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恋唄

怪しい薬を飲んだら猫になってしまった僕は、片想いをしている種﨑さんの家で飼われることに!?

作者: 間咲正樹

「あ、あの、種﨑(たねざき)さん!」

「…………何」


 とある放課後。

 今日も勇気を出して、種﨑さんに話し掛ける。

 ああ、今日の種﨑さんも美しい……。

 艶のある長い黒髪に、氷のように冷たい切れ長の目。

 まるで童話に出てくる雪女みたいだ。


「よ、よかったら、一緒に帰らないかな? ……なんて」

「――! …………」

「あれ!?」


 無言で逃げるようにスタスタと、一人で教室から出て行ってしまう種﨑さん。

 そ、そんなああああ!!




「ハァ……」


 クソデカ溜め息を漏らしながら、トボトボと一人廊下を歩く。

 今日もダメだったか……。

 入学初日、同じクラスになった種﨑さんに一目惚れして以来、半年かけてあの手この手でアプローチしてきたけれど、ことごとくどれも不振に終わっている。

 もうそろそろ、潮時かもしれないな……。

 因みに『潮時』というのを、『やめるのに適した時期』という意味で使っている人も多いと思うが、本来は善し悪し問わず『ちょうどいい時期』という意味らしい。

 まあでも、ある意味今の僕には『ちょうどいい時期』だから、誤用ではないだろう。


「フッ、今日も青春しているな、花江(はなえ)

「え?」


 その時だった。

 科学準備室の前で、科学教師の峰岸(みねぎし)先生から声を掛けられた。

 峰岸先生は高身長でナイスバディなメガネ美女なのだが、何故かいつもパツパツのセーラー服を着ている、校内でも有名な変態教師だ。

 裏で怪しい薬を開発しているマッドサイエンティストなんて噂もあるし、できれば関わり合いたくない相手なのだが……。


「ぼ、僕に何か御用でしょうか?」

「フッ、いやなに、老婆心ながら、お前の悩みを解決してやろうと思ってな」

「――!」


 悩みを、解決……!?

 つまりそれって、僕の種﨑さんへの片想いを解決してくれるってことですか!?

 この気持ちは誰にも話したことはないのに、何で峰岸先生がそのことを知ってるんだ……?


「フッ、まあそんなに警戒するな。騙されたと思って、話くらいは聞いてみても損はないだろう?」

「は、はぁ」


 科学準備室の扉を開け、手招きで中に入るよう促してくる峰岸先生。

 ……まあ、確かに話を聞くくらいならいいか。

 ただでさえ、今の僕は絶体絶命のピンチなんだから。

 藁にも縋る思いで、科学準備室の扉をくぐった。




「早速だがこれを飲んでみろ」

「は?」


 峰岸先生はおっぷぁいの谷間から一粒の錠剤を取り出し、それを僕の手のひらに置いた。

 どこに仕舞ってんですかあなたは!?!?


「こ、これは……!?」

「この薬は私が開発した、その名も『ネコニナール改』!」

「ネコニナール改!?」


 何ですかその適当且つ胡散臭いネーミングは!?

 改ってことは、『ネコニナール』って薬もあったってことですか?


「それを飲めば、お前の悩みも一発で解決するぞ」

「……本当ですか?」


 そんな都合のいい話、ラノベの中でしか聞いたことないけど……。


「フッ、まあ、飲みたくないというなら、無理にとは言わんがな」

「――!」


 僕の手からネコニナール改を取ろうとする峰岸先生。


「ま、待ってください! 飲みます! 飲ませてください!」

「フッ、その心意気や良し! 心配するな、骨は私が拾ってやるからな」


 そんなにヤバい薬なんですか!?

 ――えーい、ままよ!

 どの道これが最後のチャンス!

 この恋を叶えるためだったら、毒だろうが何だろうが飲んでやるッ!


