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ヤンキー転移する

この国では古い時代、人食による弔いの風習があった。


敬愛、尊敬、愛情、馴染み、渇望、親近、などなど、そういった生前に『好意』を持っていた相手。その人の一部を取り込むことで自分の一部とし、その人を忘れずに、永遠の時間を一緒に生きて行く。そういった思いでの行為だ。


ところがいつからか、愛しさのあまりに『コ●して』『食す』という行為になってしまったのだ。

それがあまりにも自然にシフトチェンジしてしまったがゆえに、恋人を、親を、我が子をと広がっていってしまったのだ。


結果、国中に蔓延し、1度国は滅びかけたのだ。


異常事態にやっと国は禁止令を出し、なんとか回復したものの、すっかり習慣に近いレベルで浸透してしまったそれを全く無くしてしまいたくなかった人々がなんとか残そうとした結果、『コ●シて』『食べたい』の意味を込めて


『ブッコ●ス』


という言葉に思いを込めて愛する人に伝える習慣へとなっていった。最上級の愛情表現へと。


これは、そんな国に転移してきた1人のヤンキー少年の物語である。








俺の名前は豪血寺玲音。

15歳。高一。身長185cm。

高校はほとんど行ってない。

顔を忘れるレベルでしか会わない母親が一人と、指の数より多い自称父親たち、子供の頃に引き取ってくれた婆ちゃんと、爺ちゃんの形見の特攻服長ラン。それが俺の全て。

それ以外は全部敵。

見るもの触れるもの、全てに腕力でモノ言わせてきた。


そんな俺が今、どうしてこうなったのか。

信じられるだろうか。

まるで映画のセットなのか?

煉瓦造りの家。木でできた、簡単な作りの屋台のような店。そこで売られている食材。カラフルな色の髪の毛を生やした、少なくとも日本人じゃなさそうな外見の人間。服も雑な作りだ。まるで、海外の昔の世界にでも来てしまったかのようだ。


(ヤベェ……。)

ろくに学校行ってなかったからか、語彙力足りなくて今の状況が言葉に出来ねぇ。ワケわかんねぇ。


こんな時キョドキョドすると、よく婆ちゃんに『男ならキョドルんじゃないよ!いつでもドーンとしてな!伝説の番長だった爺さんのようにさ!』なんてよく怒られたものだ。その爺さんは、俺が生まれる前に死んじまったから、俺は会った事すらねぇのにな。


だが……。

動揺すまいとする俺とは裏腹に、ガヤガヤと通りすがりのヤツらが近寄ってくる。

「なんだニイチャン、この辺じゃ見かけないな?」

「やだ、イケメン」

「にーちゃん、背デカー!!!」

と、アレよアレよと囲まれた。

俺はみせものじゃねぇし、冷静さを保とうと努力してるっつーのに

「その服珍しい!どうなってんの?」

とじいちゃんの長ランに触れようとしたやつがいて、

「あぁ?何触ろうとしてんだコラ。ブッコロスぞ!!」

と、プツンと切れてしまった。


その途端、さっきまでのガヤガヤしていた空気が一変した。

いいね、この空気。喧嘩上等よろしく!

俺はファイティングポーズをとって1歩後ろに跳ねた。

が。目が点になっていたさっきの男は殴りかかってくるどころか、顔を真っ赤にしてその場にへたり込んだのだ。

待て。俺はまだ何もしちゃいねぇ!と思ったのも束の間

「なんだにいちゃん、こんなところで愛の……。」

「あぁ!?俺が何したってんだ!ブッコロスぞ!」

俺はさっきより凄んで叫んだ。それなのに、ブワッと背中から赤い薔薇を吹き出したかのような表情で座り込む男。

なんなんだコイツら!?ナメてんのか?

だが、この変な態度はこの男らだけじゃなかった。


俺は精一杯のボキャブラを駆使して喧嘩を売りまくった。

「あぁ?やんのかコラ!ぶっ殺すぞ!」

「ドキン☆」

腰の曲がったバーさんにでも

「ジロジロ見てんじゃねぇババア!ぶっ殺されてぇか?!?」

「はぁん、ワシもまだまだ現役かの♡」

と、喧嘩どころか周りじゅうへたりこんだ。

なんだこの状況!?訳分からん。

てかキモい!キモいを越えてもう怖い!!

