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男の人ってみんなそうだよね

 夏休みを控えたある日の放課後。

 帰ろうとしていたら担任から呼び止められ、古いプリントをゴミ捨て場へ運んで欲しいと言われた。

 卓球部の幽霊部員という、実質帰宅部のような自分に断る権利があるはずもなく。


「暑い……」


 大量にプリントが入った紙袋を両手に持ち裏口を出た途端、夏の蒸し暑さに襲われる。

 幸い校舎裏は日陰が多いので、日差しを避けながらゴミ捨て場へ向かうと。


「うわ……」


 ゴミ捨て場の奥の方に、男子生徒の後ろ姿とその向こう側に女子生徒らしき姿が見えた。


 なんだか居合わせるとすごく気まずそうな場面の予感。

 というか、ゴミ捨て場の奥で密会ってどうなの。


 僕は男女の方をなるべく見ないようにし、ゴミ捨て場にゴミを置いて、さっさとその場を立ち去ろうとしたその時。


「辻川くん!」


 ん!?

 通りすがりのゴミ捨て担当に呼びかける声は、聞き覚えがあった。

 振り返ると、密会していた女子生徒がこちらを見ている。しかもそれは戸波さんだった。


「ごめんなさい、私もう行かないと」

「ちょっ、まだ話は終わってな――」


 戸波さんは密会していた男子生徒にそう告げると、駆け足で僕の方へ寄ってきて、早く行こうと促してくる。

 言われるがまま、僕と彼女は校舎内へ入り、早足で裏口から離れた表玄関辺りまでやってきた。

 そこでようやく立ち止まり、後ろからさっきの男子生徒が追ってこないのを確認した。


「助かったよ。ありがと」


 一息ついてほっとした表情を見せる戸波さん。

 急に巻き込まれた僕は、とりあえず事情を尋ねてみる。


「さっきのって、もしかして」

「ん、まあ簡単に言えば、告白されたってこと」

「やっぱり。校舎裏で告白ってマンガでは見たことあるけど、本当にあるんだ」

「そうだね。私も校舎裏では初めてかも」


 “()()()()()初めて”という言葉からただよう恋愛強者感。


「断ってたんだけど、なかなか諦めてくれなくて。ちょうど君が来てよかった」

「そっか、役に立ったなら何より」


 戸波さんは、じゃあね、と言って、立ち去っていった。

 英語を教えている時より彼女に感謝された気がして、なんだか嬉しい。



 ***



 その夜、戸波さんからメッセージアプリにメッセージが届いた。

 いつも通り、英語の分からない部分の質問かと思いきや。


『ねぇ、好きになるってどういうこと?』

『はい?』

『さっき告白してきた先輩、たぶん一回くらいしか話したことないんだ。だから何で私のこと好きなのかって聞いてみたの』

『うん、それで?』

『そしたら、スタイル良いし、颯爽としてて綺麗だから、って』

『なるほど……一目惚れ的なやつ?』

『でもさ、それじゃ私がスタイル悪くなって、颯爽としてなくて綺麗じゃなくなったら、好きじゃなくなるってことでしょ?』

『それは……』


 なかなか答えにくい質問をぶつけてくる戸波さん。

 少し返答にきゅうした後、なんとか文章をひねりだした。


『仮に最初に好きになった理由が、綺麗だからとか外見のことだったとしても、相手と付き合っていく中で他の部分を好きになっていくと思うよ。相手のことをもっと知りたいから付き合いたいんだと思うし』


 なんでさっきの先輩をフォローしているのか分からないが、先輩の告白にもっともらしい理由を付けるとしたらこうだろう。


『そう言われるとそうかもだけど……』


 メッセージ上でも完全には納得がいっていないという雰囲気が伝わってくる。

 そこで、個人的に思った意見を率直に述べてみる。


『まあでも、実際はワンチャン付き合えればいいや、くらいのノリで告ったのかもね。知らないけど』

『それ! 私もそんな気がするんだ。男の人ってみんなそうだよね』

『その言い方だと僕にも流れ弾が当たるんだけど 笑 みんなってことはないんじゃ?』

『でも、そういう人が多いでしょ?』

『……きっと純愛も結構あると思うよ』

『純愛って 笑』


 笑われてしまった。そんなに変だろうか。

 もしかすると、彼女に告白してきた男達は、一発勝負に出て散っていった者がほとんどだったのかもしれない。

 ほとんど面識がない男達から告白され続ければ、彼女がそのように思うのも無理もないとは思う。


 ここで僕がどう取り繕っても、彼女の言い分を覆せる気がしない。男側の敗北です。


『っていうか、戸波さんって面白いよね』

『急に何?』

『最初に見たときは、“気軽に話しかけないで”っていうオーラが出てる気がしたから、初めて話すときは緊張したんだ。でも、話してみると結構ギャップがあるっていうか、楽しいから』

『ふぅん。にしても、私のイメージ悪くない?』

『そこは普通にごめん……』


 メッセージアプリ上で、初めて英語以外のことを話せた日。遠い存在だったクールビューティーを少し身近に感じるようになった。



 ***



 そして夏休みが始まった。

 戸波さんと会うことはなかったが、メッセージのやりとりはよく行っていた。


 しかも多少変わったことがある。

 以前は英語の質問ばかりだったが、時間的余裕もあるせいか最近は彼女が読んだ本の感想などをくれるようになった。


『最近、読んでる本があるんだけど、結構おもしろい』

『そうなんだ、話題になってる村下夏樹とか?』

『ううん、脳と記憶の関係について』

『おお、なかなか斬新だね……』


 他にも、『ブラックホールの仕組み』とか『四次元の世界』とか、ちょっと珍しいラインナップ。

 こういうところも彼女と話していて面白いところである。



 ***



 夏休みが終わって、また学校が始まった。

 久しぶりに登校し、クラスメイトとあいさつを交わす。

 一条がやってきて、夏休みの出来事を語り合っている最中。


「あ、戸波さん。おはよ!」


 戸波さんが教室に入ってきて、女子生徒達からあいさつを受ける。

 彼女はそれに応じながら、自分の席へ向かう。途中で僕の近くを通りすぎようというところ。


「おはよう」

「お、おはよう」


 淡々とした口調だったが、確かに彼女の美しい瞳は僕をとらえ、あいさつをしてくれた。全く予想していなかったので、返事で少しうろたえてしまったが。

 それを見ていた一条が目を丸くする。


「え、今、戸波さんがあいさつしてくれた……よな? お前に」

「ん、まあそうかな?」

「何で!? 初めてじゃね!?」

「まあ、OCの授業で一緒だし」

「ホントにそれだけか!? てか、夏休み中はOCないじゃん! 何で急に……意味分からん……」


 せないといった表情を浮かべる一条。

 なんとなく教室内もざわついている気がする。

 やはり、このクラスで戸波さんとスマホでやり取りしていることは言わない方がよさそうだ。バレたら怨嗟えんさの念の集中砲火を浴びるかもしれない……


 そのような警戒もあり、クラス内などの目立つ場所では、戸波さんとのやり取りをなるべくあいさつ程度で済ませようという自己防衛本能が働いた。

 彼女の方も、変な噂がたつのは避けたいのか、人目の多いところでは積極的に接触してこなかった。


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