「んがぐぐ」


 僕は敢えて旧バージョンのサ○エさんの次回予告時の擬音を発しながら、ネコニナール改を一思いに飲み込んだ。

 ――すると。


「――ぐあっ!?」


 瞬時に全身が燃えるように熱くなった。

 身体中の細胞が悲鳴を上げているかのようだ。


「あ、あれ!?」


 次の瞬間、ワサワサと全身から毛が生えてきた。

 それに合わせて、どんどん身体が縮んでいく。

 これは……!?


「フッ、どうやら成功だな。さあ、これが今のお前の姿だ、花江」

「――!?」


 峰岸先生に鏡を向けられると――そこには一匹のキジトラ柄の猫が映っていた。

 えーーー!?!?!?




「にゃあっ!! にゃにゃあっ!!」


 慌てて抗議の声を上げるも、声帯も猫になっているので、「にゃあ」しか言えない。


「フッ、まあそう慌てるな。心配せずとも、数時間したら元に戻るようになっている」


 あ、そうなんですか?

 じゃあ、いっかな。

 ――とはならねーよッ!!!(ノリツッコミ)

 ……やっぱり峰岸先生がマッドサイエンティストという噂は本当だったんだ。

 今時ラノベの中ですら、猫に変身する薬なんて出てこないけどね!


「フッ、それよりもせっかく猫になったんだ。少しの間、外で猫の生活を満喫してきたらどうだ? 服は私が保管しておいてやるからな」

「にゃ?」


 峰岸先生は僕の服を畳みながら窓を開けた。

 うーん、確かにちょっと興味はあるけど、今の僕は実質全裸ってことですよね?(猫が全裸なのは当たり前だけど)

 でも、こんな機会二度とないだろうし、少しだけなら大丈夫か。


「にゃあっ!」

「フッ、達者でな」


 僕は科学準備室の窓から、外の世界へと飛び出した――。




「にゃああぁ!」


 うおおお、すっごーい!

 たーのしー!

 100メートル走の金メダリストを遥かに凌ぐスピードに、自分の身長の何倍もの高さを飛ぶジャンプ力ぅ。

 これが猫の世界――。

 何て新鮮なんだ。

 調子に乗って学校の外にも出てみたが、とりあえずこのまま町内を一周してみようかな。


「か、可愛いッ!!」

「にゃ?」


 その時だった。

 一人の通りすがりの女の子が、僕を見て黄色い悲鳴を上げた。

 こ、この声は――!?


「わあ、君、この辺じゃ見ない子だね? 野良なのかな?」


 それは他でもない、種﨑さんその人であった。

 いつもの教室での雪女のような冷たい雰囲気とは一転、デレデレに溶けただらしない顔をしている。

 えーーー!?!?!?


「ねえねえ、ちょっとだけ触ってもいい!? 触ってもいいよねッ!?」

「にゃ、にゃあ」


 ハアハアしながらにじり寄って来る種﨑さん。

 まさか種﨑さんにこんな一面があったとは……。


「はふぅぅううん! サラサラの柔らかい毛並みぃぃ!!」


 恍惚としたヤバい表情で僕を撫でてくる種﨑さん。

 あわわわわわ……!

 僕は今、あの種﨑さんから身体を撫でられているのか……!(しかも全裸)


「ああもう、可愛い可愛い可愛いよおおおお!!!」

「にゃあ!?」


 限界化した種﨑さんに、ギュッと抱きしめられる。

 ふおおおおおおおお!?!?!?

 た、種﨑さんの柔らかいおっぷぁいが、モロに当たっているうううううう!!!!


「ねえ君、野良なんだよね? ――だったらうちの子になりなよ!」

「……にゃ?」


 今、何と????




「さあ、今日からここが君の家だよ」

「にゃ、にゃあ」


 そのまま流れるような勢いで、種﨑さんの家に連れ込まれてしまった。

 こ、ここが種﨑さんの生まれ育った家……!

 メッチャイイ匂いがする……!

 ヤバい!

 今度は僕のほうが限界化しそうだ……!!


