〜 フランス・ノルマンディーの休日 ⑥ 〜
〜 フランス・ノルマンディーの休日 ⑥ 〜
ロアールの古城観光の帰りに通行止めに遭って帰れなくなってしまた僕とメリッサは途方にくれる……
「道路が陥没したみたいだよ」
「当面の間は通行止めだって」
「これだと今日、帰るのは無理かな」
僕は携帯電話を見ながら呟くように言うとメリッサは諦めたようにため息を吐く。
「そうね、迂回路も詰まっているみたいだし……」
「ル・マンを経由しても帰れなくはないけど……」
「今日、帰るのは諦めた方が得策みたい……」
メリッサは既に混雑している迂回路の方を見て呟く。
「それじゃとりあえず、オーベルジュのオーナーに連絡するね」
僕は携帯電話でオーベルジュのオーナーに連絡する。
それから近くに泊まれる宿を携帯電話で検索するのだが全て満室である。
足止めに遭った連中が宿を急いでとっているからである。
「仕方がないわね」
「とりあえず、ル・マン方面に向かいましょう」
「それにあの街は宿泊施設が多いからなんとかなるわ」
メリッサはそう言うと路肩の空き地に車を入れると向変換して反対車線に入る。
車を走らせながら僕はホテルを必死で検索しなんとか部屋を1つ確保する事が出来た。
皮肉にも通行止めで来れなくなった人がキャンセルしたからであった。
ホテルの空き部屋対策なので素泊まり25%割引きの格安で宿泊出来るのがせめてもの救いである。
トゥールからル・マンまで車で1時間30分くらいの距離だが既に迂回した車で渋滞が始まっており2時間以上かかってしまった。
僕達の泊まるホテルはル・マンの街の中心部にある。
ナビゲーションを頼りにホテルを探す。
「ここ見たい……ね……」
メリッサは目の前の石造りの豪勢なホテルを見て茫然と呟く。
「このホテルって確か四つ星ホテルよ……」
「かなり、お高いんじゃ……」
メリッサは恐ろしそうに言う、宿泊費を考えての事だろう。
このホテルの部屋だけがどうして空いていたのか……
今更ながら、何となく理解する僕であった。
「たっ、確か25%OFFだったから……」
「そっ、そんなにはお高くはないんじゃ……」
僕は声を引き攣らせながら答える。
焦っていた僕は宿泊料金をまともに見ていなかったのである。
ただ、"本日限り25%OFF"の表記しか見ていなかったのである。
予約してしまったものは仕方がないし、他に泊まる所も無いので諦めて腹を括る僕であった。
係員の指示に従って車を駐車場に停め、エントランスを潜り抜けると今日見た古城の大広間のようなホールが広がっている。
「はははは……」
僕は力無く笑うのであった。
チェックインを済ませると部屋に案内してもらう。
ネットの表記通りダブルの2人部屋である。
ただ、部屋は最上階の角部屋で広く見晴らしが良い、内装はタイタニック号の一等客室のようである。
「これって、sweetじゃない?」
メリッサの一言に僕の心は凍り付く。
「まっ、たまにはいいんじゃないかなぁ〜」
僕の声が少し震えているのが自分でもわかる。
今から考えてみれば、あの頃にはもう相当な額のお金が僕の口座にあったのであるのだが、貧乏性の僕はそんな事を完全に忘れていたのである。
部屋の時計を見ると8時30分前である。
「シャワーでも浴びてくるわね」
「でも着替えが無いのよね」
メリッサは困ったように呟く。
「だったら、街に出て買ってこよう」
僕の提案にメリッサはニッコリと微笑んだ。
ホテルを出て通りに出ると多くの店舗が軒を並べている。
僕とメリッサは目に付いたショッピングセンターに入る。
営業時間が9時30分までなのに8時30分過ぎでも多くの人で賑わってる。
僕とメリッサは幾つかの店舗を回って服を買い求める事にする。
メリッサは色々と試着していたが結局はインディゴブルーのジーンズに白のTシャツを買うのであった。
今と殆ど同じである。
僕は、正直言ってメリッサは何でも似合うと思った。
本人は全く気付いていないようだが、元からスタイルがズバ抜けて良いので何でも着こなせるのである。
メリッサを見る店員さんの表情からもその事が容易に察しがついた。
それ故にメリッサの致命的なまでのセンスの無さが惜しまれて仕方がないのである。
因みに、僕も同じようなジーンズとTシャツを買うのであった。
僕を見た店員さんが最初に勧めてきた服が女の子用の水色のワンピースであった事は気にしないでおこう……
そして、次は下着であるのだが……
流石に僕は女性下着売り場には居づらい。
僕が女物下着売り場の前で躊躇していると……
「カネツグもくれば……」
メリッサは僕の手を掴むと下着売り場に入って行く。
「ちょっとメリッサってば……」
「流石にこれは道徳的に良くないのでは……」
焦る僕に構う事なくメリッサは色々と下着を物色している。
「これなんかどうかしら……」
メリッサは僕にフランスらしいド派手な透け透けの黒いブラとパンツのセット下着を見せる。
「そんなのわかんないよっ!」
恥ずかしくて堪らない僕を見てメリッサは意地悪そうに笑う。
「これもいいわね……」
下着を物色しているメリッサの傍で僕はボンヤリとしていると……
「お客さん、これなんかいかがですか?」
「きっとお似合いですよ」
若い女性店員さんがフリルの付いた可愛い白の下着を僕に勧めてくる。
唖然としてる僕を見てメリッサは笑いを堪えるのに必死になっている。
僕が手にしていた男性用のボクサーパンツに気付いた店員さんの何とも言えない複雑な表情が今も僕の脳裏に強烈に焼き付いている。
もう二度と女性下着売り場には近付かないと固く心に誓うの僕でであった。
後で考えるとメリッサは明らかに僕が女の子だと勘違いされる事を知っていて僕を下着売り場に引きずり込んだのではないのかと疑ってしまう。
それとなく聞いてみたら思いっきりメリッサの目が泳いでいるのがわった。
やはり、メリッサは確信犯であった。
メリッサは結構、意地悪な性格の女なんだなと思う僕であった。
その後、ホテルに帰ってシャワーを浴びて2人仲良くベッドに入る。
当然、一週間の間"お預け"だったメリッサは僕に擦り寄ってくるのだが……
僕は狸寝入りをして知らないフリをするのであった。
下着売り場での仕返しである。
我ながら性格が悪いと思ったのだがメリッサは長距離運転で疲れているだろと言うのが僕の本当の気持ちである。
その次の日の朝、メリッサの機嫌がすこぶる悪かったのは言うまでもない……。
因みに、宿泊料金は25%OFFでも2人で素泊まり日本円で込み約16万円であった。
後でホテルのサイトで調べて見ると僕達の泊まったホテルの部屋は有名人も宿泊した事のあるロイヤルスィートで通常料金は食事付きだと2人で一泊30万円以上する部屋であった。
普段なら、なかなか予約の取れない人気ホテルらしくラッキーだったと思う事にするのであった。
因みに、メリッサにはこの事は言っていない。
知ってしまうと気にするだろうし、なにより昨日の夜の事をぶり返し更に機嫌が悪くなるかもしれないからである。
そして、下手な事を言って"狸寝入り"がバレるのが心底恐ろしいからでもあり……
"美人は怒ると本当に怖い"からでもある。
〜 フランス・ノルマンディーの休日 ⑥ 〜
終わり




