スクランブル交差点の怪
スクランブル交差点に異形の存在が現れると聞いたので、友達から見に行ってみようと誘われた。
あまり気ノリはしないのだが……彼女の誘いを断れなかった。
たった一人の友達なので。
早速、出向いたスクランブル交差点。
他の人と一緒に並んで、信号が切り替わるのを待つ。
「いるよー! ほら、いるいる!」
彼女がはす向かいの歩道を指さす。
明らかに普通ではない存在が一人。
身長は軽く2mを越え、赤いマントを羽織り、顔にはペスト医師の仮面。
「あれ……明らかにアレなやつだよねぇ」
私の腕に絡みついた彼女が言う。
暑いから引っ付かないでくれるかな。
そうこうしているうちに信号が切り替わる。
一斉に歩き出す人々。
私たちも足並みを揃えて前へ。
目指すは異形の存在がいる方角。
向こうもこちらの方へ歩いてくる。
あと数メートルの所まで近づいて来た。
お願いだから何も起きないでと、今更ながらに思う。
そして、すれ違っ――
「お嬢さん、落とし物ですよ」
「ひゃぃっ⁉」
後ろから服を引っ張られて変な声を出してしまう。
振り返ると小柄なおばあさんが立っていた。
「これ……もう落とさないでね」
「え? ちょ、待って」
おばあさんは無理やり小さなものを私の手に握らせてきた。
そのまま人ごみの中へと消えて行く。
「ねぇ! 信号変わっちゃうよぉー!」
私を置いて先に道路を渡り切った彼女が歩道で手を振っている。
急いで信号が切り替わる前に彼女の元へ。
「ねぇ……急にどうしたの?」
「えっと、なんかおばあさんに変なものを渡されて……」
「変なもの?」
「うん……これ……え?」
それの正体に目を疑う。
幼いころに無くした子供用の財布だった。
中には小さなキャラクターの人形が入っている。
片時も離さずに持ち歩いていた、お気に入りのもの。
間違いなく、これは私の財布だ。
「それ、なんなの?」
「昔使ってた財布だよ。
ずっと前に子供の頃になくしたの。
でも、どうしてあのおばあさんが……」
「いろんな人が行き交う場所だから、
不思議なことも起こるのかもね」
彼女はそう言ってウィンクする。
あのおばあさんは何者なのか。
どうして昔無くした財布を渡してきたのか。
私には分からない。
「そう言えば、さっきの変な格好をした人は?」
「道路の向こうで警察の人に職務質問されてるよー」
「…………」
奇妙な存在が、奇妙な格好をしているとは限らない。
彼らは普段ありふれた姿で過ごしているのかもしれない。
私たちに気づかれないために――