「君の名前を決めないとね。えーと、君は男の子なんだね」

「にゃあ!?」


 種﨑さんに股間を確認されてしまう。

 は、恥ずかしいいいいいい!!!!


「じゃあ――君の名前は『タツキ』で決定ね!」

「……にゃ?」


 それって僕の下の名前と一緒――!

 ま、まあ、ただの偶然だとは思うけど。


「今日からよろしくね、タツキ!」

「にゃ、にゃあ」


 うわあ、偶然とはいえ、種﨑さんに下の名前で呼ばれるとか、どんなご褒美だよおおお!!!


「さてと、じゃあまずは、一緒にお風呂に入りましょうねえ」

「……にゃ!?」


 今、何と!?!?!?




「わあ、水を怖がらないなんて、偉いねえ、タツキ」

「……にゃぁ」


 ――僕は今、好きな女の子と一緒にお風呂に入って、身体を洗われています。

 こんなご都合主義なシチュエーション、今時ラノベでもなかなか見ないよ????

 くぅ!

 今振り返れば、そこには全裸の種﨑さんが御座すのか……!

 メッチャ振り返りてえええええ!!!

 でもダメだ!

 男として、それだけはやってはいけない……!

 僕は鏡に映る種﨑さんの陶器のようなスベスベの肌から、必死に目を逸らした。

 ――その時だった。


「……ねえタツキ、実は私ね、同じクラスの花江くんていう男の子に、ずっと片想いしてるんだ」

「…………にゃ?」


 た、たたたたたた種﨑さん!?!?!?

 今、何とおおおおお!?!?!?!?!?


「でも花江くんの前だと緊張して、いつも素っ気ない態度を取っちゃって……」


 ――!!

 ……種﨑さん。


「今日もせっかく花江くんが一緒に帰ろうって誘ってくれて、本当は飛び跳ねるくらい嬉しかったのに、頭がパンクして逃げ出しちゃったし……」

「……にゃあ」


 そうだったのか……。


「もうこんなんじゃ、きっと花江くんに嫌われちゃってるよね? ……ハァ、そろそろこの気持ちも、諦めなくちゃいけないのかなぁ?」

「にゃ!?」


 そ、そんな!?

 そんなこと言わないでよ種﨑さん!!

 僕は、種﨑さんが――!


「――僕は、種﨑さんが――好きだッ!!」

「…………え?」


 あれ?

 今僕、声が……!?


「――ぐあっ!?」


 その時だった。

 瞬時に全身が燃えるように熱くなった。

 身体中の細胞が悲鳴を上げているかのようだ。

 こ、この感覚は――!?


「え? え?? え??? え????」


 困惑マックスの色を浮かべる種﨑さんをよそに、あっという間に人間の身体に戻った僕。

 ――お風呂場に付き合ってもいない全裸の男女が並ぶという、今時ラノベでもなかなかお目にかかれない、読者半笑いのシチュエーションが、そこにはあった。


「や、やあ、種﨑さん、よかったら明日は、一緒に帰らない?」

「…………ぴ、ぴぎゃあああああああああ!!!!!!」


 種﨑さんの魂の叫びが、お風呂場に響き渡った。



お読みいただきありがとうございました。

普段は本作と世界観が共通の、以下のラブコメを連載しております。

そちらに『ネコニナール改』の基になった『ネコニナール』が出てきますので、もしよろしければご高覧ください。⬇⬇(ページ下部のバナーから作品にとべます)

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― 新着の感想 ―
変身には、服の問題がつきまとうんですよね〜。 確かに全裸ですからねー。変身が解けたらそうなりますよねー。 いいオチでした。 また、つまらないものですが。毎日すみません。 全裸を強調してすみません。面…
[良い点] ひょー! この後がドキドキ! ( *´艸`)
[一言] 最後はなんだか警察呼ばれそうだけど、多分両想い確定したからヨシ! で、服はどうなるんですかね。
2022/09/03 08:26 退会済み
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