みんな病気持ちか何かなのか!!???

半分パニック状態で、男女見境なしに喧嘩を売り続けた。が若い女たちは全員腰砕けで、人だかりの山はみるみる低くなっていく。中には鼻血を倒して倒れるヤツまでいる。

俺、まだ1発も殴ってねぇぞ!?なんなんだコイツらのこの反応!!???


近くに集まってきた奴らがほぼほぼへたりこんで、もう俺の周りに集まってきたヤツらはいなくなった。

その時、なにか熱い視線を感じて振り向いた。


そこに居たのは、落ち着いた雰囲気の、メガネをかけたインテリっぽい雰囲気の女だった。

「なんだ、ねぇちゃんアンタもなんか文句……」「……っ!(ビクッ)」

声をかけた途端、その女はギュッと目をつぶって身構えた。

「……」

「……」

触れてくるでもない、なにか言ってくるでもない。大人しそうなその女は、身構えたまま動かない。

後ろでひとつにまとめた緑の髪。優しそうな顔。服の上からでもわかるほっそりとした腕と足。でも、たっぷんとした胸……

「……」

「……?」

なんだコレ。胸がドキドキしやがる。

俺はその女を、じーっと観察するかのように

見続けた。

と、その女がそっと目を開けるから、目があっちまった。むしろ見つめ合っちまった。

ドキドキする胸は、より速くドキドキしてきた。

この女は殴れねぇ。殴れなきゃ喧嘩は売れない。喧嘩なんか出来ねぇ。

「アンタからは敵意を感じねぇ」

「は?」

女から、すっとんきょうな声がでた。

「ちっ」

ちょっとその女を見てると、なんだか恥ずかしくて、くるりと背を向け立ち去ろうとした。


その時。

遠くから、これまたゲームの中で見たような格好の兵士が何人かかけてきた。

「こらー!通報のあった騒ぎの男はお前かーー!」

「……あぁ?」

「問答無用!ちょっと詰所まで来てもらおうか!」

と、あっという間に取り押さえられ、おれは引きずられるように連れていかれた。

引きづられながらも、さっきの女をちらっと見た。あの女は、慌てて兵士になにか訴えているようだったが……。

(また会えたらいいな……)

っとふと心に浮かんだ思いにビックリして、全力で頭をブンブン振った。



てんやわんやして、何故か俺はちょび髭をはやした偉そうな中年おやじの前に引きづり出された。

兵士数人に囲まれて、後ろ手で縛られて、ひざまつかされてだ。こんな屈辱あるか?

ここまで俺を連れてきた男は、

『領主との、謁見である!』

って言っていた。

領主?謁見??

訳が分かってない俺を置いてけぼりにして、その偉そうなじーさんは口を開いた。


「そ、そなたが、街に急に現れ見境なく口説き倒すという行為を行ったのは本当か?」

「は?んなことはしてねぇよ。ぶっこもがっ」

両隣にいた兵士に取り押さえられ、口を塞がれ、床に頭を押し付けられた。何しやがると、藻掻くが多勢に無勢だ。

「は、話の通りではないか!なんと野蛮で恐ろしい…!」

「マーケットでは、多数の老若男女が被害にあっております!」

「そそ、そのような恐ろしい野蛮なもの、さっさと処刑してしまえ!」

「もがっ!」

俺は確かに札付きかもしれねぇ。だが、処刑だと!?

俺がいったいここで何をしたっつうんだ。まだ1発も殴ってねぇ!暴力行為なんてしてねぇよ!

それなのに、こんな扱いをされた上に殺されるのか、俺が?

元の世界でもそうだ。誰も俺を理解してくれようとするヤツなんていなかった。誰も、俺を見てくれようとはしなかった。

ちくしょう、大人しく殺されてたまるかよ!

と全力で抵抗するも、何人もの兵士に取り押さえられ、身動きすらとれない。

「隣国が怪しい動きをしていると言う噂も出てきたのに、そのような男を野放しになどしておけるものか!」

ソワソワと落ち着かない様子で領主と呼ばれた男は小物っぷりを発揮しながらまくし立てる。

「何をしている!はやく連れて行け!」

「「「はっ!」」」

とその時、扉がけたたましく開いた。

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