別れと始まり
えっ、なにこれ……。
学園に入学して一ヶ月が経とうとしていたある日、わたしは学園から帰り自室へと戻ると部屋の中が荒らされていた。
わたしの前を通る女の子達がヒソヒソと何かを話しながら笑っていた。
「あーら、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫だよ」
女の子が話しかけてきたので、わたしはそっちを向きニコッと笑いながら返事をした。
その女の子は心配しているかのような言葉とは全く違う表情をしていた。
「皆さん、手伝ってあげなくていいの?」
「大丈夫って言ってるんですから大丈夫なんでしょう。まあアイリック様と仲良くするのが悪いんですもの。神様からの罰ですわ」
そう言って笑いながらどこかへと行ってしまった。
わたしは部屋の中を綺麗にするために掃除を始めた。
アイリックと仲良くしているからってどういうこと。
仲良くすることがダメなの?
この日が始まりだった。
わたしがダメになっていく始まりの日。
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「ふう、疲れた。やっと食事の時間だ」
「クレア、久しぶりに一緒に食べましょう」
「うん、いいよ、レオミナ」
わたしが椅子へ座ると、真正面にレオミナが座ってくれた。
部屋をぐちゃぐちゃにされていたのは流石にキツかったけど、誰かと話すだけで心が楽になる。
レオミナと仲良く話していると、急に頭の上から水をかけられた。
「冷たっ」
「あら、ごめんなさい。手が滑ってしまって」
「貴女! 誰だか知らないけどきちんと謝りなさい」
わたしが動揺している中、レオミナが立ち上がり水をかけてきた女の子に対して怒った。
この女の子、さっきの……。
「何故男爵令嬢風情に二度も謝らないといけないの?」
「それはッーーー」
「レオミナ、いいの。わたしは大丈夫だから。それに謝ってくれたから」
「……クレアがそれでいいなら」
わたしが大丈夫と言ったことでレオミナも渋々だが納得してくれた。
「寒いでしょ? お風呂に行きましう、クレア」
「うん」
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「何かあったの?」
「ん? 何かって何が?」
お風呂でわたしの髪を洗ってくれているレオミナが尋ねてきた。
優しく洗ってくれていた手が止まって、少し経ってからまた洗いはじめてくれた。
「私は明日から一ヶ月程帰省するの。無理はしないでね」
「無理なんて、わたししたことないよ」
「……そうね、クレアは鈍感だから」
悲しそうに言うレオミナ。
声だけではその悲しさがどれほどのものなのか、わたしは感じ取ることができなかった。
「でも、レオミナと一ヶ月も会えないのは寂しいなぁ」
「そうね、私も寂しいわ」
なんかおかしいな。
いつものレオミナなら一ヶ月間くらい我慢しなさい、って言ってくると思ったんだけど。
わたしと会えないのが寂しいって言ってくれるのはほんのちょっとだけ嬉しいかな。
「レオミナがいない間はアイリックと一緒にいよーっと」
「気を付けなさいよ、アイリック様といるのは」
「えー、なんで? アイリックは弟みたいな感じだから、別に気を付ける必要なんてないよ」
「辛くなったら連絡してね」
そして翌日、レオミナは帰省した。