彼のポーカーフェイスは『ポッカーん・フェイス』
『苦み走った』とはどういう感じをいうのだろう?
よく知らないが、雅紀の顔を見ていると、その言葉が浮かぶ。
17歳とは思えないほど大人っぽくて、苦いブラックコーヒーがよく似合いそう。
眉間にはいつも皺ができていて、どんな難しい殺人事件でも解決してしまいそうな探偵のごとき頼り甲斐を感じてしまう。
マ○ドのこぢんまりした席に向かい合って座るあたし達を、他人はどんなふうに見ているだろう?
恋人みたいに見えてるだろうか?
それはきっとないよね。
だって傍目には、あたしはどこにでもいるような地味な黒縁メガネのjkで、彼はまるで探偵小説から抜け出てきたようなイケメン。きっと、文化祭で披露する演劇の打ち合わせでもしてるようにしか見えないに違いない。実際、その通りである。
「犯人がコイツってのは、ちょっと意外性がなさすぎないか?」
雅紀が格好いい表情で言った。
「いや、べつにおまえの脚本にケチつけるつもりはない。ただ、ここが肝心なところだろ? 直せないか?」
「うん。あたしもそんな気がしてた。正直に指摘してくれてありがとう。もう少し練ってみるね」
あたしがそう答えると、彼はばつが悪そうに鼻の頭を掻いた。そして、すまなそうに言う。
「尊子の創作の才能、俺、高く評価してるんだ。だから、もっといいものが書けるはずって、思って、さ。だから、頑張ってほしいんだ」
「ふふっ」
あたしは余裕の笑顔で言ってあげた。
「雅紀が高く評価してるのって、あたしの才能だけ? 違うよね?」
「はっ……? はあっ!? 何のことだよ?」
しらばっくれる彼に、あたしはとどめを入れた。
「あたしたち、幼稚園の頃からの付き合いだよね? ずーっと雅紀があたしのことだけ見てたの、気づいてたよ?」
「ばっ……、ばっかじゃねーの!? おまえ、自惚れんのも……」
ここだっ! ここであの一言を言えば、格好いい狼みたいなその顔が、あの表情に変わる! 見たいっ!
心ではワクワクしながら、顔は無表情に、あたしはそれを口にした。
「あたしのこと好きなんだよね?」
彼の魂が、抜けた。
口を開いて、どこを見てるのかわからない目をして、イケメン顔が一転、アホのようにポッカーん……。
かわいい♡
こんなポーカーフェイスするの、世界広しといえど雅紀だけだ。
あたしは心ではドキドキしながら、愛しさにキュンキュン飛び回りそうになりながら、クールを装い、からかう口調で言った。
「冗談よ。あたしたちただの幼馴染みだもんね♡」