後、顔を上げてため息をつく。

 老医師はそのまま暫く考え込んでいたが、ステラは声を挟むこと無くじっと静かに待っていた。

 やがて老医師は何かを決断したように、ステラの顔をしっかりと見て言葉を発する。


「ステラちゃん。この病は随分と昔の王女も罹ったことがあり、その時はこの国にいた聖女様が治したと記録がある。そしてその聖女様は今後も同じ病の者が出てきた時のために、ネックレスに聖女様の魔法を埋め込んだ聖物をお作りになり、それを王女様へとお渡しになった。その後、このネックレスによりローズリーフ病を克服した患者は数人おって、一番最近だと先代のシリュウム公爵夫人が使用し、快癒したとある。ただ、それから四年経っているが、王家に返却されたとの記録が無いことから、今もシリュウム公爵家にあるのではないかと思うのだが······」


 老医師はそこで一度口を閉ざし、何やら言葉を探していた。

 何か言い辛い秘密でもあるのか、とステラは続く老医師の言葉を待ったが、老医師の口から出てきた言葉は少し意外なものだった。


「先代のシリュウム公爵のいた頃はともかく、今の公爵に代替わりしてからの公爵邸は、なかなか散らかっているという噂でな。その······汚屋敷と噂されていて······」

 

 老医師が言うには、若くして爵位を継いだアルディ・シリュウム公爵は魔力が高く、魔法師として城仕えしているそうだ。

 幼少時より魔法に対する造詣が深く、骨董商から魔法に関連する物や聖物等を買い取り、またオークションにもよく顔を出し手当たり次第に買い付けるそうで、それらの品物はどんどん公爵邸に納品されていった。

 しかし残念なことにこアルディ・シリュウム公爵という人は集めることで満足してしまい、納品された品物は部屋に積み重ねられて終わりだとのことだった。

 当然分類分けなどされることもなく山積みとなっていく品物によって、どんどん空き部屋は無くなっていく。

 とうとうアルディ・シリュウム公爵の母である先代公爵夫人はタウンハウスを出て、今は領地で悠々自適生活をしているらしい。

 

「さすがに借り物のネックレスを乱雑に扱ってはいないと思うが、未だに返却されていないのなら返す気が無いのか、それらの品物と混ざって紛失したかのどちらかではないかと」


 さすがにぼうっとしているステラでも理解できた。

 アルディ・シリュウム公爵が聖物を借りパクしたのだということを。

 きっと老医師が言葉を探していたのは、単なる町医者が公爵の醜聞を話して良いものか迷っていたからだろう。

 真っ直ぐな性分のステラは、そんなに大切なものを借りパクした公爵が悪いと憤り、しかし老医師には他言はしないから安心するようにと優しく伝えた。

 老医師は安心したように表情を緩め、『ステラちゃんは貴族だから、このネックレスを借りることは可能かもしれない。王家へ貸してもらえるよう手紙を書いてあげるから暫く待ちなさい』と頭を撫でてくれた。

 

 それから二人は、伯爵にも伝えるべく伯爵邸へと向かい、老医師は伯爵と伯爵夫人にステラの病について説明した。

 ローズリーフ病という病名は聞いたことがあったらしい伯爵は、顔を歪める。

 美人だからこれから使いものになると思っていたステラが、もって一年の命。今から婚約を結んで最短で結婚させても、すぐに儚くなってしまうことから、婚姻相手から騙されたと損害賠償を求められる可能性すらある。

 この先、ステラを伯爵邸に留め置いても、そのうちメイドの仕事すらままならなくなり療養生活を始めるのかと思うと、伯爵も伯爵夫人もステラにかけるお金が勿体ないと思ってしまった。

 伯爵はそれでも今は老医師が眼の前にいることで外面を気にし、言葉を選びながらステラを気遣うふりをした。


「そんなに大変な病だとは気が付かず悪いことをした。しかし、ここではお前が療養できるほどの余裕がない。どうしたものか。ああ、そうだ。医師殿がそばにいてくれたら心強い。ステラは医師殿の家に住み込んでみてはどうか」


 体の良い厄介払いだとはっきり分かったが、老医師はステラがかわいそうだと胸を痛め、すぐに連れて行くことにした。


 ステラの持ち物はほとんどない。

 着ている服も、メイド服で夏用冬用の二着だけだし、私服もワンピースが二着だけ。

 伯爵令嬢となってから新しく宝飾品も服も買い与えられたことはなく、荷造りはものの五分で終わった。


 ステラは良くしてくれた料理人とメイド達に出ていく旨と礼を言い、深く頭を下げて伯爵邸をあとにした。

 病のことは告げなかったため、料理人や一緒に仕事をしたメイド達は寂しがりながらも幸せになりなさい、と送り出してくれ、ステラはほんの少し寂しく思った。


 老医師の家は診療所の二階にあり、老医師は既に独り立ちしている息子の部屋を簡単に片付け、ステラの部屋にしてくれた。

 ベッドは古いながらも良い設えで、布団もフカフカだった。

 それだけでもステラにとっては幸せに感じ、老医師が王家へ出した手紙の返事が来るまでも、まるでお姫様になったようだと夢心地で過ごした。

 

 王家からの返事は一週間後に届き、シリュウム公爵家からは返却が未だされていないので、そちらから直に借り受けるように、とのことだった。

 その内容を確認した老医師は、すぐにシリュウム公爵家へ手紙を書き、貸していただきたいと依頼する。


 ステラは老医師のために食事を作り、掃除をし、診療に訪れる患者達が気持ちよく診察を受けられるようにと気を配って毎日を送っていた。

 しかし、シリュウム公爵家からは一週間経っても返事が来なかった。




 

次話はすぐに投稿します。

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