序 最高神官の転生の顛末 その3
王都から遠く離れた辺境の地。
大きくはないが清潔に保たれた家から、可愛いらしい産声があがった。
「生まれたよ!」
神官衣を着た中年の女性が扉を開けて、部屋の外で、今か今かと待ち構えていた男性を招き入れる。
部屋の中には、清潔な布で包まれた赤ちゃんを抱いた若い女性が、ベッドに体を起こし枕を背にあてて座っていた。すでに産後の手当ては済んでおり、神官のかけた癒やしの魔法で顔色も良い。
「女の子だよ。緑の髪とは珍しいねぇ」
母親の腕の中で、疲れて眠っている赤子の髪はたしかに緑色をしていた。春に萌え出ずる若葉の色というべきか。
「よく頑張ってくれた!ありがとう、ユーリア!」
泣きながら妻の手を握る夫。
「あなた、この子を抱いてあげてくださいな」
おっかなびっくり、我が子を抱く新しい父親に、こちらも新たに母親となった妻が笑みを含んだ声をかける。
「それで、この子の名前は考えてくれましたか?」
夫は、生まれたばかりの人の軽さに驚き、同時に暖かさと、その存在の重さを感じながらも答えた。
「この国の英雄の名前をもらって、男の子ならリニウス。女の子ならマイアにしようと思っていたんだ。
だから、この子の名前はマイアだ!」
「あらあら、最高神官様の名前をいただくなんて、名前負けしなきゃいいけどねぇ」
産婆としてこの場にいた女神官が、苦笑気味に言うと。
「何を言うんですか!こんなに可愛いくてキレイで美人で可愛い子が名前負けなんてするわけがないでしょう!
そうだよなー、マイア?」
生まれたばかりでキレイもなにもないものだが、すでに親バカの片鱗を見せ始める父親に、呆れ気味ではあるが暖かい目を向ける神官。
「マイア。ええ、いい名前ですね、あなた。聖女様のように優しく、健やかに育ってくれますように」
言って、目を閉じ聖印を切る母親。
こうして、最高神官にして、大戦を終わらせた英雄の一人、最後には地母神を降臨せしめた聖女は、新たな生を得たのだった。
神格召喚の魔法は、某TRPGの魔法からいただきました。
転生や神さまの召喚がルールとして設定されているなんて、使うしかないですよね。
ただ、この後の展開がまったく思いつかず、長いことお蔵入りにしてました。
何か思いついたら、続きを書くかもしれませんが、どっちにしろ、角うさぎを終わらせた後ですね。